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18歳少女が東京駅→滋賀まで16万円の無賃乗車…タクシー運転手が遭遇した“オバケ客”の正体

  • 2020年6月23日
  • Business Journal

 東京アラートが解除され、東京都のロードマップが「ステップ3」に移行してから約1週間がすぎた6月21日、日曜日。JR東京駅から滋賀県の草津駅までタクシーを利用した少女による無賃乗車事件が起きた。

 報道によれば、自称18歳の少女は21日20時頃から深夜1時半頃までタクシーに乗車したが、支払い時に「お金がない」と話し、運転手は約16万円(高速道路料金込み)の料金を踏み倒されたという。

タクシー業界で「オバケ」と呼ばれる乗客とは?

 タクシー業界では、「“超”のつくロング客」を「オバケ」と呼ぶ。距離にして100キロを超えれば立派なオバケのなか、東京駅から滋賀県ともなれば移動距離は約442キロ、高速料金は1万円強。片道5時間20分(休憩なしの場合)のロングドライブとなる。

 当然ながら、そうした乗客を引き受けることができる運転手は限られる。乗務時間超過、相方乗務員の出庫時刻、燃料補給、そして、高額運賃などの問題が発生するからだ。

 事件を起こした少女は20時頃に乗車したようだが、東京〜草津間の新幹線の終電は21時24分。まだ1時間以上も余裕があった。

「新幹線のほうが安くて速く、しかも安全だよね。乗車を申し込まれた時点で不審に思わなかったのかな」とベテラン運転手がこぼす。

「俺がこの申し込みを受けたら? まず、会社に電話して指示を仰ぐよ。会社がOKしたら低姿勢で『申し訳ありませんが、高額となりますので、所持金をお見せいただくか、クレジットカードが使用できるかを確認させてください』と言う。あるいは、半金を前払いでお願いするかな」

 この運転手が語るように、長距離乗車の場合はカードでの事前決済や半金を前払いで受け取る方法もある。たとえば、半金として5万円を受け取る場合、まずメーターを押して「420円」と出た後に、手入力で「4万9580円」と打ち込んで決済するのだ。乗客が承諾しない場合は「当たり前だが、断る」という。

 事件当日は「コロナ禍」「日曜日」「給料日前」と、都内のタクシーは「三重苦」にあえいでいた。

「超のつくロング客に飛びついた気持ちもわからないではないが、支払ってもらえる確約がなければ乗せられないよね。踏み倒されたら、料金は自腹だもん」(前出の運転手)

 タクシーは会社が運転手の収入を保証してくれる業界ではない。また、支払いの不安や長時間運転、事故や車両トラブルなどを考えると、必ずしもウェルカムな乗客ではないとの声も聞かれる。

 なお、タクシーには「1日あたり365キロの走行距離を超えてはならない」との規定があるが、東京23区+武三(武蔵野・三鷹)の営業圏では、首都高速以外の高速道路利用は走行距離から除外される。数名のロング客を乗せれば、簡単にオーバーするからだ。そのため、「行きに首都高速横羽線を使った場合、帰りを第三京浜にするなどは常套手段だよ」(同)という。

危篤、補導、逃亡犯…オバケ客の正体

 仕事柄、多くの運転手に「一番の長距離は?」と聞くと、ほとんどが高くて3万円前後だ。東京からだと、茨城県水戸市や埼玉県深谷市、神奈川県小田原市などのチケット客である。これ以外にタクシーを使う理由がないのだ。

 それでも、稀に「正当なオバケ客」が存在する。どのようなケースか、都内の運転手数名の声を紹介しよう。

「知り合いが電話してきて、『名古屋に住むオヤジが危篤になった。死に目に会いたい。悪いけど名古屋まで行ってくれないか』と。23時で新幹線は終わってる時間でね。ただ、燃料が足りないんだ。タクシーの多くはガソリンより安いLPガスだけど、給油所がないだろ。ネット検索して調べたら、東名高速(下り)の足柄サービスエリアにあることがわかったので、どうにか行けたよ」

 このケースは知り合いなので支払いに関する不安はなかったが、初対面ではそうもいかないだろう。

「朝7時に出庫した直後、70歳を超えていそうな男性が手を挙げて『福井県まで行ってくれ』と。パジャマ姿で荷物も持っておらず、話すうちに認知症だとわかりました」

 その後、行き先は近くの交番に変更されたという。

「昼間、東京駅で乗車待ちをしていたんです。走ってきた女性が息もつかずに『岩手県の平泉まで行ってくれませんか!』とお願いしてきました。返事に困っていると『お金ならあります!』と20万円差し出されたので向かいました。しばらくして落ち着いてから事情を聞くと、暴力亭主から逃げようとして新幹線に乗ろうとしたらしいのですが、自分を探している旦那の姿を東京駅構内で目撃したようで、怖くなって飛び乗ってきたとのことでした。旦那が知らない親友の家に身を隠すと言っていました」

 この運転手はガソリン車の個人タクシーであり、燃料補給に関しては問題なかった。乗車料金は20万円を超え、本来なら請求できる帰りの高速代を「飯でも食べてくれ」と受け取らなかったそうだ。

 次の例は「警察沙汰」だ。

「真夏の深夜0時に、40歳ぐらいの品のいい男性が『遠いのですが……山梨県甲府市の警察署まで行ってください』と乗ってきました。中学3年の娘さんが補導されたらしく、連れ戻しに行くそうです。念のために支払い方法を聞くと、お金持ち専用のカードを出してきたので、安心して向かいました。到着後、疲れたので休憩していたら、1時間ぐらいで出てきて『すいません、帰りもいいですか?』と。往復280キロ、料金は13万円ちょっと。最高の仕事でしたね」

 長距離の往復は、タクシー運転手にとって最高のオバケである。このほか、早朝の遠距離ゴルフに行きたい乗客や足が悪くて歩けない高齢者の旅など、いずれも大金持ちの希望に沿うケースがあるなか、「恐ろしいやら、うれしいやら」だった一例を最後に紹介しよう。

「朝10時すぎに目つきの鋭い男が乗ってきて『悪いけど広島まで行ってくれないか』と言われました。受け答えに困っていると、札束を見せてきて……。しばらく走ってから、彼が手にしていたボストンバッグのチャックを開けた瞬間、山のような札束が目に入りました。見た感じ、3000万円を超えていましたね。ただ、ピストルのようなものも見えたんです……。

 すでに車は名古屋ですし、怖さを覚えつつ運転しました。携帯で電話している口調も、相手の質問にまともな返事をしないし、どこかおびえている様子でした。サービスエリアのトイレ休憩でも車から降りず、身を潜めていましたね。それから2週間ぐらいして、刑事が『事情を聞きたい』とやってきました。詳しくは教えてくれませんでしたが、おそらくヒットマンだったのではないかと思います」

 往復距離1600キロ、片道8時間。乗車料金は高速代を含めて35万円を超えた。男が差し出したのは、チップを含めて50万円だったという。

 仕事を終えた個人タクシーの運転手は、ホッとしたと同時に力が抜けて運転する気になれず、広島のホテルに宿泊した。翌日は駐車場に車を停めたまま、一日中観光したそうだ。

(文=後藤豊/ライター兼タクシードライバー)

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