ビジネス転換期に来た世界のエネルギー・環境政策

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転換期に来た世界のエネルギー・環境政策

 気候変動問題に率先して取り組み、化石燃料離れに挑戦してきた主要先進国のエネルギー政策は、この1、2年パラダイムシフトと呼べる転換期に直面している。それは、米国のシェール革命に後押しされたオバマ大統領の脱石炭政策に代表される急激な石炭離れの動きに例示されている。さらに米国のシェール革命は米国を世界最大の産油国に押し上げ、結果として原油価格の下落を招き、自動車用燃料の代替として登場した生物由来のバイオ燃料の競争力にダメージを与えることにもなった。シェール革命が自動車産業の将来図も変えることになるかもしれない。

 経済成長のためエネルギー消費が急増している新興国もパラダイムシフトから無縁ではない。大気汚染に悩まされる中国は、PM2.5の原因の一つである石炭の消費を削減せざるを得ない。中国は2030年までに二酸化炭素(CO2)の排出量をピークアウトさせるとし、削減の道筋を描いているが、その背景には大気汚染対策がある。電力不足に悩むインドは、あらゆる発電設備を導入せざるを得ない。石炭火力も増えるが、太陽光発電設備などの再エネも増やさざるを得ない。再エネの導入は気候変動対策にもなる。その資金援助を、気候変動対策として行うように先進国に求めている。

 シェール革命、原油価格下落、気候変動、大気汚染問題にみられるように、各国はエネルギー、環境問題で新たな局面と課題に直面しているが、新局面は、主要国の石炭離れ、再エネ、原子力発電増強の形に現われ、さらに新たなビジネスチャンスも作り出すことになる。

 日本企業もこの流れを受け止め失われた20年間で弱まった競争力を強化し、米中独韓との競争を勝ち抜き、輸出市場でのシェア拡大を狙うべき時だ。

石炭の黄金時代の終焉は長い日没

 国際エネルギー機関(IEA)は、最近発行されたレポートで「石炭の黄金時代の終焉」といい、1973年の第一次オイルショック以降続いて来た石炭消費拡大が遂に頭打ちになったとしている。オイルショックを契機に、主要先進国は一斉に石油から価格競争力のある石炭に燃料転換を図った。日本でも輸入炭を利用した石炭火力発電所が1981年に初めて運転を開始した。発電用、セメント焼成用燃料として先進国の需要が急増したが、やがて一段落すると代わって中国の需要が爆発的に増加することになる。

 1990年代から急速な経済成長期に入った中国では、電力需要も急増した。いま、中国の電力供給量は世界最大であり、日本の5倍になるが、その電力供給増強の大半を担ったのは国内に豊富にある石炭だった。1973年に4億トン強だった生産量は、90に10億トン、2000年には13億トンになり、2014年には38億トンになる。世界の石炭生産量は73年の30 億7000万トンが2013年に79億700万トンになったが、2014年には78億6000万トンと、オイルショック以降初めて世界の生産量が前年から減少し頭打ちになった。IEAは黄金時代の終焉と呼び、長期に亘り減少が続く、長い日没の始まりとしている。


米中の石炭離れは事実だが

 この石炭生産量の減少を引き起こしたのは、第一に中国の消費量の減少だ。IEAによると2013年に40億トンを超えた消費量は、14年に39億1000万トンと初めて減少した。大気汚染対策のため消費量を抑制したのが原因だろう。世界第2位の石炭生産、消費国の米国でも石炭生産と消費の減少が続き、石炭黄金時代の終焉に寄与している。シェール革命により天然ガス価格が下落し、産炭地の発電所を除き天然ガスが価格競争力を持つことになったためだ。

 英国は2025年石炭火力全廃の方針をCOP21の前に明らかにしたが、ドイツ環境相もCOP後に2050年石炭火力全廃と述べている。中国、米国、欧州と石炭離れが進んでいるが、本当に石炭の黄金時代は終わったのだろうか。12億2000万の人口のうち2億4000万人の電力供給がない人を抱え、電力不足に悩むインドでは、図-1が示すように、石炭生産量と消費増は増加を続けている。今後も電力需要量は大きく増えるが、インドの気候変動対策は効率目標だから、CO2の絶対量の削減には当分踏み切ることはなく、石炭消費量も増加する。

 世界の石炭生産量と消費量が本当にピークアウトし長期に亘る下落に転じたのか、もう少しアジアでの消費の様子を見る必要がありそうだ。火力発電設備の途上国への輸出に関しては、米国、フランスの輸銀を初め世銀、欧州復興開発銀行などが原則禁止を打ち出しているが、石炭需要が伸びる新興国は設備を必要としている。

見直される原子力

 COP21で合意されたパリ協定では産業革命以降の気温上昇を2度未満に抑制し、さらに1.5度未満を目指し努力することになった。2度未満に抑制するためには、省エネを進め電力消費を抑制しCO2を殆ど排出しない低炭素電源と呼ばれる太陽光、風力などの再エネと原子力を大幅に増やす必要がある。

 IEAによると、2度目標達のためには現在の世界の電力供給の構成を大きく変え、2013年の構成比、化石燃料68%、再エネ21%、原子力11%を、2030年に化石燃料43%、再エネ41%、原子力16%、40年にはそれぞれ30%、51%、18%の比率にする必要がある。

 世界の原子力発電の発電設備量は15年12月の4億3900万kWから2030年に6億6000万kW、40年には8億6200万kWと拡大することになる。今後老朽化による廃炉もあることを考慮すると、毎年2000万kW以上の原子力発電所が建設される勘定だ。

