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駒崎さんが始めた移動式“コンテナ”ヘアサロンが、とんでもない「地方創生」を実現してしまったワケ

  • 2019年10月4日
  • Business Journal

 晴海埠頭に置かれていた1台のトレーラー。その荷台には、おしゃれ感が漂うコンテナが積まれていた。外側に階段がついており、コンテナの中に入れるようだ。明らかに周りとは違う雰囲気に興味をそそられ、近寄って中を覗いてみる。そこにあったのは、コンテナビジネスの新たなスタイルだった。

 このコンテナは、なんと「移動式ヘアサロン」である。手前にカット席が2つ、奥にはシャンプー台が1台、洗面台まで備えてある。素晴らしいと感じたのは、コンテナ(高さ約2.6m、奥行約5.8m、幅2.3m)の開放的な内装だ。大きな鏡を所々に使用しており、狭さや暗さが気にならない工夫が至るところに施されている。

 内装のこだわりから、さらに興味が湧いてくる。なぜ、このコンテナヘアサロンをやろうと思ったのだろう。キャッチーなコンテンツだが、ビジネスの観点ではどうなのだろうか。

発想の源は「移動美容室」

 コンテナビジネスといえば、まず思い浮かぶのはコンテナ収納事業だろう。活用方法がない不便な土地の有効活用として、さまざまな場所で見かけるようになった。レンタル費用は立地条件や広さ、室内環境などによって月額4000〜5万円程度まで、さまざまに設定されている(東京都世田谷区の場合)。

 土地の所有者向け事業として考えた場合、初期投資や売り上げを考えると表向きの利回りは悪くなさそうだが、それ以外にかかる諸経費、人件費などを含めて運営していかなければならない。

 そこで、コンテナのオーナーであり、東京と千葉でヘアサロン「abie hair」を店舗展開している駒崎由美子さん(株式会社カプラス代表)に話をうかがった。

「ヘアサロン経営を始めてから14年になります。今までは内部組織の強化に力を入れてきましたが、近年、企業として新たなステップアップを考えていました」(駒崎さん)

 新たな事業として、地域貢献も視野に入れた「移動式美容室」という発想が浮かんだ。トラックの荷台を美容室として、介護施設や保育園を回る移動販売車のような展開をイメージしたそうだ。

 加えて、「価値ある空間にしたい」というこだわりも持っていた。そこで、取引先から教えてもらった「東京都よろず支援拠点」(中小企業や小規模事業者などに向けた無料の経営相談窓口)に新事業の企画を持ち込んだ。そこで提案されたのが「経営革新計画」の取得だ。

 東京都の産業労働局によると、経営革新計画とは「中小企業が既存事業とは別に、新事業を立ち上げるために立案した中期的な計画」を指す。各都道府県に承認された企業は、政府系金融機関による低金利融資や「ものづくり補助金」が受けられる。2017年6月、カプラス社は承認企業として認定され、同時にものづくり補助金の申請にチャレンジした。しかし、そう簡単に申請は通らない。移動美容室の荷台は切り離せることが条件だというのだ。そこで出てきたアイデアがコンテナだった。

 ハイキューブ20フィートのコンテナ(高さ約2.6m、奥行約5.8m、幅2.3m)を購入し、カット席を2つ準備した。初期費用は1350万円。通常の店舗展開と比べ、随分と割高だ。当初考えていたヘアサロンは地域密着型を想定していたが、移動式のコンテナにしたことで、駐車スペースや集客の問題も出てきた。新しいチャレンジはデメリットばかりが目についた。

Uターンを希望するスタッフの独立支援

 その頃、東京都中小企業振興公社から「東京都新サービス創出スクール」4期生の募集DMが届いた。新サービス創出スクールとは「自社の強みを活用し、新規ビジネスモデル作成を行う」学校だ。何か突破口がないかと思っていた駒崎さんは、迷わず参加した。学んでいくうちに、ヘアサロンという枠からレンタルスペースという新たな概念が浮かんだ。

 一方で、店舗のヘアサロンでは、地元に帰りたいと考える地方出身のスタッフが数名いた。地方ではヘアメイクを学べる環境が少ないため、都会に出てくるケースが多い。やる気に満ちた若者を採用し、時間とお金をかけて教育しても、帰郷となれば離職するしかない。

「30代半ばでUターンしても、キャリアとしてはゼロになってしまうでしょう。そうかといって、知らない土地に店舗を出すのはかなりリスクが高いですし……」と駒崎さん。

 スタッフが離職した後の人生をも気にかける、社長の想い。これが発想の転換を生み出す。

 地方出身のスタッフにこのコンテナ美容室を任せ、地元に帰してみてはどうか? 地方であれば、駐車スペースの問題も解決しやすくなり、何よりスタッフが離職せずに済む。スタッフにとっては、地元に店舗を構えるテストマーケティングとして、売り上げはもちろん、ランニングコストから集客、広報活動などもすべて自分たちで行える。独立に向けたさまざまな挑戦が可能な、なんともありがたい環境だ。

 こうして、カプラス社は若いうちから育成した地方出身スタッフの新たな選択肢として、地元で顧客を開拓する環境を整え始めた。コンテナを活用した地方出身美容師の独立支援制度の誕生である。これは同時に、都市への一極集中で問題視される地方疲弊の解消にもつながる。

「日本空間デザイン賞」を受賞

 これまでの経緯を聞いていると、新事業にどうメリットを持たせていくのか、ここが最大のポイントだと感じる。自社内にコンテナを活用した独立支援制度を誕生させ、美容業界自体の活性化を図る。そして今、同社には新たな「地方創生」が見え始めている。

 それは、コンテナの存在を知った人々からの提案がきっかけだった。ヘアサロンという概念を超えたデザイン性の高い移動式スペース。これを活用したいと考える人から、さまざまなオファーが来ているのだ。

 現在、コンテナヘアサロンは地方出身のスタッフ2名とともに、晴海埠頭から茨城県水戸市の千波湖に運ばれ、営業している。近隣住民や水戸市民、観光客が楽しめる場所として、水戸を地方創生ロールモデルにしようと奮闘している堀義人座長が率いる「水戸ど真ん中再生プロジェクト」に参画中だ。

 また、価値ある空間にこだわった内装が「日本空間デザイン賞 サービス・ホスピタリティー空間部門」で数多く候補の中から金賞を受賞した。空間デザインの新しい価値から創造的な社会を構築していくことで、人々の生活や社会の豊かさにつなげていくことがコンテストの目的だという。

「地域社会の発展と感動経験を提供し、人々の日常に潤いを与える」という経営理念で始めた店舗型ヘアサロンは、サービスの枠から社会へ視点を広げることで、利用者への価値提供を超えて業界の活性化につなげ、日本の課題に取り組むという新しい価値を創出したのではないだろうか。

 自社製品やサービスの創造と並行して、新たな役割=社会的責任が必要とされている。時代が変化している今、CSR(企業の社会的責任)の創出方法にヒントを与えてくれるストーリーだ。

(文=丸田一代/ライター)

●「abie hair」

●取材協力/株式会社カプラス

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