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コーヒーで旅する日本/関西編|コーヒーを通して素晴らしいつながりが生まれる場を目指して。「GRANKNOT coffee」が続ける“深化”と“進化”

  • 2023年6月6日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第63回は、大阪市西区の「GRANKNOT coffee」。高感度なショップや飲食店が集う堀江エリアにあって、コーヒーを主役に据えたスタンドとして、2013年にいち早くオープン。今では、個性派コーヒーショップがひしめく界隈の、草分け的な一軒として厚い支持を得ている。自らを凝り性と評する店主の芝野さんは、アパレルの仕事から転身し、バリスタ修業時代からコーヒーの世界に没頭。開店後も尽きぬ探求心を発揮して、今ではロースターとしても存在感を高めつつある。1杯のコーヒーを通して“素晴らしいつながり=GRANKNOT”を生みだす芝野さんが腐心する、“深化”と“進化”の継続とは。

Profile|芝野勝也 (しばの・かつや)
1978年(昭和53年)、大阪府生まれ、アパレルショップで6年勤務した後に、コーヒー店の開業を志し、大阪府内のカフェ・バールでバリスタとして3年あまり修業。2013年、大阪市西区の堀江に「GRANKNOT coffee」を開業。2018年に焙煎機を導入し、自家焙煎もスタート。2023年春には、新たなブランド「バトン」を立ち上げ、堺市の浜寺公園にロースター兼菓子工房をオープン。

■回り道を経てつながった、コーヒーとの運命的な縁
「子供の頃、両親が喫茶店をしていて、サイフォンの動きがおもしろくてよく眺めていました。店でコーヒーを飲んでいる人を見て、“大人やなあ”と思って、一回、真似して飲んでみたら、やっぱり苦かったですね(笑)」という店主の芝野さん。実家が喫茶店を営み、しかも誕生日が10月1日の“コーヒーの日”。長じて、10年前に「GRANKNOT coffee」を創業したのだから、何やら不思議な運命の綾さえ感じさせる。まさに三つ子の魂と言えなくもないが、実は、芝野さんがコーヒーのおいしさを知ったのはアパレルの仕事から、飲食業へと転身してからのことだった。

「当時は、仕事の息抜きなどで、何かとカフェに行くことが多くて。実家の喫茶店の影響もあるかもしれませんが、いろんな店に通ううちに、自分でも空間のデザインや人の集まる場を作ることに興味が湧いてきたんです。そこから開業を目指して働き始めたカフェが、コーヒーにこだわりのある店で、このときにコーヒーのおいしさに気付けた。コーヒーに触れるのが早すぎて、逆に苦手意識がついていたから、だいぶん遠回りしました」と振り返る。

自らを評して1つのことにハマると、とことんまで突き詰めるタイプという芝野さん。その後は、Knoppの吉田さんやCOCO COFFEEの西村さんも在籍した、シェーカーズカフェ・ラウンジで、バリスタとして本格的に修業。「本気で競技会の世界一を目指したこともあって、一時は常にミルクピッチャーを持ち歩いて、電車の中などでも振る練習をしていました (笑)」とは、当時の熱の入れようが伝わるエピソードだ。そんな芝野さんは、開店を目前にしたあるとき、自身の想像をはるかに超えた、究極ともいえるエスプレッソと出会ったことで、目指すべき道を見出す。

「大阪で開催されたセミナーで、島根のカフェロッソの店主・門脇洋之さんが淹れてくれたエスプレッソが、あまりに衝撃的で。自分でもそれなりにコーヒーのことを勉強してきたつもりでしたが、“とんでもないものを飲んだ”という感覚がありました。普通、複雑で強い味を出そうとすると、後味が重く残りがちですが、最初の香りのインパクトから、途中の風味の広がりと変化、余韻の消え方に至るまで、味作りがとにかく精密で。以来、理想の味として、店を始めてからもずっと追いかけ続けて、3年ほどして島根までもう一度確認しに行ったくらい」という芝野さん。カフェロッソを訪れた際、門脇さんからは、まだ完成ではないと聞かされ、さらに衝撃を受けたという。そのとき、店の焙煎機に貼ってあった“神は細部に宿る”というフレーズは、今でも自身のモットーとして胸に刻まれている。

■持ち前の“深化の気性”で一杯の口福をとことん追求
試行錯誤を重ねながら、芝野さんが店を構えた大阪の堀江は、心斎橋・アメリカ村の西側にあって、古くから家具の街として知られたエリア。一時は寂れた界隈だが、90年代に当時、注目のセレクトショップやインテリア・雑貨店が相次いでオープンし、一躍、大阪のトレンド発信地へと様変わり。折しも、カフェブームの真っ只中にあって、話題のカフェも続々と登場し、現在でも感度の高い店が集うエリアとして定着している。

「店のテーマは、“Good taste , tastes good”(趣味がよくて、おいしい)。アパレルの仕事を経験していることもあり、メニューがおいしいことはもちろん、おしゃれな場所で楽しんでもらうことを大事にしているので、店の立地は意識しました。堀江は街の気質が好きで、よく買い物に来ていましたが、出店した頃は堀江の勢いが一回下火になったときで、周りにコーヒースタンドもなかったので、そのときはちょっと勇気がいりましたね」。いまや、多くのマイクロロースターやスタンドが点在する界隈にあって、「GRANKNOT coffee」は先駆け的な存在でもある。

