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三菱電機、検査不正“当事者”が新社長就任、異常な社内の常識…想像絶する不正、発覚止まらず

  • 2021年9月16日
  • Business Journal

 三菱電機は7月28日、漆間啓専務執行役(62)を社長に昇格させた。不正検査問題を受けて杉山武史社長(64)は引責辞任し、取締役や執行役から外れ、特別顧問に退いた。柵山正樹会長(69)は留任した。

 漆間氏は1982年早稲田大学商学部を卒業し、三菱電機に入社。FA(ファクトリーオートメーション)システムや社会システム部門、欧州部門のトップを務めてきた。20年4月に代表執行役に就任、企画担当専務として、今年6月に発表した中期経営計画をとりまとめた旧体制のNo.2だ。

 漆間氏は記者会見を開き、「危急存亡の時。企業風土の改革を進めて新しい三菱電機をつくり、社会の信頼を取り戻すことが使命だ」と述べた。漆間新社長は「社内基盤が弱い」(関係者)と懸念されている。歴代社長は東大、京大、九州大など旧7帝国大の工学部系の出身者が大半を占めるが、「漆間氏は文系で早大商学部卒」(同)だ。

 不正は、長崎製作所(長崎県時津町)でつくる鉄道車両向けの空調設備や、ブレーキやドアに使う空調圧縮機の検査で発覚した。出荷前の検査で、顧客との取り決めたやり方と違う方法で検査したり、架空のデータを入力したりする不正が1985年ごろから続いていた。架空データを自動的につくる専用プログラムを使用していた。

 三菱電機では2018年以降、製品の品質データの偽装や検査の省略といった不正が今回を含めて計6件見つかった。再発防止に向け、社外の弁護士らによる調査委員会を設け、原因の究明調査を進め、9月中に調査結果を公表する。

 漆間新社長が就任した2日後の7月30日、三菱電機はホームページに「業務用空調・冷熱機器ご愛用のお客様へのお詫びと点検のお知らせ」と題する文章をアップした。冷熱システム研究所(和歌山市)が製造したビルや店舗などの大型施設に使われる業務用空調について、最終検査工程に使う装置が断線による故障で正常に作動していなかった。

 こうした不備が起きていた期間は14年6月から21年7月までの7年間。対象は578機種4万338台に及ぶ。うち27機種2430台は、電気用品安全法が定める検査ができていなかった。

 8月17日には受配電システム製作所(香川県丸亀市)が製造する配電盤(ガス絶縁開閉装置)で検査の不正を行っていたことが発覚した。配電盤は電流の開閉を行う装置で変電所などで使われる。検査前の検査を一部省略したり、顧客の要求とは異なる方法で実施したりしていた。対象となったのは1996〜2021年に出荷した4529台。国内外の官公庁や鉄道会社など490社・機関に納入してきた。主要駅や発電所、工場などで使われている。

「安全性に問題はない」を繰り返す

 6月に発覚した品質不正問題を受けて社内調査を進めるなか、従業員からの申告で新たな不正が判明した。7月に設置した弁護士などによる調査委員会が調査を引き継ぐ。9月1日、広島県福山市の工場で製造する遮断器について、安全性を認証する第三者機関による検査時に不正行為があったと発表した。約16年間にわたり、定期検査で実際とは異なる部品を使ったり電圧を低くしたりしていた。

 漆間新社長が就任した7月28日以降、新たな不正が明らかになるのは3件目。不正の連鎖は止まらない。検査の不正を行っていたのは福山製作所で製造する低圧遮断器。ショートや落雷で電圧が急上昇した時に電流を遮断するブレーカーだ。対象となる製品は産業機械向けで国内外に243万台出荷された。今回も、また三菱電機は「安全性に問題はない」と主張している。

 7月20日に社内調査で不正が発覚したが、発表は9月にずれ込んだ。タイムリーディスクロージャーの姿勢からは程遠い。社長直轄の品質保証部門を新設するとしているが、それ以前にやるべきことがある。

