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「任意後見」「家族信託」をしておかないと、認知症の親のお金を使えなくなる!

  • 2019年11月11日
  • Business Journal

 本連載過去2回の記事では、親が認知症になると銀行口座が凍結されてお金を下ろせなくなり、成年後見人をつけると多くの場合、第三者がお金を管理することになるとお伝えし、これまで通りに家族が管理できる方法として、「任意後見」という制度があると紹介しました。

 ところが、ある80代の女性は、任意後見制度を利用した場合、家族のことで心配があるようです。その相談内容を見てみましょう。

 先日は相談にのっていただき、ありがとうございました。
教えていただいたとおり、早速、公証役場に行って、娘と任意後見の手続きをしてきました。これで、私が認知症になっても娘から引き続き面倒をみてもらうことができますね。
 でも、公証役場で、気になることを言われました。
 私には就職したばかりの孫と、高校生になる孫がいます。就職したばかりの孫は、まだ早いですが、結婚するときに結婚資金を出してあげたいです。高校生の孫には、孫が大学に行くときは、少しは学費を出してやりたいと思っています。
 でも、そのような話しを公証人の先生に言ったら、「それはちょっと難しいかもしれません」と言われました。
 任意後見をしていても、私が認知症になると、孫のためにお金を出すことはできないのでしょうか?
 何かいい方法はないのでしょうか?

任意後見をしてみても不安が……

 親が認知症になっても、そのお金や不動産などを家族が管理できる制度として、「任意後見」があります。これは元気なうちに、自分が認知症になったら面倒を見てくれることをお願いする制度です。任意後見をしておけば、これまでどおり自分の家族がお金や不動産の管理をしてくれます。

 しかし、この任意後見には、できることに制限があるのです。お金や財産の使い道は、あくまでも本人(事例ではお母さん)のために限られます。したがって、「孫のために結婚資金を出してあげたい」「孫が大学に行くときに学費を出してあげたい」など、家族とはいえ本人以外のために使うのは難しいのです。

 このような願いは、認知症になってしまうとかなえられないのでしょうか。

「家族信託」という解決方法

 大丈夫です。「家族信託」という方法なら、お母さんの願いは叶えられます。お母さんが元気なうちに、家族信託をしておけばいいのです。「家族信託」とは、一言で言うと、このような契約です。

 私(母)の財産を、あなた(娘)に託します。だからこの財産で、私や家族のことを頼みます。

 家族信託とは、個人間で行う信託です。投資信託とはまったく関係ありません。信託銀行も関係ありません。利益や収益を追うものではなく、自分や家族を守るための制度です。

 自分が望む人に、自分が望む内容で、財産管理をお願いするための新しい制度(法律)なのです。平成19年に、信託に関する法律が大幅に改正されて、信託銀行を通さない個人間の信託が可能となりました。家族でなくても、信頼できる友人などにも信託できます。

お金を娘に家族信託すると……

 信託をするには、まずは信託のための契約書をつくります。信託に精通した専門家に依頼すればつくってもらえます。

 そして、お金を信託すれば、お母さんのお金を娘が自分で出し入れできます。お金の保管する口座も娘の口座になります。娘が自分の名義の口座からお金の出し入れをするので、お母さんが認知症になっても、問題は生じません。娘さえしっかりしていればいいのです。お金を何に使うかは、信託の内容で自由に決められます。

 自分の生活費や介護、医療費用、孫の大学資金や結婚資金、その他家族のためのお金などなど。

 このお母さんは、孫のために結婚資金を出してあげたい、教育資金を出してあげたい、というお気持ちがありました。それが、家族信託をしておけば、認知症になっても実現可能です。

 逆に、何もしないまま認知症になってしまうと、孫のためにお金を出すどころか、自分の銀行口座からお金を出すことができません。そうすると、成年後見しかありません。成年後見人をつけると、第三者がお母さんの財産を管理してしまう可能性が高いです。孫のためにお金を使いたくても、難しいです。成年後見は「自分のため」にお金を使う制度だからです。「家族のため」にお金を使う制度ではありません。自分で後見人を決める任意後見でも同様です。しかも、任意後見は、監督人が必ずついてしまいます。

 しかし、家族信託をしておけば、家族だけで財産の管理ができ、家族のためにお金を使うこともできるのです。

お母さんが亡くなったあとは……

 お母さんは、娘に1000万円信託しました。お母さんが亡くなったとき、信託されたお金は400万円残っていました。

 さて、この残ったお金は誰のものになるのでしょうか。実は、これも信託で決めておくことができます。娘にあげたかったら、「残ったお金は娘にあげます」と決めておけばいいのです。ほかに子供がいて、平等にあげたければ、そのように決めることもできます。自分がお世話になった人や施設にあげたかったら、それも可能です。「残された子供たちで決めてください」とする人もいます。

 自分が亡くなったら、誰に財産を渡すかを決められるのです。つまり、家族信託には遺言のような役割もあるのです。

備えあれば憂いなし

 何事も事前の準備が大切ですね。

 交通事故に備えた自動車保険、地震に備えた地震保険、災害に備えた避難用グッズなど、いずれもいざというときへの備えです。何も準備をしておかないと、いざというときに大変です。

 法律も同じで、事前の準備が大切です。

 任意後見や家族信託も、認知症に備えた保険のようなものです。気がついたら、親が認知症になり判断力がなくなっていた、という状況になると大変です。

 しかし、認知症になる前に、任意後見や家族信託を設定しておけば安心です。任意後見をしておけば、これまでお金のやりくりしてくれていた人が今後も引き続きやりくりすることができます。親のためだけにお金が使えればいいというのであれば、任意後見で十分です。ただ、弁護士などが監督人になるという点を忘れてはいけません。

 家族のためにもお金を使いたい、第三者の監督人もつけたくないのであれば、家族信託です。家族信託をしておけば、親が認知症になってもこれまでどおりのお金の使い方が可能なのです。

 備えあれば憂いなし。親と接していて「最近、ちょっと物忘れが多くなったかも」と感じたら、任意後見や家族信託をしておけば安心ですね。
(文=川嵜一夫/司法書士・家族信託コンサルタント、イラスト協力=きのこさん/イラストAC)

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