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ユニクロの倉庫で約10日間、派遣社員として働いて得た“かけがえのない体験”

  • 2020年8月9日
  • Business Journal

 国内ファストファッションの最大手で、2020年2月末現在、国内で811店を展開する「ユニクロ」。他の小売業と同様に新型コロナウイルス流行の影響を受けて既存店売上高のダウンに見舞われていますが、6月5日には“リアルとバーチャルを融合させた最新型の店舗”を標榜する「ユニクロ原宿店」(東京都渋谷区)をオープン。同月19日には国内最大級の店舗「UNIQLO TOKYO」(東京都中央区)をオープンさせるなど、厳しい環境下でも攻めの姿勢を崩していません。

 私はそんなユニクロの物流倉庫で約10日間、派遣社員としてピッキング業務に従事する機会を得ました。日本を代表する流通企業である同社で働くという機会を偶然にも得たわけですが、そこで味わった貴重な体験の数々を今回は紹介したいと思います。

“異種混合”の寄り合い所帯

 ある派遣会社に登録した私の元に、期間限定のピッキング作業者募集のメールが届き、応募する旨の返信を出したところ、採用通知が。そして勤務初日、シーンと静まりかえるバスに揺られて倉庫に向かったのでした。

 のちに親しくなった派遣仲間に聞いたところ、その物流倉庫への派遣元は1社だけではなく、多いときは10社前後が乗り入れることもあるといいます。また、同じ仕事をしても、派遣会社によって時間給も異なるといいます。一緒に働く派遣社員の顔ぶれは毎日変わり、「今日が初めて」という“新人派遣さん”もいれば、派遣歴10年以上の人、シニアや学生、外国人、パートの掛け持ちの主婦など“異種混合”の寄り合い所帯さながらで構成されていました。

 働いてみて実感したのが、ベテラン派遣社員から選ばれた指導役の中には、指導スキルが非常に高い人がいることでした。高いお金を出してリーダー育成セミナーを受講するより、よほど勉強になると痛感しました。

 派遣先ではピッキング業務のマニュアルはあるものの、派遣社員一人ひとりに手渡されるわけではありません。そこで本領を発揮するのが指導役です。派遣元会社の責任者が選んでいるようですが、マニュアルをただ読んで伝えるわけではないので、教え方のスキルに差が出てきます。

 優秀な指導役の教え方には共通点があり、まずは穏やかな口調で誰に対しても公平に接するということ。さらに最初に取り組む業務の目的を伝えるのです。たとえば、最初に「一度で覚えられるわけはない」「必ずできるようになる」「いきなり叱ることはありません」と不安を解消する。その上で、「早さより丁寧さ、確実性を求めている」「自己判断をしない」「あとのフォローが大変になるから、トラブルの時点で伝えてほしい」「あえて非効率的なやり方をするのは、皆さんが確実にステップを終えているかどうか、それを把握するためです。ですから、全員が終えるまで次の作業に勝手に行かないでください」と、しっかり注意喚起も行ないます。

 さらに新人がよく間違う点や防止策も実際に作業をやりながら伝え、重要なポイントは節目節目で繰り返し伝える。説明はともかくわかりやすく、シンプルに徹する。情報を漏れなく伝える工夫も忘れていない。同じ現場の作業を何日もしていると、その作業に慣れてきますが、「聞いた説明の中で、違っているところ、抜けていたところはありませんでしたか?」と情報の漏れの確認をしてくれる。

 こんな説明をされると、覚えの悪い新人といえども、説明が頭にすっと入ってくる。こうした指導役が指導したチームは、ほかのチームと比較すると失敗やトラブルが極めて少なかったのです。

 もちろん、失敗する人もいます。その人たちに「どんなふうに注意されたのか」と聞いてみると――。

「『すみません、こういう時は、こういうやり方って説明は聞いてないですか?』と、まずは確認してくれる。『忘れていました』と言えば、『次から覚えておいてもらえればいいですから。最初は僕たちもよく失敗しました』とプライドを損なわないように、なぜ間違ったか、次回から間違えないようにするためにはどんな点に気をつければいいか、丁寧に説明もしてくれました」

