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月間500件、相談殺到のキャスティング会社…芸能事務所や広告代理店と異なる多彩な人材

  • 2020年10月28日
  • Business Journal

 今年1月下旬、東京都内に本社を持つ会社の社長と会い、業務内容を聞いた。芸能系のキャスティングや人材紹介事業を手がけ、業績はこの4年で4倍以上に拡大したという。取り扱う案件はユニークで、後述するが創業社長のビジネス人生にも興味を持った。

 だが、間もなく新型コロナウイルスが日本国内を直撃。各企業が厳しい経営の舵取りを強いられた。通常であれば開催されたはずの「企業の発表会」や大小の「イベント」が中止・延期に追い込まれ、芸能人や文化人、エンタメ関係者も活躍の場を奪われた。春や初夏のような状況ではないとはいえ、コロナ禍が続く現在、同社はどうしているのか。9カ月ぶりに社長を取材すると、意外な展開となっていた。

 今回は、人材開発における「雇用の流動化」や「働き方改革」の視点でも紹介したい。

大型案件は減ったが、月間500件の相談を受ける

「コロナ禍で以前のような大型案件は減りましたが、小型案件が非常に多くあります。広告代理店や企業、団体、個人から月間約500件の相談を受け、約120件を実施しています」

 株式会社エイスリー(A3)の山本直樹社長は、こう説明する。山本氏が語る「大型案件」とはプロモーション予算全体で1億円超、「小型案件」は同数百万円規模だという。

 まず、近年の同社の業績と営業利益を紹介しておこう。
※売上高と営業利益
2015年9月期:2億2200万円、1000万円
2016年9月期:3億300万円、1300万円
2017年9月期:5億8600万円、7700万円
2018年9月期:9億5400万円、6700万円
2019年9月期:13億1600万円、1億1800万円
2020年9月期:14億6600万円、6700万円
(出所:同社の発表資料より)

「当社は『世界の才能をつなぐ』を掲げ、タレントや俳優、モデルから、アーティスト、アスリート、文化人、専門家、ユーチューバー、インフルエンサーなど、大手芸能事務所や広告代理店系では手が回らない、多彩な人材のキャスティングをしてきました。今期の業績は増収を確保しましたが、コロナの影響により減益となっています」(同)

 提供する人材の幅の広さも特徴なのだ。たとえば、2019年10月から展開されたマルハニチロの新企業CM「つづく、幸。バリューチェーン編」では、出演者をキャスティング。CMでは完全養殖のマグロを紹介しつつ、寿司店でマグロを握って提供する寿司職人も登場する。職人役は俳優ではなく、高級寿司店の料理長を直々にスカウトしたという。

「寿司ネタを扱うシーンはリアリティが求められるため、この手法を採用しました。エキストラやナレーターのキャスティングも当社で行っています」(同)

 本稿では、こうした人を含めて「有能人」の視点で紹介したい。

広告・キャスティングで起きた「3つの変化」

「企業」(団体を含む)と「有能人」をつなぐ業界の変化を山本氏は、こう説明する。

「相談案件の中身が変わったのが最近の特徴で、その構造変化は3つに整理できます。『(1)デジタルが主流の時代』『(2)新しいジャンルの“タレント”が急増』『(3)クライアントのニーズの変化』です。以前からの傾向でしたが、コロナ禍で一気に加速しています」(同)

 具体的に、どう変わったのか。山本氏が続ける。

「(1)は、訴求でデジタルを絡めるのが一般的となり、同じ素材でもテレビCMとウェブでは別々の切り口で制作する例が増えています。また(2)の“タレント”は、事務所に所属しないで個人で活躍する人や、インフルエンサーの取り扱い実績が豊富なUUUMのような事務所が台頭しています。(3)ではSNSを重視する企業が多く、届けたい相手に届けたい情報を、と要請が細分化されてきました」(同)

 実は今回、山本氏に会う前に筆者が気になって視聴していたのも、「UUUM GOLF」というコンテンツだった。

人気を呼ぶ「ツール」も「起用法」もさまざま

 きっかけは「最近、ゴルフ場やゴルフ練習場に若い世代が増えた」というニュースだ。情報を調べるうちに「UUUM GOLFが貢献した」という声もあり、YouTubeを視聴。UUUM GOLFチャンネルに登場する「なみき」という女性MCの存在も気になった。

 コンテンツによって内容が変わるが、20代の彼女がプロのレッスンを受けてスイングすると、飛距離やアプローチが一気に上達するという内容が多い。

「なみき」の本名は糸井なみき氏(1995年生まれ)で、UUUMの社員だ。エイスリーは同社とも取引がある。本人を知る山田愛実氏(デジタルキャスティングユニット責任者)は、こう説明する。