 設備費の下落が今後も続くと予想される再エネも大きな伸びを見せるが、再エネには克服すべき大きな課題がある。発電コストだけ見ると、風量、日照に恵まれた地域では再エネは火力発電による発電と競争可能になっているが、いつも発電できないため不安定になる再エネからの電気を送電に際し安定化させるシステムコストと呼ばれる費用が必要になる。

 再エネからの不安定な発電量が増えれば、安定化のコストはさらに必要になる。例えば、ドイツで太陽光発電の比率が30%に達したと想定すると、その時のシステムコストは1kWh当たり8.3米セントにも達する。これでは、発電コストが多少下がっても、その効果は帳消しだ。大きな比率の再エネ電源を導入するためには、蓄電設備などの安定化設備の大幅コストダウンが必要になる。


原油価格の下落と米国の原油輸出解禁

 原油価格の下落が続いている。石油輸出国機構(OPEC)が生産調整を行わないのも一つの理由だが、米国でのシェールオイルの生産量が増えていることも影響を与えている。米国はサウジアラビアとロシアを抜き、世界一の石油、天然ガス生産国になった。米国の原油生産量と輸入量は図-2の通り逆転した。

 米国の製油所は、中東、南米からの重質油を扱う設備が多く、シェール革命以降米国内で生産が増えている軽質油がだぶつくようになり、米国の基準油価であるWTIが常に国際価格とされる欧州のブレントを下回るようになった。図-3の通りだ。この状態を解消する手段が、1975年の12月から40年間続いた米国産原油の輸出禁止を解くことだった。

 米国内の原油価格の下落は生産の減少を引き起こし、米国の原油の輸入依存度を再度高めることになるとの危機感がこの決定の背景にあるとも言われている。加えるに、輸出の解禁により、原油生産は日産1100万バレルを超え、新規雇用はピーク時には100万人近くに達するとの目論見もある。

 米国の原油輸出が市場に与える影響については、中国の景気など不透明な要素があるが、ゴールドマンサックスは最悪バレル20ドルもあり得るとみている。2016年のWTIの平均価格の予想はバレル45ドルとしている。

 低迷する原油価格は様々な影響を与えるが、植物由来のバイオ燃料が相対的な競争力を失うことは気候変動対策に影響を及ぼす。かつて石油は発電用などの燃料として使用されることも多かったが、オイルショック以降、天然ガスと石炭にその用途は代替され、いまの主な用途は輸送用と石油化学の原料だ。輸送部門での石油の使用とCO2の発生を減少させる手段がバイオディーゼル、バイオエタノールだ。バイオ燃料については食料との競合の指摘があり一時ほどの勢いはないが、依然CO2削減の有力な手段の一つだ。原油価格の低迷は、バイオ燃料の将来に影を落とすことになる。

 原油価格の下落は、相対的に電気自動車の競争力を奪うが、一方バイオ燃料の供給が不透明になることにより、気候変動対策から電気自動車への需要を喚起するかもしれない。

ビジネスチャンスを見極める

 日本企業は失われた20年間で、国際競争力を失ったように思える。経済協力開発機構(OECD)統計では、2005年から2012年の対国内総生産(GDP)の研究開発投資は、主要国中最下位まで日本は沈んだ。表の通り、1位の韓国10.3%に対し、日本は0.6%だ。

 いま、日本企業は研究開発投資増強に動いているが、費用対効果を考え投資を行う必要がある。太陽光発電技術に関する特許を調査したレポートによると、特許保有数上位15社のうち日本企業が11社(あとは韓国3社、中国1社)を占めているが、いま市場を席巻しているのは中国企業製の設備だ。日本企業は特許料収入を得ているかもしれないが、いま必要なのは収益と雇用拡大に結び付く研究開発だ。

 エネルギー環境分野での大きな流れから、今後の有望なビジネスが浮かび上がってくる。まず、再エネの安定化、蓄電技術だ。この分野は米国、ドイツ政府なども力を入れており競争も厳しい。だが、将来再エネによる世界の発電比率が50%を超えるのであれば、巨大な市場になる。かつて日本企業は蓄電池では大きな世界シェアを持っていた。力はある筈だ。

 気候変動対策に原子力は欠かせない。2度未満に気温上昇を抑制する努力がなされるならば、大きな成長が期待できる分野だ。中国、インドを初め多くの新興国が、今後原子力発電に力を入れることになる。アレバ、ウエスティングハウスに学んでいる中国がライバルとして登場しているが、東芝/ウエスティングハウス、日立/GEは技術的に優位に立っているはずだ。

 石炭火力設備は、米国、多くの欧州諸国が途上国での新設に否定的な立場を取っているが、多くの途上国は安全保障上、経済性の面から石炭への依存を続けるだろう。そうであれば、中韓企業と競争し、エネルギー効率の高い設備を競争力のある価格で提供する必要がある。効率のよい天然ガス火力設備の提供では米独企業との競争になる。

 米国は、ハイブリッドよりも電気自動車に力を入れている。米国メーカーがハイブリッドでは競争できないからではないかと疑いたくもなるが、原油価格の下落は電気自動車の需要に影響を与えることになる。燃費の向上にもさらなる力を入れることも必要だ。省エネ住宅、ビルもこれから大きな市場を中国、インドを中心にした途上国で作り出すことになる。

 気候変動問題を中心に、エネルギー・環境政策はさらに変わっていく。ビル・ゲイツが主張する通り、原子力、再エネ、省エネ住宅、エネルギー効率向上、全ての分野でイノベーションが必要だ。事業を通しエネルギー・環境問題の解決に貢献することが日本企業に最も求められている時代だ。

  
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