 リストの商品数と実際のピッキング数が1枚足りない場合も、「『こういう時もあるよね。一緒に探しましょう』と言って、見つけてくれる。だから、二度と失敗して迷惑を掛けないようにしようと思うんだよね」としみじみ言っていました。派遣仲間の中には「学校時代、こんな先生がいたら、きっと勉強が好きになっていたんだと思う」と言っていたのが印象的でした。

優秀な指導役の共通点

 前述のとおり、毎日顔ぶれが違って、しかも年齢も性別も国籍も見事にバラバラ。そんな異種混合の新人の業務が円滑に遂行できるように指導役が教えていくのです。毎日何万点という商品を数十人から100人ぐらいで時間内にピッキングを行うのです。いかに指導役の役割が重要かがおわかりいただけると思います。

 優秀な指導役の方は、「商品はモノではない、作品です」とも言っていました。そうした方々のピッキング作業は、非常にスピーディだけど、丁寧で優雅さを感じさせる手つきで、対象とするものがモノであっても、どんな仕事であっても、志があれば仕事ぶりに表れるのだと思い知らされました。

 まだ20代半ばの指導役の方はこう言います。

「そりゃ、失敗ばかりされたら頭にもきます。自分の感情のままに叱るほうが楽ですよ。でも、それで間違いなくピッキング作業ができるならそうします。大切なことは、そうじゃないと思ったのです。あとで一からやり直すのは、本当に大変です。そうならないためには、どうしたら伝わるのか、思考錯誤を繰り返しながら今のかたちに落ち着きました。

 派遣という働き方が自分に合っているのと、ここで出会った人との会話が楽しくって、ほかに行くつもりは、まだないです。派遣の3年ルール(※1)で、あと1年派遣期間は残されていますが、仲間は直接雇用されたので、そうなればいいなと思っています。正社員で働いたことも、ほかの会社でバイトをしたり派遣に行ったりしたこともありますが、仕事が終わって飲み会などとんでもなかった。でも、今度、ここの仲間と飲みに行くんです。自分の居場所がようやく見つけられました」

(※1:2015年9月の労働者派遣法が改正され、専門26業務の期間制限がない仕組みが見直された。すべての業務で働く派遣社員「個人」単位の期間制限は3年が限度と定められた。しかし3年経過後に直接雇用や1年契約のバイトなどの措置もある)

派遣で働く理由はさまざま

 徐々に仕事に慣れてきた私は、次第に一緒に働く派遣社員たちの人間模様に関心を持つようになり、休憩時間中に派遣で働く理由を聞いてみるようになりました。

「肩があがらなくなって、唯一の運動だったゴルフができなくなった。そこで昨年、ピッキングを経験したところ、1日に2万歩歩くものだから、10日ほどで3キロ痩せた。でもリバウンドしてしまったので、今年も参加した」

「年末年始も特にどこに行くこともない。普段は感じないけど、正月を一人で過ごすのは人恋しくなる。誰とも話さなくてもここにいるだけで賑やかでいい」

 経済的理由を挙げる人も少なくありませんでした。「子どもの教育資金の足しに」という人や、「派遣で得たお金を貯めて、老後の資金の足しにする」という人、「高齢社会が進めば、定年退職後の仕事を見つけるのは、今以上に厳しくなる。余裕を持って仕事を見つけるために、下見を兼ねて今からいろんな派遣を経験したい」という人も。実際に70代でも派遣社員として活躍している人もいて、実績が評価されて指名を受ける例もあるようです。

 泣かせる理由もありました。

「うちの社長は社員にも気を配ってくれるし、社員の気持ちがわかってくれる最高の社長。でも、唯一の欠点は給料が低いこと。給料の高いところを探せばいいのかもしれないけど、社長を置いて他社に行くことは誰も考えなかった。『僕らが社長を支えていきます。ほかで働いて不足分を補いますから、僕らの給料を上げることに時間を使わないでください』と社長に宣言したんだ」

