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サントリー、死角なき“着実”経営の研究…好調支えるマーケティング&買収・提携戦略

  • 2021年9月5日
  • Business Journal

 緑茶の「伊右衛門」など清涼飲料水を販売する、サントリー食品インターナショナルが1〜6月期の業績を発表した。営業利益は前年同期から69.1%増加の604億円だった。それは2019年上期の営業利益(509 億円)を上回った。同社の収益力は強化されている。

 その背景には2つの重要な要因がありそうだ。1つ目は、国内清涼飲料水市場でのマーケティング戦略がある。2つ目は、欧州やアジア新興国市場など海外市場での買収および提携戦略だ。1〜6月期の業績回復はこの2つの要素がうまく機能したことに支えられている。

 今後の展開を考えた時、世界経済全体で健康への意識は高まるだろう。それに加えて、世界各国の政府や企業は、気候変動や環境問題にもより強く取り組まなければならない。健康と環境の両分野でサントリー食品がどのようにマーケティング、および買収・提携などの戦略を実行するか、注目が集まるだろう。

国内清涼飲料水市場でのマーケティング戦略

 2021年1〜6月期、サントリー食品の国内の売上収益は前年同期比0.2%減の2,980億円だった。その一方で国内事業の利益は増加した。その背景には、コストの削減に加えて、同社のブランド戦略がある。

 サントリー食品は「サントリー天然水」、コーヒー飲料などの「BOSS」、緑茶の「伊右衛門」、「GREEN DA・KA・RA」など有力なブランドを持つ。現在、ブランド販売数量全体の65%を天然水、BOSS、伊右衛門が占める。注目したいのが、国内での販売数量全体が回復するなかで、天然水と伊右衛門の販売数量の伸びが顕著なことだ。

 それを支えるのが、高付加価値を目指すブランド戦略だ。例えばサントリー食品は「南アルプスの天然水&ヨーグリーナ」のように、天然水に新しい価値を付加して競合商品との差別化を徹底し、顧客の支持を得た。同じことは、「特茶」や「京都の高級なお茶」というイメージを持つ伊右衛門にも当てはまる。

 また、わが国では人々の健康への意識が高まっている。特に、コロナ禍の発生によって健康に気をつかう人はこれまで以上に増えただろう。カロリー摂取を控える人の増加によって、代替肉への需要が高まっていることは顕著な変化だ。健康意識の高まりは、天然水や緑茶飲料への需要を高め、新しい体験を提供してきた天然水と伊右衛門が特に強く支持されたと考察できる。

 以上をマーケティング理論の5Aから分析すると、消費者(顧客)はテレビコマーシャルなどでサントリー食品の清涼飲料水の存在を知り(認知=Aware)、天然水や伊右衛門など特定のブランドに関心をもつ(訴求=Appeal)。その上で重要なのが、今日の消費者はSNSによって多種多様な情報に触れることだ。消費者は自分が気に入ったブランドを周囲がどう評価しているかをSNSなどで調べ、天然水や伊右衛門の良さを確認する(調査=Ask)。良いと確信が得られれば消費者はそのブランドを買い(行動=Act)、再購入し周囲に「これは良い」とSNSで発信する(推奨=Advocate)。サントリー食品はブランド戦略の強化によって健康を大切にしたい顧客の共感を獲得したと評価できる。

業績回復を支える海外の買収と提携戦略

 1〜6月期、国内事業の売上収益が微減であったのに対して、海外事業は売上、利益ともに増加した。その背景には、同社が海外事業の買収や有力企業との提携によってプロダクト・ポートフォリオを強化し、競争力のあるブランドを整備してきたことがある。

 1980年代から同社の親会社であるサントリーは海外での清涼飲料水事業の買収を進めてきた。米ペプコム(ペプシ系のボトラー企業)の買収をはじめ、2000年代に入るとエナジードリンクなどを手掛けるニュージーランドのフルコア、2009年には約3000億円でフランスのオランジーナ・シュウェップス・グループを買収した。2011年にはインドネシアでも買収を行っている。買収や提携によってサントリー食品はローカル市場で人気のあるブランドを補完し、それに加えて自社開発した商品を投入することで国際競争力を高めている。

 地域別に収益動向を確認すると、アジアパシフィック事業および米州事業は安定的に成長を実現している。感染の影響によって欧州の収益環境は不安定だが、買収によって取り込んだブランドはしっかりと競争力を発揮している。その結果、各地域における主要ブランドは、数量ベースで見た各地域の清涼飲料水市場の成長率を上回っている。

 見方を変えれば、企業に求められることは、各地域の消費者の好みをしっかりと認識し、価値観にあった商品開発やブランド戦略を強化することだ。国内市場であれば消費者の好みは把握しやすい。しかし、海外では言語や文化の違いなどもあり自前での対応にはコストがかかる。競合相手に先駆けてブランド競争力を持つ企業を買収したり、提携したりする意義は大きい。その考えをサントリーおよびサントリー食品は着実に進めてきた。

 例えば、サントリー食品のタイ事業ではペプシコとの提携の下で販売されている「ペプシ」ブランドが人気だ。その一方で、ベトナムではサントリー食品が開発したウーロン茶の「TEA+(ティープラス)」ブランドが人気を得ている。ベトナムではペプシコのエナジードリンク「スティング」も人気を得ている。

世界的に重要性高まる健康と環境

 今後の展開を考えた時に重要なのが、世界的な健康と環境への意識の高まりだ。健康への意識への高まりに対応するために、米ペプシコは、オレンジジュースなどで人気を得てきた「トロピカーナ」など北米ジュース事業を 約33億ドル(約3600億円)で投資ファンドに売却する。ペプシコは米国でのトロピカーナの販売権を維持しつつ、得られた資金をカロリーゼロの飲料開発や買収に充てるだろう。経済成長によってアジアなどの新興国市場でも健康によい清涼飲料水を買い求める消費者は増えるだろう。

 もう一つが気候変動への対応だ。地球温暖化問題は専門家の想定を上回るペースで進んでいる。マイクロプラスチックによる汚染も深刻だ。それらの問題に対応するために、米国の新興企業であるテラサイクルが運営するリターナブル容器などの利用サービスであるLoop(ループ)事業が注目を集めている。気候変動や環境問題への対応強化は企業イメージの向上に不可欠だ。

 以上をもとにサントリー食品の事業展開を考えると、まず人々の健康への意識の高まりを収益につなげるために、研究開発と事業ポートフォリオの入れ替えの重要性が増す。海外でのブランド戦略の強化のために、買収と提携戦略も強化されるだろう。ペプシコがベトナム事業などでサントリー食品と提携した背景には、緑茶飲料など同社の強みを取り込む狙いがある。世界的な健康への意識の高まりはサントリー食品にとってビジネスチャンスの拡大といえる。

 環境面に関して、国内外で同社はリサイクルペットボトルなどのサステナブルボトルを導入し、再生可能エネルギーを用いた生産体制の強化にも取り組んでいる。それに加えて、中長期的には、カーボンニュートラルを目指した物流網の確立、リターナブルな容器を用いた清涼飲料水の販売やサブスクリプション事業など、多様な展開が想定される。いずれも、「サントリー食品は健康と環境を重視している」という企業イメージの強化につながるだろう。健康によい高付加価値型の商品開発を進めて収益を獲得する。その上で、マーケティング戦略や、気候変動および環境問題への取り組みを強化するためにサントリー食品がどのように経営資源を再配分するかに注目が集まるだろう。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

●真壁昭夫/法政大学大学院教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。

著書・論文

『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)

『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)

『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)

『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)

『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。

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