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覆面姿で客人を迎える母親。悲鳴を上げる客人の前に現れた娘の姿にまた悲鳴【作者に聞く】

  • 2023年4月24日
  • Walkerplus

日常に転がるちょっとした事件を、ドライブ感あふれる筆致でユーモアたっぷりに書き、Twitterとnoteで配信しているやーこさん(@yalalalalalala)。抱腹絶倒の展開と劇的なオチの真相は不明、謎多き存在だが、その世界観に魅了されるファンが増え続けている。

そして、やーこさんのファンアートを投稿し続け、ファン界隈では神絵師とも言われているイラストレーター・栖周さん(@sumiamane)の作品も笑いの起爆剤となり、ますます人気を集めている。

そんな話題の2人がコラボした連載「猫の診察で思いがけないすれ違いの末、みんな小刻みに震えました」。やーこさんの笑いしか生まれないユーモラスな文章と、その笑いを加速させる栖周さんのイラストを、やーこさんのコメント付きでお届け。

今回の作品は、家に客人を迎える際は身だしなみに気を付けたいと思う「男が玄関に入ってきて悲鳴を上げた話」。思わず笑ってしまう可能性があるので、念のため周りに人がいないか確認してから読むのをおすすめする(気にしない方はそのままお読みください)。

■【男が玄関に入ってきて悲鳴を上げた話】

引っ越し当初、まだエアコンを設置していない寒い部屋で私と母は凍えていた。なんとか耳だけはいつもの防寒対策で暖かくできたが部屋自体は寒く、電気ストーブなどで寒さを凌ごうともしたがどうにもならず、終いには暖をとるため当時飼っていた犬の取り合いにまで発展した。

人間のあまりの愚かさに嫌気がさしたのか、犬は深いため息を吐くと自分の小屋に入ってしまった。何度か呼び戻そうと呼んだが、小屋からしっぽだけを出しおざなりに返事をするばかりで出てくる事はなかった。愛犬に見捨てられてしまった……と、悲しみに暮れた私たちは
「各々自分の部屋で毛布に包まろう」
と、リビングで解散し、足取り重く自室へ向かった。毛布に包まり、うつらうつらしているとインターホンの音で目が覚め、数秒後に短い悲鳴が聞こえた。まさかとは思ったが万が一の為に木刀を持って急いで下へ降りた。すると、凄い形相の男が玄関に立っていた。



母がこちらへゆっくりと振り返った。母は目と鼻と口が出るタイプの覆面を被っていたままであった。寒さ対策に目出し帽を被っていたのだが、そんな事などすっかり忘れ、そのまま玄関のドアを開けてしまった様であった。

男は私の方に気が付くと、再び声を上げた。そう、私も被っていたのだ、同じ理由で同じタイプの覆面を。しかも、手に脇差サイズの木刀を持っている。これを異様な光景と言わずして何が異様と言えよう。不幸な事に私も母同様に覆面がしっかりと皮膚に馴染み、己の姿を自覚していなかった。ドアを開けた瞬間に薄暗い玄関に現れた覆面だけでも不気味であるのに、更に奥から武器を持った物騒な覆面が登場した事により、男は何らかの悪の組織のアジトに迷いこんでしまった子供のように混乱していた。穏やかな日常が崩れる音を聴いた事だろう。

男の悲鳴に興奮したのか、犬がリビングから現れ足元でぐるぐると回りながら吠え始めた。覆面二体と、謎の男、そして荒ぶる犬。もはやどういう状況なのか誰にも分からぬ。



男が我々を悪の組織の一味と勘違いする前に母の覆面を外し誤解を解かねばならない。しかし、説明しようにも至近距離で本気で吠える犬の声にかき消されうまく伝わらない。更に母と私は自分の事は棚に上げ、互いに覆面姿である事を気づかせようと同時に喋るので尚更難航した。母はとうとう痺れを切らし、私の覆面に手をかけ実力行使にでた。我が家に悪役レスラーが誕生した瞬間であった。目の前で突如行われたマスク剥ぎに、男は一体何を見せられているのだろうと思った事だろう。私が彼ならば、もう帰りたいと思っている。何も知らない男から見ればアジトで勃発した仲間割れの現場である。

母が私の顔から剥いだ拍子に、覆面は床に落ちてしまい、それをすかさず犬が奪い振り回している。しかし、私から剥いだところで母はまだ覆面姿であり、なんの解決にもならない。無駄に私の顔が公開されただけになってしまった。ここで正気に戻れば良いものの、自分も覆面姿であった事に気が付いた私は、恥ずかしさからパニックに陥り「早く顔を隠さなければ」と犬から覆面を取り返そうとする暴挙にでてしまった。男の瞳には「すみませんねえ、騒がしくて」と男に語りかける覆面の母と、その背後で髪を振り乱し犬と覆面を奪い合う娘の映像が延々と流れている。



これに比べれば、インドカレー屋で流れている字幕の無いインド映画を観る方が遥かに解釈しやすい事だろう。男は
「一回、外に出ますね……」
と、外へ出ていった。賢明な判断だと思う。因みに男は不動産関係者だった。 (終)


この作品について、やーこさんは「これは本当に気をつけて頂きたい。覆面の過度の使用は大変危険である。一度そのままコンビニへ行きそうになり、道中いつも撫でている犬とその飼い主に威嚇された事により自分が覆面を被っている事に気が付き事なきを得た。危うくコンビニ店員にカラーボールを投げつけられるところであった」とのこと。

また、その場の雰囲気を迫力あるイラストで表現した栖周さんは、「防寒具に目出し帽を使う…私には無い発想です。それだけに、訪れた玄関からこんな人物達が現れたら悲鳴を上げてしまいそうです。ましてや手に木刀。遭遇された男性の事を思うと…ニヤニヤが止まらなくて申し訳ないです(でも笑う)」と話す。

不動産関係の男は、目の前の覆面親子にさぞ驚いたことだろう。自分の家でどのような格好をしようと自由だが、事件性をも感じてしまう覆面だけは被る前に冷静になって考えるべきだ。

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