「カフェのようにデザートや軽食をいろいろ置くと、どうしてもコーヒーが脇にいってしまう。あくまでコーヒーを主役に楽しんでもらえる店に」と、創業以来、メニューはほぼコーヒーオンリー。なかでも、21グラムから23グラムと贅沢に豆を使い、旨味と香味がギュッと詰まったリストレットで提供するエスプレッソは、店の顏だ。「どんなにトレンドが変わってもエスプレッソは深煎り一本。当初、ブレンドに配合していたロブスタこそ、今は使っていませんが、本場イタリアの味をイメージしています」と芝野さん。ぽてっとしたクレマから立ち上る分厚いアロマ、どしっとしたボディ感は、思わず目が覚める一杯だ。

カフェラテにすると、エスプレッソの芳香がミルクの甘味と溶け合い、まろやかなコクとビターな香味の余韻が後を引く。「ラテのデザインは常に同じ柄、自分が一番きれいに描ける1種類に決めています。複雑さを追求するあまり、味が損なわれては本末転倒。あれこれ絵柄を変えるとブレてしまうので。その代わり、判を押したように同じ形に描くことを心掛けています」。ラテアートも今や当たり前になったが、シンプルな柄でも精度を突き詰めると、一朝一夕でできるものではない。正確に描かれた柄は、安定した味わいの証。ここにも、芝野さんの“深化の気性”が発揮されている。

■初心を忘れず新鮮な気持ちで、常に刺激がある店に
また、開店当初は、府内で深煎りに定評のあるロースターから豆を仕入れていたが、2018年から自家焙煎に切り替えた。「仕入れるとなると、どうしても細かいニュアンスまで伝えきれない部分もあり、原料から味をコントロールしたいという思いが年々強まってきて。今は自分のイメージを元に焙煎の仮説・検証を重ねて、毎日飲んでもおいしいと思える豆を吟味しています」と芝野さん。3種のブレンドを中心に、年に1,2回は個性の際立つシングルオリジンを提案。変化をつけることで逆に、定番の味の魅力を再認識してもらいたいとの思いもある。

これまで、焙煎機は懇意の店に間借りの形で置かせてもらっていたが、2023年、堺に待望の焙煎所を開設。奥様が手掛ける菓子の工房・販売スペースも併設した、新ブランド「BATON coffee & pastries」として展開する。「新しい店があるのは、海に面した浜寺公園のパークサイド。今の店が街なかにあるので、次にやるなら外に自然の眺めが広がる場所で、自分たちができる範囲で携われる、家族経営的なスタイルをイメージしていました。自分が子供の頃、喫茶店で両親を見ていたように、家族にもモノづくりをしている姿を見てほしいという思いもあります。コーヒーでなくてもいいけど、いいものを作ったら人に喜んでもらえる、というのが伝わったらうれしいですね」

ロースターとしての拠点ができたことで、堀江の店を離れることも多くなったが、それゆえに逆に愛着が増したという芝野さん。「堺にいることが多くなったなかで、ここに戻ってくると改めて、“この場所が好きだな”と思える自分に気付きました。店を10年続けてきた今、次の10年を続けることがいかに難しいか、よくわかります。これからも、オーセンティックなスタイルに敬意を払うと同時に、今の時代に求められるものも取り入れてアップデートしていきたい。いつ来ても新しい部分がある、刺激を感じられる店にできれば」。

長年、コーヒーに向き合いながら、「今でも飽きることはない」という尽きぬ探求心は、変化を求めながらも初心を失わない、謙虚な姿勢の賜物だ。「コーヒーを出すときは、実はいまだに緊張します。今も、開業して最初の一杯目を出した時と同じ気持ちを持ちながら、新しい器具を試したり、浅煎りの焙煎にもチャレンジしたり、新しい試みを続けています。だから、開店当初から自分のスタンスは変わってないですね。これからも人のつながりを大切に、相変わらず一杯のコーヒーにありえないほど熱意を注いでいると思います」

■芝野さんレコメンドのコーヒーショップは「THE INY COFFEE」
次回、紹介するのは、奈良県葛城市の「THE INY COFFEE」。
「店主の稲田さんは、大阪・心斎橋でバリスタとして働いていた頃に、よく店に来てくれていたお客さんの一人。お互いエスプレッソが好きで、理想とする味の傾向も近くて、独立してからは店作りについて相談することもあります。カメラマンとしても活動しているだけに、センスと人柄のよさは折り紙付き。のどかな葛城山麓という立地と、スタイリッシュな店構えのギャップにも、彼のキャラクターが出ていて、開業時から応援している一軒です」(芝野さん)

【GRANKNOT coffeeのコーヒーデータ】
●焙煎機/プロバトーン 5キロ(完全熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ・ムゲン+スイッチのカスタム)、エスプレッソマシン(シネッソ)
●焙煎度合い/中浅~深煎り
●テイクアウト/ あり(550円~)
●豆の販売/ブレンド3種、シングルオリジン3種、100グラム800円

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




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