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「エレベーター」での逃げ場なき怪奇体験にゾッとする…「陽」も「陰」も描く漫画家の短編ホラー

  • 2022年10月10日
  • Walkerplus

一つの作風を貫くスタイルが魅力的である一方、作品の振れ幅が大きい作家はその引き出しの多さや深さに驚嘆するもの。先日ウォーカープラスで紹介した「抱っこされてみたい父親の話」を描いた漫画家・柏木大樹(@kasiwagidaiki)さんもそうした魅力を持った漫画家だ。「陽」の話も「陰」の話も描くという柏木さんの作品の中から、今回は背筋がゾッとするようなホラーを描いた作品を紹介。そして、自らの作品の幅に対するスタンスも合わせてうかがった。

■エレベーターで遭遇した怪奇体験。再び乗り込んだ時に待ち受ける結末は…
7月末にTwitterに投稿された「エレベーターのお話」は、エレベーター内で起こる恐怖を描いた短編作品だ。ある女性がエレベーターに乗り込み扉が閉まるのを待っていたところ、「すみませぇん」と外から呼びかけられる。

見ると、2人の子供を伴った夫婦の姿が。家族が乗り込むのを待ち、エレベーターが動き出した。だが、その途中でガゴンという音とともにエレベーターが停止してしまう。

慌てて非常ボタンを押そうとした女性だが、その指を家族連れの男性が掴んで制止。女性はそのままエレベーターの中央に追いやられ、四隅に立った家族連れに囲まれるという不可解な状況に陥った。理解不能な出来事にうろたえながら助けの電話をかけようとする女性に家族連れは近づき、「あ」「あ」「あ」と耳元でうめき声を上げ始める。

そして家族連れがいよいよ女性に触れようと手を伸ばした時、天井の点検口がふいに開いた。エレベーターの異常を察知した管理会社の作業員が点検にやってきたのだ。家族連れの姿も消え、怪奇現象から九死に一生を得た女性。それ以来、不便であっても一度もエレベーターに乗らない生活を続けてきた。

だがある日、エレベーターを避けて通れない場面に遭遇する。恋人が予約したお店がビルの64階にあるというのだ。恐らくプロポーズが待っているという大事な日に断るわけもいかず、64階まで階段で上がるのも困難。「彼も一緒だし」と、今回ばかりは目をつぶってエレベーターに乗り込むことを決意する。

エレベーター内に一歩を踏み出したものの、そこにどこからともかく大量の乗客が押し寄せ、女性は恋人と引き離されてしまう。エレベーターに閉じ込められ呆気にとられる女性を、その他すべての乗客が一斉に見つめ、「あ」と、忘れられない声が響くのだった。

■「いろんな色の花が咲いてる花壇」短編漫画の枠いっぱいに多種多様な漫画を
エレベーターという身近な空間を、静かな恐怖の場として描いた本作。抱っこをテーマに朗らかな雰囲気を描き、3万件を超えるいいねを集めた「抱っこされてみたい父親の話」から柏木さんの作品を知った人が読めば、その落差にことさら恐ろしさが引き立つ短編ホラーだ。

「コミックアルナ」にて、お笑いコンビ・土佐兄弟とコラボした漫画「とさのたね」を連載するかたわら、自身のTwitterやpixivFanBoxにて、明るく愉快な物語から今回紹介したようなホラー、さらには悲しい気持ちになる話まで、幅広い短編漫画を毎月公開し人気を博す柏木さん。作者として作風の幅へのスタンスを訊くと、「『短編漫画』という大きな括りの中で描いているので、どんな話を描いているときも感覚的にはあまり変わりません」という答えが返ってきた。

「ネームやプロットを作らず、行き当たりばったりで描いているので、そのつもりはなかったのに描き終わってみればホラーやバッドエンドになっていた、という場合も割とあります。地味だけどいろんな色の花が咲いてる花壇だと思って読んで貰えればいいと思います」

自ら作品に「陽」と「陰」があると話す柏木さん。短編としてどの作品もフラットに描いているものの、それでも作品を描き終えた後、キャラクターに小さな罪悪感を覚えることがあるという。

「『陽』を描いてる時も『陰』を描いてるときも、感覚やモチベーションにそれほど差はないのですが、描き終わったあとに登場人物に対して『悪いことをしてしまったな』という気持ちは少し発生しますね、特に死なせてしまった時などは。なので供養も兼ねて、毎年最後に、その年描いた短編漫画のキャラクター達が楽しく集合している絵を描いてます。今年はとある作品で相当数の死者を発生させてしまったので、『みんなごめんな』と思っています」

「短編漫画」という一つのジャンルの中で、固定観念にとらわれることなく多種多様な作品を描くスタイルこそが、人気作を生み出す秘訣の一つと言えるのかもしれない。


取材協力:柏木大樹(@kasiwagidaiki)

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