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コーヒーで旅する日本/九州編|コーヒーショップ、カフェ、喫茶店。人それぞれの捉え方で利用できる場所に。「REC COFFEE」

  • 2023年4月17日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。
なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第68回は福岡県福岡市で創業し、今や東京、台湾にも支店を展開する「REC COFFEE」。おそらく福岡では最もその名を知られるコーヒーショップの一つで、コーヒーに興味がない人でも「あ、あそこのお店ね」と分かるぐらい地域に馴染み、そして多くの人に親しまれている。その理由は代表を務める岩瀬由和バリスタがジャパンバリスタチャンピオンシップで2014年、2015年と2連覇を果たし、さらに2016年のワールドバリスタチャンピオンシップで準優勝といった功績をあげていることが大きい。日本一に2度輝き、さらに世界2位となったのはとてもキャッチーだし、この結果があったからこそ全国的に「福岡のコーヒーシーンは盛り上がっている」「福岡のコーヒーのレベルは高い」と認識が広まったのは少なからずあるだろう。それも踏まえ「東京に加えて台湾に出店しているのはすごいこと。さすがバリスタチャンピオン」と切り出すと、岩瀬さんは「ありがとうございます。ただ、競技会の結果は過去のことです」と一言。福岡が全国に誇るコーヒーショップ「REC COFFEE」のリアルな今に迫りたい。

Profile|岩瀬由和(いわせ・よしかず)
1981(昭和56)年、愛知県生まれ。大学卒業後、福岡に移住。コーヒーに関わる仕事に興味を持ち、manucoffeeでアルバイトを始める。2008年、共同代表の北添修さんと一緒に移動販売で「REC COFFEE」を開業。オープン当時からハニー珈琲から豆を仕入れ、スペシャルティコーヒーに特化。2010年に薬院に初の路面店をオープンし、2018年から自家焙煎にシフト。現在福岡に5店舗、東京2店舗、台湾2店舗を展開。2023年夏ごろに福岡市博多区に焙煎工場とパティスリーを新たにオープン予定。

■とにかく走り続けた15年
まず「REC COFFEE」とはどんな店なのか。ある程度コーヒーが好きな人なら周知のことだが、改めてその歴史を振り返ってみる。
●2008年、移動販売形態からスタート。「薬院にあるトラックのコーヒーショップ」として少しずつ認知を広める。
●当時は珍しかった移動販売スタイルが話題を集め、地元のメディアに注目される。ただ、あくまで移動販売はフックで、根本にはスペシャルティコーヒーというこだわりがあったのがポイント。このころから一生懸命、スペシャルティコーヒーがいかに良いものかを啓蒙。そうやって共同代表である岩瀬由和さん、北添修さん2人で地道にファンを増やす日々。
●2010年、初の路面店として薬院駅前店をオープン。移動販売は一旦終了。
●実店舗オープン後も、福岡のスペシャルティコーヒーの先駆・ハニー珈琲の井崎克英さんらの教えを受けながら、岩瀬さん、北添さんともにバリスタとしてスキルアップ。
●2011年、ジャパンバリスタチャンピオンシップで岩瀬さんが3位入賞。この経験から競技会に出場することで自身の技術・知識が大きく伸びることを実感。競技会で結果を残すためにさらにコーヒーと向き合う濃密な日々を過ごす。
●2014年のジャパンバリスタチャンピオンシップで岩瀬由和さんが初優勝。同年、県庁東店をオープン。いわゆるここからが「REC COFFEE」にとって過渡期となる。
●日本代表として挑んだ初めての世界大会、ワールドバリスタチャンピオンシップ2015で7位入賞。ファイナリストになる条件が6位のため、岩瀬さんはもう一度世界で挑戦したいと、さらに競技会に向けて努力。2015年のジャパンバリスタチャンピオンシップで見事2連覇。その後、出場したワールドバリスタチャンピオンシップ2016では準優勝に輝く。バリスタとしての岩瀬さんの存在を世界に発信。
●「REC COFFEE」の快進撃スタート。2016年、博多マルイ店オープン、2018年初の東京出店となる表参道ヒルズ店オープン、Ploom Tech Shopとのコラボ店・天神店オープン。よりオリジナリティを高めるべく、自家焙煎にシフトしたのも2018年。

●2019年、浄水テラス店、東京・水道橋店をオープン。
●2020年、Ploom Tech Shopとのコラボ店・天神店の閉店に伴い、天神南店オープン。同年、チャレンジ的にテイクアウトメインの天神北 TOGO SHOPをオープン(こちらは2年間のみ営業)
●まともにカフェ営業ができないコロナ禍において、ECサイト限定の商品を展開するなど、オンラインショップをテコ入れ。通販事業を拡大させる。そんな中、2021年、海外1号店となる台中旗艦店、Taiwan崇德店を立て続けにオープン。「コロナ真っ只中でしたが、台湾は徹底した防疫対策をとっていたため、感染者数は多くなく、出店するならこのタイミングしかないと決断しました」と岩瀬さん。さすがのバイタリティだし、判断力がすごい。
●2022年、渋谷の人気カフェ・COFFEEHOUSE NISHIYAの場所と思いを受け継ぎ、渋谷東店をオープン。