「学生時代にアイドル活動もした後、UUUMでインターンとして働いている時、UUUM GOLFチャンネルのMC役に抜擢されたそうです。ゴルフ経験はなく、同社社長と席が近くて白羽の矢が立ったとか。登場すると人気が高まり、現在ではユーチューバーとして活動しつつ、普段は同社で企画業務をしています」

 ゴルフ練習場で若い女性が練習していると、“教えたいオーラ”を出すアマチュア男性ゴルファーは多い。プロのレッスンを受けながら結果を出す「なみき」に、視聴しながらその思いを投影する男性視聴者は多いのではないか、と感じた。

 この例のように、出演者の起用手段も変わった。前述の寿司職人もそうだが、共通するのは「普通っぽさがあり、その役割の適任者」が求められていることだ。コスプレイヤーや筋肉自慢のようなタイプも人気を呼ぶ時代。ツールや手法も多様化している。

雑草的な活動で得た「自分の強み」

 2008年に設立し、現在は従業員47人(単体。2020年9月末現在)を抱えるエイスリーを創業した山本社長の経歴はユニークだ。独自で道を切り拓き、現在の社業に結実させた。

 兵庫県神戸市出身の同氏は、パイオニアLDC(現NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン)で宣伝業務を担当。ホリプロに転職後は、アーティスト担当や同マネージャーを務めた後、IT系に移り、営業、広告開発&広告営業などを行った後、起業した。

 山本氏は「正規ルートでの就職でなく伝手を頼って求職し、芸能界とデジタルマーケティングの経験を積んできた」と話し、自身のビジネス人生をこう振り返る。

「もともとベーシストを目指し、東京の音大に入学しましたが、熱心に練習することもなく、就職活動もほとんどしませんでした。卒業後はバンド仲間の実家の沖縄・宮古島に行ったり、レコード会社でバイトをしたりの生活を続け、一度、神戸に帰省しました」(山本氏)

 転機は1995年に起きた阪神・淡路大震災で、働くことを決意。音楽業界に電話をかけまくり、アルバイトとなる。その伝手でパイオニアLDCの大阪支社で契約社員となり、東京転勤も果たした。その後、同社の業績不振でホリプロを紹介してもらい、入社し8年働く。マーケティングに興味を持ち、デジタルガレージに転職する。

「特別のITスキルがないので、問い合わせフォームに『働きたい!』と連絡してみたら採用。とはいえ、入社後は営業の仕事で、2年目からウェブマーケティングを学ぶことができ、さまざまな経験が増しました。振り返ると、新しい手法は好きだけど、手がけたタレントは売れなかった。『自分でできない部分は他人の力を借りる』ことも学びました」(同)

 カッコよくない部分も“さらけ出せる”のは強みで、これが大手との差別化につながったのだろう。高偏差値大学→大手企業出身では、現在の社業の発想はなかなか出てこない。

今後の課題は「リスクマネジメント」

 デジタル化が進むなかで、個人の情報収集における興味・関心も多様化した。

「若い世代は、テレビを観る感覚でYouTubeを観ています。最初は自分に興味があるコンテンツを視聴していても、再生回数1000万回超のような人気動画があると気になって訪れます。時代を超えて、昔のアイドルや生活に興味を持ったり、異色の動画にハマったり。そうした多彩な層への届け方は日々学んでいます」(山田氏)

 今回紹介したように、著名人以外の情報発信力・影響力が拡大する時代。一般人の可能性も広がるが、個人での発信が増えれば増えるほど、リスクマネジメントも重要になる。

「社会経験が少ない人には、各担当者が現場での立ち振る舞いを説明することもします。当社での教育とともに、危機管理の共有も大切。クライアントに対しては、『この場合はこんなリスクが考えられます』と、事前に説明することもあります」(山本氏)

 これまでもアイドルグループが発信前に解散して、冷や汗をかくことがあった。事例が発生すると、徹底的に対応するので対応能力も磨かれ、その良い経験・苦い経験も「知見」となる。最近は反社会的・反市場的勢力排除への取り組みも進めている。

 長年、企業や企業人を取材してきた筆者は、今後は「多くの会社員が“業務委託契約”で働くような存在」となり、「組織にいてもフリーランス意識が高まる」と感じている。

 キャスティングや人材派遣の業界にかかわらず、自社で抱えたがらない時代。「有能人」を「必要な時」に――という構図を俯瞰すると、別の未来像が見えてきそうだ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。 近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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