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東電、会長“不在”の異常事態、引き受けておらず…原発の廃炉・汚染水・賠償等の難題山積

  • 2020年5月26日
  • Business Journal

 東京電力ホールディングス(HD)は会長のポストが6月から空席となる。日立製作所出身の川村隆会長(80)が高齢を理由に退任するのに伴い後任を探したが、有力候補者に断わられ続け、引き受け手なしとなった。会長が空席のまま原発の廃炉や再稼働など、難しい課題に立ち向かうことになる。

 小早川智明社長(56)は続投する。川村氏が務めていた取締役会議長は元三井物産会長で東電社外取締役の槍田松瑩(うつだ・しょうえい)氏(77)が兼任する。取締役会議長も重責である。福島第1原発事故で事実上国有化されて以降、会長は社外から招聘してきた。最初に会長の椅子に座ったのは弁護士の下河辺和彦氏(12〜14年)。産業再生機構社外取締役・産業再生委員として、多くの企業再生を手がけた実績をもつ。「官僚より官僚的」といわれた東電のガバナンス(企業統治)改革を主張。東電の総務や企画など守旧派のエリート集団の解体を狙った。これが激しい軋轢を生む。

 14年に会長になった數土(すど)文夫氏の時代は社内融和は一段と難しくなった。JFEホールディングス出身の數土会長と廣瀬直己社長(当時)の確執は社内外で広く知られるところとなった。16年3月、數土会長は廣瀬社長を交代させようとしたが、東電OBらが官邸や自民党に根回しし、これを阻止。廣瀬氏は続投する。

 リーマン・ショックで経営危機に陥った日立製作所の業績をV字回復させた手腕を買われ、川村隆・日立製作所名誉会長にお鉢が回ってきた。経産省が設置した「東京電力改革・1F問題委員会」のメンバーとなってワンクッション置いた後、17年6月に川村氏が新会長に就いた。數土会長は廣瀬社長と刺し違えるかたちで辞任した。後任の社長に53歳の小早川取締役(当時は東京電力エナジーパートナー社長)を昇格させ、一気に若返りを図る。小早川氏は東電の主流である総務や企画出身ではなく、法人営業の経験が長かった。

 川村氏は生え抜きの小早川氏を盛り立て、会長と社長の関係を良好にすることから仕事を始めた。川村氏は原発事故をめぐる巨額の賠償や廃炉作業をやり抜くため「稼ぐ力」をつけることが重要なことを社員に繰り返し説き、意識改革を推進してきた。しかし、東電は事実上の国営企業であり、船頭の多い船である。「日立の時代のような切れ味鋭くリーダーシップを発揮するのは、どだい無理だった」(関係者)。

後任会長人事は調整がつかず頓挫

 川村氏は高齢を理由に早くから80歳を節目に退任する意向を示していた。経産省は19年11月ごろから後任の選定に着手した。まず、経済同友会前代表幹事で三菱ケミカルホールディングス会長の小林喜光氏に話を持って行った。だが小林氏は原発機器を製造する東芝の取締役会議長を務めており、「両方の取締役会議長になれば、間違いなく利益の相反が起こる」と述べ就任を断ったという。

“ポスト川村”の後任人事は迷走する。KDDIの小野寺正相談役や東電の社外取締役の経験がある武田薬品工業の長谷川閑史元会長(小林氏の前の経済同友会の代表幹事)、前出の槍田氏など東電と関係の深い経営者の名前が挙がったが調整がつかなかった。東電は今でも「格」を大事にする。東電より格下の企業の出身者では社内をまとめられないとされている。東電は腐っても大きな鯛なのだ。

「経団連御三家」などと呼ばれ、東電と同格の日本製鉄前会長の宗岡正二氏に最後の望みをかけたが、宗岡氏は就任を固辞した。元経産省次官で東電の取締役として東電改革を進めた嶋田隆氏を擁立する動きも出たが、結局、火中の栗を拾うという侠気のある人物は現われなかった。今後も出てくるかどうかわからない。

汚染水の放出問題は誰が主導するのか

 東電の会長は原発事故に伴う廃炉や賠償、汚染水の放出問題などさまざまな難局で政府や自治体、地元政治家との調整にあたる“東電の顏”だ。会長空席のまま6月末の定時株主総会で新体制を発足させる。社外取締役は川村氏のほか、経営共創基盤CEOの冨山和彦氏、経産省出身の山下隆一氏が退任。帝人相談役の大八木成男氏、経営コンサルタント会社フロンティア・マネジメント代表取締役の大西正一郎氏、経産省出身の田中耕太郎氏が新たに取締役になる。

 大八木氏は帝人で医薬事業に長く携わり、社長・会長を務めた。冨山氏の後任の大西氏は弁護士で産業再生機構で仕事をした経験を持つ。経産省枠には福島復興に当たった田中氏が入った。フロンティア・マネジメント出身者としては沖重和俊氏が送配電会社、東電パワーグリッド常務に就いている。大西氏と沖重氏は東電の2020年代の自立を目指す「新々・総合特別事業計画(新々総特)」の策定に携わってきた。

 東電の経営環境は依然として厳しい。福島第1原発の廃炉や賠償費用などで、およそ16兆円を負担することになっており、毎年5000億円の資金確保が必要だ。5000億円を大幅に上回る利益を出さなければ、計画は絵に描いたモチとなる。「新々総特」では、将来、年4500億円の利益を出すことを目指す、としている。ところが、20年3月期連結決算の最終損益を下方修正した。原発の溶融燃料(デブリ)の取り出し準備費用や大型台風の設備復旧費用など1943億円の災害特別損失を計上したため最終利益は507億円(19年3月期は2342億円)に激減した。新型コロナウイルスが業績に与える影響が見通しにくいとして、21年3月期の業績予想は「未定」とした。

 16年の電力自由化により価格競争が激化し、顧客の流出が続く。他業種からの新規参入もある。福島原発では汚染水をためるタンクが22年夏に満杯になる見通し。事故処理の終わりは、まったく見えない。収益力回復の頼みの綱としている柏崎刈羽原発(新潟県)6、7号機の再稼働の見通しも立たないままだ。

 課題が山積するわけだから、「会長をやりましょう」という経済・産業人はおいそれとは現れないだろう。とはいえ、会長不在の新経営体制で賠償や廃炉、汚染水問題などの難問を、誰が解決するのか。それがあいまいなまま、新体制はスタートを切る。

(文=編集部)

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