 初心に戻るために派遣として働くという会社員もいました。本業を続けることに迷いが生じて派遣の仕事を始めたというある会社員は、こう言います。

「頭を空っぽにしたくて始めた。週末に派遣を続けることは気分転換にもなっている。本業に行き詰まっていたが、戻る場所がある幸せにも気がついた。派遣と本業を続けているのが、バランス感覚のいい働き方のように思え、自分には合っている気がする。当分は続けていきたい」

 お金の価値を再認識したという人もいました。

「友人に誘われたことがきっかけで、特に深い理由もなく、なんとなく始めた。20年ほどサラリーマン生活を続けていると、特に不満もないけど、すべてが惰性に流されていたことも始めたきっかけだったかもしれない。僕の場合、時給1000円程度なので、派遣の仕事をして改めて1000円の重みを噛みしめるようになった」

 さらに、「『自分の小遣いを少しは稼いでこい!』と妻から言われてきたという人も。派遣は、日本のお父さんの居場所にもなっていたんですね。

正社員を選択しない生き方

 派遣キャリア歴が10年、20年という人も珍しくありませんでした。真面目で几帳面なこの方たちを見て、なぜ派遣という働き方を選んだのか、気になって聞いたところ、正社員登用の誘いを一度ならず受けていた方が大多数でした。派遣という働き方にこだわり続けた理由は、一度は正社員で働いたことがあるものの、企業が倒産したり、パワハラが横行している時代で理不尽な思いをしたりなど、「正社員へのトラウマが残っているから」という理由によるものでした。

「派遣は、良いことばかりでしたか?」と聞くと、「そんなわけないよ」とあるベテランさんは言いました。この方は短期のいろんな派遣を渡り歩いているため、当然、日雇いでボーナスもありません。

「交通費だって出ないという条件が多い。収入だけを考えたら不安だよね。仕事にしても指導役とは名ばかりの人もいるし、倉庫には冷暖房がないから、冬は外のほうが暖かいぐらい寒い場所、夏は汗がしたたり落ちる猛暑での作業だったりする。一日中、引っ越し作業のような業務もあったりと、フタを開けてみないとわからない、当たり外れもあるね。ほかのユニクロの倉庫に行ったことはないけど、いろんな派遣先と比べても、ここは派遣社員から評判が良くってリピーターが多いんだよ。指導役の力量かな」

 このベテランさんが会社を辞めた最大の理由は、当時の上司から人格を否定されるようなパワハラが続いたためだそうです。

「今とは時代も違うし、今の自分なら、当時の上司にも上手につきあえたかもなぁ。それでも、派遣を選ぶかな」

 屈託のない笑顔を見せながら、ベテランさんは、「自由気ままな生き方が俺にはあっているかな」と答えたのでした。

 このほかにも、正社員に従事できない理由として、朝が起きられない、遅刻の連絡ができない、欠勤が続く、コミュニケーションに問題がある、仕事について行けないといったものも。

 確かにコミュニケーション能力に欠けた人や、人と接するのが嫌いだという人もいましたが、その人たちが仕事ができないのかといえば、そんなことはなく、みなさん、てきぱきと仕事をこなす人ばかりでした。一方、一見感じが良い人でも正社員がいないところでサボるなど、やたらズルをする人もいました。人は外見がすべてではないとも実感しました。

無形の報酬

 私はいつしか人間ウォッチングを楽しむようになったり、一番早くピッキングをやり終える人と自分とでは何が違うのかの研究をしたりしているうちに、あっという間に派遣期間が終わりました。さまざまな価値感や理由により派遣の仕事を選択する人たちが大勢いることを、身をもって経験できたことは、無形の報酬となりました。

 最終日、ベテランさんから「姉ちゃん、がんばってたなぁ。みんなも褒めていたよ。そろそろ別の仕事の募集が始まるから、どう? 一緒に働こうよ」と言ってもらえたのは、派遣として認められたようで、純粋に嬉しく思いました。

(文=ゾン子/ライター)

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