ビジネス温暖化対策の切り札が地球にとっては逆効果?

  • ナショナル ジオグラフィック日本版
温暖化対策の切り札が地球にとっては逆効果?

 2015年12月の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で、温室効果ガスの大幅な削減を盛り込んだ協定が合意された。この目標を達成するため、各国が取り組もうとしているのが、大気中の二酸化炭素(CO2)を回収し、貯留しようという大規模プロジェクトだ。しかし、この方法では莫大なコストがかかり、かえって地球環境に悪影響を及ぼしかねないと、専門家が警鐘を鳴らしている。(参考記事:【解説】COP21「パリ協定」勝ち組になったのは?)

 英イーストアングリア大学の環境科学者で、英国政府の自然環境研究評議会で科学コーディネーターを務めるフィル・ウィリアムソン氏は、2月10日付けの科学誌『ネイチャー』で、植林のような、効果的に思える対策でも、地球の気温上昇を2℃以内に抑えるためには大規模で行う必要があり、かえって、地球環境を損ないかねないと主張した。

「将来的には大気中のCO2を取り除けるようになるのだから、何も心配はない――そんな楽観的な見方が広がっています」とウィリアムソン氏は電話インタビューで話した。「しかし、実は今すぐ問題に取り組まなければ、事態はさらに悪化し、解決のための費用も多くなってしまうのです」。大規模な炭素除去プロジェクトは、工学技術を用いて地球の居住可能性を改善したり維持したりする「地球工学」と呼ばれる分野のものだ。ウィリアムソン氏は、地球の改変を伴うプロジェクトによって、どんな影響が出るか、早急に検証されるべきだと語った。

地球上の耕作地の約3分の1が必要

 COP21では、CO2除去に関する具体的な協議はされなかった。しかし、各国が化石燃料の使用量を十分に削減しようとしていない現実を考えると、パリ協定に盛り込まれた削減目標の達成は大規模な除去プロジェクトを当てにしたものだと考えざるを得ないと、ウィリアムソン氏は指摘する。

 たとえば、バイオ燃料とCO2の回収・貯留を組み合わせるBECCSという技術がある。これは、栽培した作物や樹木を発電所で燃やして電気を作り、排出されたCO2を回収・貯留するものだ。注目を集める技術だが、ウィリアムソン氏はその潜在的なリスクに関して、厳しい数字を示した。パリ協定の削減目標をBECCSで達成するには、4億3000万〜5億8000万ヘクタールの土地で作物や樹木を栽培しなければならないという。これは、地球上の耕作地の約3分の1、または米国国土の半分を占めるほどの広さだ。

 また、これほどの耕作地を要求するBECCSに頼ってCO2削減を進めれば、今世紀末までに陸生の動植物の多くが姿を消すおそれがある。ウィリアムソン氏によると、その数は、地球の気温が産業革命以前より2.8℃高くなった場合に絶滅する種より多くなるという。

 ウィリアムソン氏はさらに、CO2を土の中へ封じ込める技術に関しても、その影響を分析している。たとえば、生物資源を材料にした「バイオ炭」を耕作地にすき込むという方法がある。削減目標を達成させるには数百万ヘクタールもの広大な土地が必要となるが、バイオ炭によって黒っぽくなった土は太陽光を反射しにくくなり、地中に熱を溜め込む結果となる。

 光を反射させるケイ酸塩を細かく砕いて地表にまくという選択肢もあるが、この場合、膨大な量のケイ酸塩が必要となる。全世界で産出されている石炭を超える量を採掘して処理しなければならず、その費用は60兆ドルを超えると推定される。さらに、採掘地周辺の水質汚染も懸念される。

太陽光発電などへの投資を減らすべきではない

 CO2除去技術の開発を長年訴えてきた米カーネギー科学研究所の大気科学者ケン・カルデイラ氏によれば、地球工学の専門家の多くがCO2排出そのものを可能な限り大量に、かつ早急に削減すべきだと主張しているという。「しかし、私たちは、最善を尽くしても、危機的な気候変動を回避するには不十分ではないかと危惧しています」

 カルデイラ氏の危惧を裏付けるような研究結果が先週、気候変動に関する専門誌『ネイチャー・クライメート・チェンジ』に発表された。米オレゴン州立大学と米ローレンスリバモア国立研究所の共同研究で、気候変動による海面上昇の影響は21世紀以降も長期的に続くというのだ。炭素循環にはきわめて長い期間がかかることから、排出量をたとえ大幅に削減したとしても十分ではないと、論文は指摘する。

 共同研究者の一人であるオレゴン州立大学の古気候学者のピーター・クラーク氏は、「気候変動の最悪のシナリオを回避するには、排出量をできるだけ早くゼロまたはマイナスに転じさせなければなりません」と言う。

 カルデイラ氏は、CO2除去による影響を研究するのは良いことであるとしながらも、それと引き換えに太陽光発電など確実なテクノロジーへの投資を減らすべきではないと指摘する。

 CO2削減に関する地球工学の影響を研究するウィリアムソン氏は、事態はもはや先送りできる状況ではないと警告する。「政府や政策立案者たちにとって、決定を先送りするほうが簡単です。でも、それでは手遅れになってしまうのです」

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