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「コーヒー!」と言えばコーヒーが出てくるとでも?結婚30年、夫と1週間離れてわかったこと

  • 2023年5月25日
  • All About

娘の結婚式の日、くたびれ果てて帰宅した後、夫が一言「コーヒー」と。これが自分の夫なのかと愛想がつき、試しに数日家出をしてみたら、寂しくもなく快適だった。
夫婦って何だろう。子どもが大きくなると、多くの女性がこの問題を考える。おそらく男性たちはあまり考えていない。結婚したんだから、夫婦としてやっていくのは当然だと思っているのかもしれない。

新鮮な風を入れたい妻と、惰性を愛する夫の間の心の距離はどんどん離れていくのかもしれない。

■「ふたり」より「ひとり」?
去年、ひとり娘が結婚して家を出ていったというミサコさん(57歳)。3歳年上の夫とは結婚して30年が経つ。

「娘の結婚式から帰宅してふっと気が抜けたとき、夫が『コーヒー』と言ったんです。その瞬間、この人が私の夫なのか、これまでもこれからもそうなのかと妙に考え込んでしまって。娘の結婚式では母親の私は、けっこうあれこれ気を遣い、娘の様子にも気を配って疲れきっていたんですよ。

夫はずっと椅子に座って飲んだり食べたりしてただけ。それでも帰宅したら、夫は一言、コーヒーと言えばコーヒーが出てくると思ってる。そういえばずっとこんな生活だったなあと」

夫とはずっと共働きだった。だが家事は9割方、ミサコさんが担ってきた。大変そうな母を見かねて、娘は小学生低学年のころから風呂やトイレの掃除、食事の後片付けをしてくれた。いつも親の顔色をうかがわせて、娘には悪いことをしたと思っている。

「結婚式の前の晩、謝ったんですよ、娘に。私が忙しすぎてあなたの自由を阻害したかもしれない、と。娘は『そんなことない。反面教師として見てたから』と笑っていました。

娘が結婚した相手は、率先して家事をやるタイプだそう。『家電に頼ってふたりで楽しよう』と言ってくれるから何の負い目も感じなくてすむ、と。『お母さんも今からお父さんを教育し直すか、見放すか。どっちかじゃない?』って淡々と言われました」

ふたりきりの生活になったのだから、とりあえず平日の食事のしたくはしなくていいよね、帰宅時間もバラバラだし、それぞれに自分の食事を用意すればいいと夫に言ってみた。

「オレにコンビニ弁当を買えというのか、と夫は拗ねてしまいました。夫に拗ねられると、私は自分の義務や責任を果たしていないような罪悪感にかられて、結局、翌日も夕飯を用意してしまった。夫のご飯をよそい、おかずを温め直し、後片付けまでして寝室に行くと、夫はすでに高いびき。割に合わないと思いました」

それまでは娘がいるから、なんとか母としての責務を果たしたいと思っていたのだが、娘がいなくなってみると、「妻の責務を果たしたい」とは思えなくなっていた。

近所では仲良し夫婦、仲良し家族と言われてきたが、実際にはそうではなかったと、ミサコさん自身が認めるしかなかった。

■夫のことが嫌いなんだとわかって
ずっと自分の心に蓋をしてきた。見て見ぬフリをしてきたが、私は夫が嫌いなんだ。ミサコさんはそう思った。それを認めた瞬間、気持ちが楽になったという。

「職場の同僚にその話をしたんですよ。彼女は離婚経験者。そうしたら大笑いされた。『今ごろ気づいたの?』って。でも物事、遅いということはない。今からでも、自分の気持ちに正直に生きたらどうかなと。

離婚は最終手段として、その前に夫と顔を合わせないよう生活するとか。まずはしばらく離れてみればいいじゃないというんです。それも目から鱗でしたね」

娘に相談し、娘の家に1週間泊まることにしてもらった。そしてミサコさんは勤務先近くのウィークリーマンションへ。

「夫の許可は得ていません。娘の家に1週間泊まるから、自分のことは自分でしてくださいと置き手紙を残しただけ。勤務先から徒歩10分のウィークリーマンションは居心地がよかった。

レイトショーの映画を観たり、行ってみたかった寄席にも出かけてみたり。平日夜は、同僚や後輩と食事をすることもあれば、ひとりでデパ地下でちょっと高級なお弁当を買ってみたり。簡単な炊事はできるから家で作ったこともあります。週末はひとりで動物園にも行きました。案外、ひとりでも寂しくないとよくわかった」

娘には逐一報告していたが、夫から娘にはひっきりなしに連絡があったという。夫はミサコさんに直接言えないため、娘に愚痴をこぼしていたようだ。

「『お父さんがお母さんの人権を尊重しなかったら、こういうことになったのよ』と娘が言ったら、『何が人権だ』と怒っていたそうです。『妻は夫のめんどうをみるロボットではありません』って娘は電話を切ったと言っていました。それを聞いていた娘の夫が、娘に拍手を送ってくれたそう」

1週間過ぎたとき、ミサコさんは夫に「帰ろうかどうしようか迷っている」とメッセージを送った。夫は返信してこなかった。

「それで腹が決まりました。離婚届を持って帰ってサインしてテーブルに置いて、賃貸マンションを契約しました。夫が調停の申し立てをしたので、今は調停中です。調停での夫も、相変わらず『妻は妻としてやるべきことがある』なんて言っているので、私の弁護士さんも呆れています」

夫は暴力こそふるわなかったが、いつでも「妻なら当然だろう」と自分の見解だけを押しつけてきた。

「もう疲れたというのが本音です。私は私の人生を生きるだけじゃなくて、夫についてもあらゆる世話を焼かなければいけない。夫の衣食住、すべてめんどうを見るんですよ。ここ数年は自分の親の介護も重なって疲弊しています。自分に正直になってみたら、もうやってらんない、というのが本当の気持ちです」

おそらく離婚に向かうのだろう。

「家庭を壊すことになったら娘に悪いと思ったんです。そうしたら娘が、『夫婦関係が壊れようがどうしようが私には関係ないから』、とニッコリ笑っていました。淡々とした意見でした」

家族の形を大事にしてきたミサコさんだが、ついに気持ちが決壊してしまった。調停を通してお互いの本音を洗いざらい伝え合ったところで、何かが見えてくるかもしれない。

▼亀山 早苗プロフィールフリーライター。明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。

亀山 早苗(恋愛ガイド)

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