 三菱電機は8月23日、配電盤での不正検査が明らかになった受配電システム製作所について、品質管理に関する国際規格「ISO9001」の認証が同日付で一時停止されたと発表した。認証の停止で、一部の入札案件に参加できなくなる懸念がある。官公庁などではISOの取得を入札の条件としている場合がある。鉄道車両向け機器の不正が発覚した長崎製作所でも7月下旬から同認証が停止されている。

隠蔽体質を改革できるのか

 鉄道機器の不正検査は35年前に遡る。35年前は、社長を10年、会長を5年務め、三菱電機の“中興の祖”と呼ばれた進藤貞和氏が代表権を持つ名誉会長の時代だ。「腐敗の根っ子は進藤貞和氏の時代に芽生えた」という、根本問題にかかわる指摘がある。

 進藤氏は父が海軍軍人だったため広島県呉市に生まれ、長崎県と高知県で育った。1933年九州帝国大学工学部電気科を卒業、34年三菱電機に入社。重電部門一筋で長崎製作所長を歴任し、70年社長に就任した。強烈なリーダーシップを発揮し、殿様商売といわれた三菱電機のイメージを一掃。神奈川県・鎌倉市に人工衛星の工場を建設し、宇宙開発事業の礎を築く。80年会長に就任、実力会長といわれ、85年には三菱グループでは前例のない代表取締役名誉会長に就任している。

 進藤氏が所長を務めていたこともある長崎製作所での不正は、少なくとも85年ごろから2020年まで行われていた。顧客が指定する試験は手間暇がかかるため、三菱電機側が定めた条件で一律的に検査し、事後に数値を偽装してつじつまを合わせてきた。

 不正検査は三菱電機の閉鎖性に原因があるといわれている。内に閉ざされがちな企業組織では、往々にして「世間の常識」とは異なる「社内の常識」というものが存在する。加えて、財閥系大企業は終身雇用のため社内に他の会社の常識を知る人が少なく、その閉鎖性ゆえに誤った「社内の常識」がまかり通るようになる。「社内の常識」が「世間の常識」と乖離している場合、あらゆる事象の判断プロセスに今までとは異なる具体的な対応が求められる。社外取締役の厳しい目を加え、「社内の常識」に染まっていない外部のやり方を根付かせることが必要になるが、三菱電機の社外取締役は就任してからの期間は軒並み長いのだが、心もとない。

 新たな経営体制である漆間体制になっても「隠蔽体質は変わらない」との批判の声が上がる。新社長に就任した漆間氏は経営企画を担当してきた事実上のNo.2。17〜20年には、鉄道用装置の検査不正を起こした部門の事業担当を務めていた。「工場長などの現場責任者じゃない」(社外取締役で指名委員会委員長の藪中三十二氏=元外務事務次官)というのだが、本来なら責任を問われてもおかしくない立場の人である。こういう属性の人が社長になるのは、普通では考えにくい。

 社長交代に伴う企業としての責任の取り方も限定的だ。柵山会長は留任し、杉山氏も社長を辞任したとはいえ特別顧問の座にとどまっている。野間口有・三菱電機特別顧問が発明協会の会長に居座り続けていることに対する批判もある。野間口氏は柵山氏の前任の山西健一郎氏の前の前の社長である。1992年に社長に昇格した北岡隆氏以降、谷口一郎、野間口有、下村節宏、山西健一郎、柵山正樹の5人の社長が、きちんと任期4年でバトンタッチしてきた。

 発明協会では中嶋誠副会長・専務理事(元特許庁長官)が経営破綻したジャパンライフの顧問をしていたことの責任を取り辞任しているが、野間口氏は居座りを決め込んでいる。三菱電機の歴代トップは社会的責任を取ることとは対極の立場にあるのだ。

 9月中に弁護士や大学教授からなる調査委員会が報告書をまとめる。その調査結果を踏まえ、社外取締役が柵山会長ら歴代トップの責任にまで踏み込むことができるのか。調査結果の公表を踏まえた体制の刷新が三菱電機再生の第一歩となるはずだが、聞こえてくるのは「体制の刷新は無理」という声ばかりだ。

(文=編集部)

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