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日産、中堅社員の一斉流出が始まった…赤字6千億円超、内田社長では再建は絶望的

  • 2020年6月5日
  • Business Journal

 会社としては過去最大規模に迫る巨額の最終赤字を計上した日産自動車が、経営再建プランを発表した。その内容は、稼働率が低迷しているスペイン工場とインドネシア工場を閉鎖するなど、余剰となっている生産能力の削減や、車種を2割削減するなど「選択と集中」を加速することで収益力アップを図ることが柱だ。ただ、リストラの詰めに甘さがあるのは明らかで、先の成長に向けた仕込みも示されないまま。昨年12月にトップに就いた内田誠社長の経営手腕の実力不足が、早くも露呈したかっこうだ。

 日産の2020年3月期連結業績の最終損益は前年同期の3191億円の黒字から一転、6712億円の赤字となった。通期の最終赤字は11年ぶりで、村山工場閉鎖などのリストラ費用を計上した2000年3月期の6843億円の赤字に次ぐ規模となった。欧米市場での新車販売不振に加え、経営再建のためのリストラ費用として約6000億円を計上したためだ。

 日産が業績不振に陥っているのは、元会長のカルロス・ゴーン氏による無理な拡大戦略のツケがまわっているためだ。日産は2011年度からの中期経営計画「日産パワー88」で、グローバルシェア8%を掲げて拡大戦略を打ち出した。販売台数を増やすため、インドネシアやブラジルなどの新興市場攻略を打ち出し、工場を相次いで新設した。新興市場向け低価格車ブランド「ダットサン」も立ち上げた。

 しかし、戦線を急拡大した反動で、先進国市場向けの新型車開発が手薄となり、モデルチェンジまでの期間が長期化、販売しているモデルの平均車齢が5年を超えていた。販売店では古いモデルを販売するため、値引き販売や、レンタカー会社など向けのフリート(大口)販売に依存し、収益が悪化した。

 しかも新興市場でも販売は低迷している。グローバルの生産能力は720万台あるが、2019年度の生産実績は460万台と、260万台分もの余剰能力を抱えている。固定費負担が重く、業績悪化は当然といえる。今回発表した事業構造改革計画は、こうしたゴーン時代の「負の遺産」の一掃を狙ったものだ。

 計画ではインドネシア工場とスペイン・バルセロナ工場の閉鎖や、北米にある生産工場の生産体制を再編し、2023年度までに生産能力を540万台にまで削減する。これによって工場の稼働率を80%以上に引き上げる。商品ラインナップも見直す。地域限定モデルを削減するなど、2023年度までに車種数を69モデルから55車種以下に減らす。一般管理費も15%削減し、年間の固定費を2018年度と比べて3000億円削減する計画だ。

コミットメント経営は跡形もない

 内田社長はオンライン記者会見で「(過去の)失敗を認めて過度な販売拡大は求めない。財務基盤を強化して将来の成長につなげる」と経営再建に自信を示した。しかし、赤字体質が続き、2兆円を超える有利子負債を抱え、倒産の危機からV字回復を果たした20年前と同じ規模の構造改革費用を計上しながら「リストラの内容が甘く、再建に向けた道筋は不透明だ」(日産系サプライヤー)との見方が広がっている。

 1999年に策定した再建計画「日産リバイバルプラン」(NRP)では、国内5工場の閉鎖、人員2万1000人削減、系列解体、購買コストを3年間で20%削減することなどを掲げ、黒字化や有利子負債を半減する時期を明示した。当時、ゴーン氏は、これらはコミットメント(必達目標)で「達成できなければ(日産を)辞める」と宣言、背水の陣で挑む姿勢を強調した。経営計画に数値目標と達成度合いを明確に打ち出す手法はコミットメント経営と呼ばれ、日産のその後の成長の原動力となった。

 これに対して今回の構造改革計画で示された経営に関する数値目標は、2023年度にマーケットシェアを2019年度の5.8%から6.0%と小幅アップすることと、営業利益率を5.0%以上に引き上げること程度だ。しかもこれらはコミットメントではなく、「持続的成長が可能な事業への道筋」として示した程度。経営責任を明確化するコミットメント経営は跡形もない。

