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IHI、三菱重工、日本製鉄…日本の重厚長大型企業のCO2削減技術、世界で重要度高まる

  • 2021年4月12日
  • Business Journal

 最近、世界各国が、より持続的な経済成長を目指して“グリーン・リカバリー政策(環境関連の投資によって環境問題の解決と経済成長を目指す政策)”を重視している。そうした政策は、ある意味、IHI(旧石川島播磨重工業)など日本の重厚長大型の企業が、循環型の社会・経済運営を支えるインフラ企業への変身を目指す好機だ。

 特に注目したいのが、二酸化炭素(CO2)を回収し、資源として活用するための技術だ。CO2を回収するだけでなく、エネルギー源などとして活用することが増えれば、環境への負荷は軽減される。それは、カーボン・ニュートラルの実現に不可欠な要素だ。

 CO2の活用技術の多くは、実証段階にある。より効率的なCO2の排出削減、回収や有効利用は世界各国が重視し始めた水素利用にも欠かせない。脱炭素(CO2の排出削減、回収、貯留、利用)を支える技術開発の加速は、IHIなどがより安定した収益基盤を確保し、さらなる成長を目指すことに寄与するだろう。

世界的に注目高まるグリーン・リカバリー政策

 各国政府が重視するグリーン・リカバリー政策のポイントは、水素など“カーボン・フリー”なエネルギーの利用を支えるインフラ投資などを行い、雇用を創出して資源が循環する、より持続性の高い社会と経済の運営を目指すことにある。そのために、水素の生成過程などで排出されるCO2の回収と利用を支える技術への注目が急速に高まっている。

 忘れてはならない点は、特定のエネルギー資源やモノの生産段階だけでなく、世界のサプライチェーンを包摂した観点でCO2排出を削減することだ。例えば、石油や石炭と比較した場合、天然ガスは燃焼時のCO2排出量は少ない。それに加えて、液化天然ガス(LNG)の生産、運搬などサプライチェーン全体でのCO2削減が欠かせない。エネルギー源を輸入に頼る日本にとって世界のサプライチェーン全体の視点からカーボン・ニュートラルの実現を支える技術を開発して実用化することは喫緊の課題と化している。

 2021年の年初来の株価の推移を確認すると、IHIなど日本の重電関連や鉄鋼関連などの株価は上昇基調だ。世界的なカネ余り(低金利環境)の継続とワクチン接種による世界経済正常化への観測に加えて、IHIなどが脱炭素関連の技術開発を進めていることが、中長期的な成長への期待を高めている。見方を変えれば、各国がグリーン・リカバリーへの取り組みを強化する状況下、日本の重厚長大型企業が環境関連技術の開発を加速し、収益力を強化する展開を想定する投資家は増えつつある。

 その一方で、海外企業の中には、世界的な脱炭素化という事業環境の変化が逆風になっているケースがある。その一つが米ゼネラル・エレクトリック(GE)だ。GEは製造業への回帰を掲げて事業ポートフォリオの組み換えを進めようとしている。ただし、同社にとって選択と集中を進めることは容易ではないように見える。コロナショックによる航空機エンジン部門の収益悪化などによって、GEは人員削減などのコスト削減によって生き残りを目指しているというべき状況だ。

IHIが進める脱炭素技術の開発

 具体的に、IHIが進める脱炭素に関する取り組みを確認しよう。それはCO2の排出削減、回収と貯留、および資源としての利用の3つに分けて考えるとわかりやすいだろう。

 まず、排出削減に関して、2012年、オーストラリア、クイーンズ州にあるカライド発電所において同社は、酸素を用いて石炭を燃焼させる酸素燃焼プロセスの実証実験を世界で初めて行った。酸素燃焼技術は、既存のボイラにおけるCO2排出を削減するための技術として注目を集めている。

 次に、CO2の回収と貯留に関して、同社はアルカリ性水溶液を用いたCO2の回収装置の実証運転を行い、回収されたCO2を地中に貯留する技術開発に取り組んでいる。CO2の回収・貯留プロセスでは、吸収液とCO2の解離に必要なエネルギーコストが、全体の約半分を占めるといわれている。IHIはエネルギーコストの低減に取り組み、CO2回収技術の実用化を目指している。CO2の排出削減と回収・貯留に関して、IHIが既存の社会インフラや設備の利用を念頭に置いていることは、実用化を支える要因となるだろう。

 IHIはCO2を炭素源として使い、燃料や化成品などの有価物に変換し活用する技術(CO2の有価転化技術)の開発にも取り組んでいる。なぜなら、CO2の地下貯留に関しては、そのコストに加えて地域社会からの理解など不確定な要素があるからだ。

 CO2の有価転化技術の一つとして、IHIはCO2と水素を合成してメタンガスを生成する技術を開発している。理論上、その技術を用いることによって、既存のガス供給網を用いてCO2の排出削減を目指すことができる。また、IHIはCO2をプラスチックなどの原料に変換する技術の開発にもとり組んでいる。

 問題は、CO2を用いたメタンガス生成(メタネーション)のコストが、天然ガスを上回ることだ。その要因の一つは、水素生成コストにある。その問題を解決するために、IHIは再生可能エネルギーを用いた水素生産の実証事業に取り組んでいる。以上をまとめると、IHIは炭素資源が循環して活用される“バリューチェーン”を支える中核的企業としての存在感発揮を目指している。

重厚長大型の企業にとって大きな成長のチャンス

 世界全体で進む脱炭素、水素社会への取り組みは、IHIが循環型の社会インフラ事業を育成・強化し、新しいビジネスモデル確立を目指すチャンスだ。その考えに基づいて、IHIだけでなく、三菱重工や東芝などもCO2の回収、貯留、利用に関する技術開発に取り組んでいる。また、製鉄分野では日本製鉄やJFEスチール、神戸製鋼所などが水素還元製鉄の技術確立を目指している。その他、わが国にはCO2を活用したコンクリート製造に取り組む企業もある。

 やや長めの目線で考えると、日本の重厚長大型の企業にとって脱炭素を支える技術の重要性は高まるだろう。IHIなどに求められる取り組みは、より低コストでCO2の排出削減、回収や有価転化を行う技術と水素の生成技術の実現を目指すことだ。そのために、IHIなどは脱炭素や水素に関する実証実験などをより大規模かつ迅速に進め、その技術の優位性を世界に示さなければならない。

 なぜなら、今後、世界全体で環境関連技術をめぐる競争は激化する。中国政府は産業補助金政策によって脱炭素と水素利用に関する分野での企業の成長と価格競争力の発揮を重視している。気候変動問題の解決などに向けてCO2の回収、利用、および水素利用技術の重要性は高まる。米中対立、あるいは技術競争に、気候変動に関する分野が加わる可能性は軽視できない。米中が気候変動などで協力を模索すると論じるのは早計だろう。

 脱炭素などに関するわが国企業の取り組みは、世界に先行してきた。例えば、化石燃料の酸素燃焼プロセスは日本が発案したものとされる。IHIなどはそうした独自の技術をCO2の回収技術と結合し、炭素源としての有効活用を目指している。水素社会の実現のためにもCO2の有価転化技術の重要性は高まる。そのための取り組み強化によって、わが国企業がさらなる成長を目指すことは可能と考える。IHIをはじめ、日本の重厚長大型企業のトップが選択と集中を進めて、脱炭素や水素関連技術の開発など成長期待の高まる分野での事業体制を強化する展開を期待したい。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

●真壁昭夫/法政大学大学院教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。

著書・論文

『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)

『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)

『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)

『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)

『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。

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