■できる限り多くの人にコーヒーを
ざっと書いただけでも開業から15年でこの実績。「REC COFFEE」が福岡のコーヒーシーンを牽引し続ける一店であるのは言わずもがなだ。
ただ岩瀬さんは、「福岡を代表するなんてまだまだです。実際、福岡以外の場所にオープンすると、まずは『REC COFFEEとはこういうお店です』という自己紹介からしっかり行っています。これは当たり前なことで、それだけ認知されていないということなんですね。私たちが今強く考えているのは、店を広めたい、存在を大きくしたいというわけではなく、『うちのコーヒーを1杯でも多く、たくさんの人に飲んでもらいたい』ということです。これって僕と北添2人でトラックで移動販売していた時に毎日思っていたことで、原点回帰なんですよ。腹を割って話すと、ちょっと前は店舗展開を含め、事業拡大に重きを置いていた時期もあったんです。ただコロナ禍を経験したこともあり、それはなにか違うなと思い直しました。クラウドファンディングを活用させていただいた時に、多くのお客様から支援とともに励ましの声をたくさんいただいたんですね。僕たちは本当に感動して、自分たちがコーヒーショップとして動き始めた時に抱いていた思いを改めて思い出すきっかけになりました」と熱を込める。
■敷居を低く、間口は広く
2000年代初頭から世に出回り始め、2010年ごろにやっと認知され始めたスペシャルティコーヒー。もちろん「REC COFFEE」でも開業当初はその特別な豆が持つ味わい、フレーバーなどを言葉でも伝えてきたが、スペシャルティ規格がスタンダードになった今、多くは語らない。その理由を岩瀬さんはこう話す。

「バリスタチャンピオンが淹れる、希少なスペシャルティコーヒーという謳い文句は確かにキャッチーですし、コーヒーに興味がある人にとってはフックになると思うんです。ただ、僕たちが提案していきたいのはそうじゃない。まず、日々利用しやすい店であることが大前提。“気が向いたらふらりと立ち寄りやすいし、なんかこの店は接客やサービスも気持ちいいよね。そういえばコーヒーとスイーツもおいしい”ぐらいの感覚でお客様の日常になじみたいと考えています。コーヒーショップって敷居はできるだけ低く、間口は広くあるべきで、スタンダードなメニューに関してはエッジを効かせる必要もない。店舗の存在価値に関しても同じで、ハード面を強くするのではなく、ソフト面の方が大切。内面を磨きながら、サービス、クオリティを高め、お客様の満足度をいかに上げることができるか。これが一番大切だと考えています」

■味づくりは寄り添うこと
岩瀬さんは今、店舗に立つことはあまりない。産地に生豆の仕入れに行ったり、各地でセミナーに参加したり、「REC COFFEE」のトップバリスタとしての活動がメインになっている。原料を選ぶなどコーヒーの味作りの根本を岩瀬さんが担っているわけだが「REC COFFEE」が目指す理想の味わいというものがあるのだろうか。

「絶対にぶれさせちゃいけないのがカップクオリティ。そこには生豆自体が持つ品質の良し悪しが大切になってきます。10数年前、スペシャルティコーヒーを初めて飲んだ時、当たり前ですがものすごく感動したんです。その時の気持ちを忘れないよう、常に品質の良い生豆を仕入れていきたいですし、そこにプラスして『REC COFFEE』を好きでいてくださるお客様が、どんな味わいを求めているかという点も意識していきたい。味作りに関してやっていくことはこれからも大きくは変わりませんが、よりお客様に寄り添う店づくりという意味では、それぞれの店でどんな味わいが好まれてていて、通販実績から見えてくる地域性といった点もしっかり分析していきたい。コーヒーラバーの間でスペシャルティコーヒーが当たり前になった今、お客様の楽しみ方は年々変わってきています。そこにしっかり応えることができるかが味づくりに関しても大切ではないでしょうか」

一昔前はスペシャルティコーヒーは豆それぞれの個性が生きるようシングルオリジンが当たり前、抽出は豆が持つ油分をすべて液体に落とせる金属フィルターが良い、といったことが言われていたが、今は違う。「REC COFFEE」もまた「味わいのコントロールができるのがペーパードリップの魅力」「当店の看板ブレンドはこちらです!って端的におすすめできた方が良い」と、時代に合わせてわかりやすいスタイルへと年々進化している。こうやって自分たちが“いち消費者だったら”というシンプルな考えがあるからこそ、「REC COFFEE」は多くのファンを獲得していっているのだろう。

■岩瀬さんレコメンドのコーヒーショップは「ハニー珈琲」
「『ハニー珈琲』の井崎克英さんは私にコーヒーの楽しさを教えてくれた方。井崎さんがいなかったら、福岡のコーヒーシーンのここ20年ほどは少し違ったかもしれません。それぐらいスペシャルティコーヒーの啓蒙という点において尽力された方で、もちろん私も相当お世話になっています。井崎さんの生豆の良し悪しを見る力は今もさすがです」(岩瀬さん)

【REC COFFEE 浄水テラス店のコーヒーデータ】
●焙煎機/DIEDRICH 5キロ
●抽出/ハンドドリップ(HARIO V60)、エスプレッソマシン(VICTORIA ARDUINO BLACK EAGLE)
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム850円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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