企業は利益を追求して株主への配当を行うだけでなく、社会を構成する一員として、従業員や取引先、消費者、地域社会、国際社会など、あらゆるステークホルダーに対する責任を果すべきであるというCSR(企業の社会的責任)への認識が、国内外の企業に広く浸透している。このCSRの考え方をさらに発展させ、株主と社会双方の利益を満たす価値を生み出すことを目指す新しい経営理念がCSV(Creating Shared Value)だ。
CSVは、日本語にすると「共通価値の創造」と訳される。社会にとっての価値と企業にとっての価値を両立させることで、企業の事業活動を通じて社会的な課題を解決していくことができるという考え方だ。CSVが国際的に脚光を浴びたのは、2006年にマイケル・E・ポーターらによる「競争優位のCSR戦略」が発表されてからだ。同書は、CSVを戦略色の強いCSRの一種として扱い、これを機にCSRや環境ビジネスの分野でCSVに対する関心が一気に高まった。邦訳もある。
栄養・健康・ウエルネス分野の世界的な企業でスイスに本社を置くネスレは、早くからCSVに注目し、CSVを基本戦略と事業運営に組み込んでいる。2007年に「共通価値の創造報告書」を発行し、最新のデータに合わせて発行を続けている。また、栄養、水資源、農業・地域開発などに関する報告書も発行している。
CSVに限らず、多くの企業が戦略的CSRに力を入れている。食品大手の味の素は、2009年の創業100周年を機に「グローバル健康貢献企業グループ」を目指すビジョンを策定し、地球持続性と食資源、健康な生活の3つを最優先課題としてCSR の柱と位置付けている。家電大手のソニーは、「持続可能な社会への貢献」に向けて、ステークホルダーとの連携を強めることで、事業機会の発展につなげていく理念を掲げている。自動車大手のホンダは、環境と安全を両立した地域活動を国内外で進めている。
このように、CSVや戦略的CSRに取り組む企業は増えつつあり、国内でもCSVの理念が広がりつつある。CSR分野の先行きを占う上で、CSVは極めて重要な要素となるだろう。