 リストラも踏み込みが甘い。インドネシア工場とバルセロナ工場の閉鎖を正式に決定したが、固定費削減のキーとなる人員削減計画については「今回の計画はリストラをメインにしたものではない」(内田社長)として明かさなかった。甘い経営陣を見越したようにバルセロナ工場では閉鎖を発表した翌日、従業員が反発、タイヤを燃やすなどの抗議活動が起こるなど、今後、閉鎖に向けた作業が難航する可能性もある。

 そもそも構造改革計画で示された「バルセロナ工場を閉鎖して英国サンダーランド工場を維持する」という戦略を疑問視する声がある。日産の欧州事業は低迷しており、今後も成長は難しい。しかも日産はアライアンスを組むルノーと、それぞれの強みに集中して足りない部分はアライアンスの力を活用することに合意しており、日産の欧州事業はこの市場に強いルノーに任せたほうが効率的だ。日産の工場のある英国はEU離脱が決定しており、ホンダも英国工場の閉鎖を決定している。あるサプライヤーは「英国工場の閉鎖に踏み切らないところに、日産経営陣の危機意識の低さが現れている」と見る。

日産元幹部「経営再建は無理」

 収益回復に向けた購買コスト削減も「甘さ」が目に付く。NRPでは、収益が急回復し、1年前倒しでコミットメントを達成したが、その原動力となったのが購買コスト低減活動だ。サプライヤーとの株式持ち合いを解消して、しがらみを排除するとともに、調達先を絞り込み、発注数量を増やす代わりに大幅なコスト低減を要求した。

 今回の構造改革計画ではコスト削減効果には期待していない。発注量を増やしてコスト低減を迫るやり方を「反省している」(内田社長)という。生産能力削減で発注量が減少するなか、サプライヤーに無理なコスト低減を要求できず、収益改善の道筋は見えてこない。

 将来の成長にも不安が残る。NRPでは、工場閉鎖、人員削減など、大ナタを振るう一方で、将来に向けた種として米国にキャントン工場の新設を決定した。その後、日産の業績が回復する過程で米国での生産能力増強がうまく軌道に乗り、米国事業は日産の収益の柱となった。ところが今回の計画ではリストラ一辺倒で、将来の成長に向けた種は一切示されておらず、事業の縮小均衡は避けられない。重点市場に新型車を積極的に投入して商品ラインナップの若返りを図る計画だが、市場での販売競争は激化しており、新型車がヒットするとは限らない。

 日産の元幹部は「内田社長をはじめとする素人経営陣は自動車メーカーの経営改革の肝を理解していない。経営再建は無理」と断言する。内田社長は大手商社の日商岩井(現・双日)出身で、日産に入社したのは2003年。担当分野も購買部門が中心で、社長になる直前に中国合弁会社である東風日産(東風汽車)のトップを務め、業績は順調だったが、これは前任の関潤氏の功績を引き継いだだけ。そもそも社内では「日産のトップになぜ選ばれたのかわからない」との声が多くを占める。

 ナンバー2のアシュワニ・グプタCOOは、ホンダやルノー、三菱自動車など、自動車経験は長いものの「良くも悪くも日産のことをあまり知らないし、わかっていない」(販売会社)という。そして内田氏の2019年12月の社長就任と同時に、日産の副COOに就任したプロパーの関氏が経営トップの中で、最も日産を理解していたはずだが、副COO就任から約1カ月後には日産を去り、その後、日本電産の社長に就いた。

 経営トップとナンバー2がともに日産の経験が浅く、社内外の人望もない状況で、日産の成長戦略を期待することに無理がある。そして将来を悲観してなのか、年明けから、中堅クラスの社員などが相次いで日産を退職しているという。

「日産の実力は今の業績レベルではない」と述べた内田社長。短期間でルノー、三菱自動車との連携強化や、事業構造改革計画を策定したが、経営再建の道のりは険しい。

(文=河村靖史/ジャーナリスト)

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