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税金でつくった厚労省・献血PR「けんけつちゃん」、“電通が権利所有”で使用できない問題

  • 2020年10月10日
  • Business Journal

 警視庁の「ピーポくん」、総務省の「センサスくん」……そんな巷にあふれる公的機関のマスコットキャラクターの著作権者は、誰しも担当する省庁が持っていると思うだろう。

 ところが、日本赤十字社が全国の献血カーや献血ルームなどで用いている厚生労働省の献血推進キャラクター「けんけつちゃん」の著作権の一部が電通にあり、使用の際には電通に「お伺いを立てなければならない」という驚くべき事実がわかった。

 一般的に公共機関のマスコットキャラクターに関する権利は各省庁や自治体が所持している。だから使用したい場合、各省庁に許可を求めるのが筋だろう。そもそも作者が誰なのかにかかわらず、国民の税金によって作成されたキャラクターなのだから、公共の福祉に則った宣伝活動に使うのに、一部の企業から制約を受けるのは不可解だ。いったい何がおこっているのか。関係者に話を聞いた。

京まふ献血カーでのコラボクリアファイル配布に「待った!」

 事の発端は、今年9月に京都市で開かれた京都国際マンガ・アニメフェア(京まふ)での日本赤十字社京都府支部の企画だった。同企画は「赤月ゆに×京都赤十字コラボ開催中」と銘打ち、会場に駐車した献血カーで、吸血鬼Youtuber赤月ゆにさん(ゆにクリエイト所属)と、けんけつちゃんのコラボイラスト入りのクリアファイルを無償配布しようというものだった。(以下、動画参照)

 赤月さんは、これまで日本赤十字秋田県支部、同京都府支部で献血キャンペーンコラボを実施し、人気を博していた。しかし、けんけつちゃんを入れたコラボイラストのグッズ製作は今回が初の試みだったのだという。当初、企画は何事もなく進行していたのだが、ラフイラストが完成した時点で、赤十字の担当者が突如として「けんけつちゃん」のイラストに関し「電通への確認が必要」などと言ってきたのだという。この結果、赤月さん側は修正作業に追われ、並行して用意したYouTube上の献血PR動画も一時削除する事態に追い込まれた。赤月さんが所属する、ゆにクリエイト担当者は次のように一連の経緯を激白する。

ゆにクリエイト担当者の激白

 弊社としてはこれまで、秋田赤十字さんとのコラボを1回、京都赤十字さんとのコラボを1回とやってきました。今回のコラボは計3回目です。先方の担当者は前回の京都赤十字さんコラボの際と同じ方でした。京都赤十字さんとのコラボは1年前の9月21〜22日、京都国際マンガ・アニメフェアで献血推進PRの企画の依頼があったのが発端でした。うちの赤月のイラストが掲載されたクリアファイルがかなりの枚数出たそうです。そのために昨年秋頃、「また第2回をやりたい」というお話を頂きまして、次は献血カードを入れるパスケースを制作するということで見積もりもさせていただき、今年の3月に実施する予定だったんです。

 ところが、漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』(作・丈、KADOKAWA)の炎上事件(日本赤十字社が献血推進PRで同コンテンツとコラボした際、『ポスターイラストの宇崎ちゃんの胸が大きすぎる』『女性を性的なモノとして蔑視している』などとインターネット上で批判が殺到した)があり、京都赤十字の担当者から「この件からの影響がないとは言えない以上、一度コラボは白紙にさせてほしい」などと一方的な通告を受けて、延期になりました。

 赤十字さんとの案件では印刷所の選定や入稿・納品まで弊社側で行うこととなっており、イラストレーターのスケジュール調整など含め制作準備に入っていたので、突然のキャンセルが痛くなかったかと言うと嘘になります。案件が白紙になったこと自体を弊社の赤月が動画にして、タダでは起きなかったのが唯一の救いでしたが。

 結局その後『宇崎ちゃん』は第2回コラボを実施し、アニメも放映され、我々が飛ばされたのはなんだったのだろうという感じでした。そして、今年の夏前に「ようやくほとぼりが冷めたので」とまた依頼があったのです。

 オファーの内容は「1年ぶりに前回みたいな感じでやっていただけないでしょうか」という感じでした。新型コロナウイルス感染症の蔓延で「血も集まりにくいだろうな」と思っていましたし、弊社としてもなにか社会貢献をしたいと思っていたので、お受けすることになりました。

 当初、「イラストはお任せします」という感じでした。

 イラストを発注する本職の方でもないので、仕様書等が用意してもらえないのは致し方ないところはあるのですが。そしてその時に、「けんけつちゃんを(コラボイラストに)出して」と言われたのです。

 ただ、ひとつ懸念がありました。というのも、以前に秋田赤十字さんとコラボさせて頂いた際、「けんけつちゃんは日本赤十字本社が版権を持っているので、もしイラストに使用する場合は確認作業が手間取るかもしれない」と言われ、けんけつちゃんのイラスト掲載を見送りにしたことがあったためです。

