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旧MRJ、累計6千億円投入でも“いまだ飛べず”…8百億円かけ赤字事業買収の暴走

  • 2019年7月10日
  • Business Journal

 三菱重工業が社運を賭けて取り組んできた国産初のジェット旅客機を開発している三菱航空機は6月17日、世界最大の航空見本市「パリ国際航空ショー」で、受注拡大に向けた新たな戦略を打ち出した。

 名称を「MRJ(三菱リージョナルジェット)」から「スペースジェット」に変更。世界のLCC(格安航空会社)向けの新型機「スペースジェットM100」を披露した。70席タイプで、2023年の市場投入を目指す。

 MRJプロジェクトは、もともと開発費を国が一部補助し、愛知県を中心とする航空部品サプライヤーを使うなど“初の国産ジェット”を開発するという意味合いが強かった。

 だが、実態は三菱航空機の親会社である三菱重工が6000億円を超える開発費を投入。これまでに5度も納入延期を繰り返してきた。18年には三菱航空機の1100億円の債務超過を解消するため、三菱重工が2000億円規模の金融支援に踏み切った。

 初の国産ジェット機という錦の御旗を降ろし、現実路線に転換する。名称を変えるだけでない。ボンバルディア出身のアレックス・ベラミー氏を最高開発責任者に据え、米市場向けに追加機種を開発し、米国生産も検討する。

 米国ではパイロット保護の労働規制があり、地域間を飛ぶ小型機(リージョナルジェット、100席未満)の座席数に制限が設けられている。76席以下というのがひとつの基準。これは中大型機の市場を小型機に奪われないための参入障壁だ。

 三菱重工は規制の緩和を想定し、90席タイプの開発を08年から始めた。だが、米国での規制緩和はなかなか進まず目算が外れ、70席型を主力にする方針に事実上、転換した。

 現在、世界で運航される小型機(60〜99席)は約3600機。ブラジルのエンブラエルの「Eシリーズ」が5割強(約1900機)、カナダのボンバルディアの「CRJ」が4割弱(約1300機)を占める2強体制だ。米ボーイングがエンブラエルの小型機部門を19年末に事実上、買収する。欧州エアバスは18年7月、ボンバルディアの中型機事業を買収した。

 三菱重工によるボンバルディアの小型機「CRJ」事業の買収交渉が突如、浮上した。ボンバルディアは開発費の増加などで旅客機部門は18年12月期で4期連続の赤字。最後に残ったCRJ事業を手放し、鉄道事業などに経営資源を集中させる。

 三菱重工がCRJを買う理由は、メンテナンス要員の不足を補うのが目的だ。航空機はメーカーが納入して20年以上飛び続ける。買い替えまでの期間は長いため、機体のメンテナンスなど顧客サポートで稼ぐ。MRJで小型機事業に参入した三菱重工には、そうしたメンテナンス要員がいない。欲しかったのは顧客サポート部門だけだったが、ボンバルディアは「丸ごと買ってくれ」と逆提案してきた。

 結局、CRJの保守・販売サービス事業を5億5000万ドル(590億円)で買収することで合意した。2億ドル(210億円)の債務も引き継ぐ。800億円を投下して大きなリスクを背負うことになった。ボンバルディアは小型機の機体製造を20年後半に終了し、この事業から撤退する。

三菱重工の甘い読み

 CRJを買収すれば、小型機市場からライバルがひとつ消える。三菱航空機は100席以下の小型機は今後20年間で5000機超の新規需要が見込めると皮算用していて、約4割を占める北米市場は、ボーイング・エンブラエル連合との一騎打ちに持ち込めるとみている。

 だが、CRJの買収はボーイングを刺激しそうだ。現在、スペースジェットの保守ではボーイングと協力関係にあるが、CRJ買収を通じて三菱側が自社サービスに切り替えた場合、ボーイングとの関係がぎくしゃくする可能性が高い。売り込みで正面衝突する場面が出てくれば、ボーイングとの関係は切れるとみられる。

「90席タイプは米国に投入できず、CRJが赤字なことでもわかるように、70席タイプは儲らない。三菱重工、三菱航空機の今後の経営は厳しいものになる」(世界のエアラインに詳しい関係者)

 スペースジェットの初号機(旧MRJ)のANAホールディングス子会社、ANA(全日本空輸)への納入は、遅れに遅れて20年半ばまでずれ込む。

 失敗の原因は何か。

「三菱ならではのプライドの高さにある。ジェット戦闘機をつくっているから、民間旅客機もつくれると思うのは間違いだ。戦闘機はほぼオーダーメイドだが、旅客機は量産能力が必要となる。三菱には開発技術はあるが、量産技術がない」(外資系証券会社のアナリスト)との厳しい指摘がある。

 三菱重工の最高財務責任者(CFO)の小口正範副社長は、採算ライン(の受注)を「1500機ほど」と説明しているが、旧MRJの受注残は407機にとどまる。採算ベースに乗るのは、はるか先のことになる。

 赤字を垂れ流し続けるなか、ボンバルディアの赤字の小型機事業を買収する。加えて70席タイプの小型機を投入する。傷口をさらに広げることになりはしないかと懸念する声も多く上がっている。

 イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機「コンコルド」は、膨大な赤字を垂れ流し続け03年に消滅した。「スペースジェットは“第二のコンコルド”になる」といった論調も見られるようになった。三菱重工、三菱航空機の正念場が続く。

債務超過は一過性か

 三菱重工の19年3月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高にあたる売上収益が前期比0.2%減の4兆783億円、営業利益や特別利益を合わせた事業利益は同3.2倍の1867億円、最終損益は1013億円の黒字(18年同期は73億円の赤字)だった。火力発電機器が好調で約300億円の土地売却益が計上された。

 三菱航空機は08年の設立。資本金は1000億円で、トヨタ自動車や三菱商事なども出資した。国が500億円の開発支援を行う巨大プロジェクトである。

 当初は13年にMRJの納入開始を見込んでいたが、設計変更などが相次ぎ、納入時期は7年遅れとなっている。計6000億円を投じたMRJ事業だが、相次ぐ延期で三菱航空機は18年3月末で1100億円の債務超過に陥った。

 三菱重工は18年10月末に単独で2200億円の金融支援を実施。三菱重工が三菱航空機に貸し付けている500億円の債権を放棄し、1700億円追加出資した。これで債務超過は解消された。

 19年3月期のMRJの開発費用は851億円に上った。20年3月期はMRJの開発費がピークを過ぎるため、航空・防衛・宇宙部門の事業損益は200億円の赤字を見込む。19年同期は374億円の赤字だったから、赤字幅が縮小すると強調している。

 三菱航空機の債務超過を解消するための三菱重工による金融支援が、1回だけで済むという保証はどこにもない。
(文=編集部)

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