 そこで、京都赤十字の担当者の方に「難しいと聞いていたのですが大丈夫ですか?」と問い合わせたのですが、「大丈夫です」とおっしゃっていただいたので進行することになりました。

「けんけつちゃんはこの表情をしていない」

 相談の結果、うちの赤月がベンチに座り、けんけつちゃんがその横にいて、蝙蝠のむにがけんけつちゃんの耳に掴まっているという構図になりました。そして、ラフを用意させて頂き、京都赤十字さんに送らせて頂いて、「これで進行はいかがですか」と返事を待っていたら、先方から驚きの要望がきたのです。

「けんけつちゃん、電通の本家と同じタッチと色で描けませんか」

 まず、指摘されたのがけんけつちゃんの表情でした。イラストではむにが、けんけつちゃんの耳にしがみついているので、けんけつちゃんが驚いた表情をしていました。これに対して、先方は「けんけつちゃんはこの表情をしたことがないので、驚きの顔を描いてよいかどうかを電通に確認しなくてはいけません」「電通と同じ塗り、同じタッチにはできませんか」と指摘してきたのです。

 驚きました。

 すべて指示通りにすれば明らかにシールを張り付けたような統一感のないイラストになってしまうでしょうし、イラストレーターさんも「まったく同じタッチというのは何を指しているのかわからない」と困っていました。そうこうしているうちに、先方から「けんけつちゃんを消してください」と言われたので、絵に謎の空間ができてしまいました。

 謎の空間ができてスカスカだから、「(むにの)首から看板を下げさせてください」と言われ、その通りに仕上げ、最終的に何とかコラボクリアファイルを完成させることができました。

 一連の騒動で疑問に感じたのは、そもそもなんで突然、電通さんがこの件に出てきたのかということです。けんけつちゃんは厚生労働省のホームページに「Copyright 🄫 2008 Ministry of Healtn, Labour and Welfare, All Rights Reserved.(全著作権所有 厚生労働省)」と記載されています。仕様や使用に関して、厚労省にお伺いをたてるのならわかりますが、電通さんにお伺いを立てなければならないのはなぜなのでしょうか?

 もちろん、著作権自体は譲渡できますが、その場合は著作者人格権(こちらは譲渡できません)について「行使をしません」という契約書を結ぶことが一般的です。

 例えば、スマホゲームのシナリオなどは、ほぼ必ず「著作者人格権を行使しません」と書かされますが、これは細部の修正や変更について「僕の作ったキャラはこんなこと言わない」「勝手に改変をされた」などとライターが暴れ出したりすることへの防御の意味合いがあります。大きな金額の絡む制作・運用が一人の乱心で止まってしまうと大変なので。

 では今回、「全著作権所有」されているはずの厚生労働省が電通にお伺いを立てているのは、電通との間で著作者人格権の行使をしない旨を取り決めておらず、行使の可能性があるということなのでしょうか。わけがわかりません。

 一連の作業で、弊社は少なからず時間を割かねばなりませんでしたが、一度白紙になった際の作業やラフイラストのリテイクに関する追加の経費は一切いただいておりません。そうしたことにお金がかかるという発想自体がないのか、最初に稟議を通した金額から変えられないことになっているのかはわかりませんが……。

 ちなみに京まふは終わりましたが、四条・伏見大手筋など京都府内の献血バスではまだクリアファイル配布中とのことです。みなさん、引き続き献血にご協力ください。

権利がどうなっているのか厚生労働省に聞いてみたら…

 一連の激白を受け、当サイトは厚生労働省にけんけつちゃんの権利がどのようになっているのかを聞いた。厚生労働省医薬・生活衛生局血液対策課献血推進係の担当者は以下のように話す。

「電通が権利をもっているので、基本的には無断使用が禁じられているんです。国が公共の利益のために必要がある場合に、知的所有権を無償で許諾することができるようになっています。使用マニュアルに沿って申請して頂き、加えて献血の推進という目的に合致している場合に許可しています。そのため、けんけつちゃんを使用して頂く場合、日本赤十字社さんを含めて、いったん国(厚労省)に申請していただくことになります。

 さらに電通の方にも確認を取っていただき厚労省と電通、どちらもOKとなった時のみ、けんけつちゃんの使用を許可しています。このような仕組みになっているのは、(キャラクター原案の製作者である)電通がいまだに著作権の一部を所持し行使できる契約になっているためです。以前、いったんこちらにすべて受け渡してもらう話もあったのですが、それには多額なお金が必要ということで諦めている状況です」

 補足すると、作者の持つ著作者人格権は譲渡することができないとされている。そのため、通常は多様な展開を図ることができるよう「作者とその代理人の電通が権利を行使しない」という契約を結ぶ。どうやら厚労省は、そうした契約交渉で電通に多額の金銭を要求されたようだ。いずれにせよ現時点で、電通の許可が必要ということは、そうした契約はなされず、けんけつちゃんは「電通の物」であるということだ。

 けんけつちゃんの存在意義は、より広い場面で使われ、多くの国民から愛され、献血運動の推進を図ることのはずだ。もし電通が権利を振りかざして、その活動を阻害しているのなら本末転倒もいいところだろう。

(文=編集部)

 

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