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コーヒーで旅する日本/九州編|内に秘めた確かな世界観を、コーヒーというフィルターを通して表現。「FILTER SUPPLY」

  • 2022年4月11日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第20回は、福岡市・高砂にある「FILTER SUPPLY」。2017年にオープンし、そのフォトジェニックなスタイルから、すぐに人気コーヒーショップとなったGood up Coffeeのオーナー・柴田就至さんが手掛けた店だ。ただ、「FILTER SUPPLY」はカフェラテやカプチーノなど、エスプレッソを用いたドリンク主体のGood up Coffeeとはメニューも店のスタイルも、全くの別物。自家焙煎の豆売りをメインに、イートインのメニューも豆がセレクトできるドリップコーヒーのみ。店内も外光がほとんど入らない造りで、シックで重厚な雰囲気。店のスタイル、世界観を含め、この店の“芯”にあるものに触れてみたい。

Profile|柴田就至さん
1989(昭和64)年、山口県宇部市生まれ。北九州市の大学を卒業後上京。約3年間、東京で大手カフェチェーン含めてさまざまな仕事をかけ持ちし、多くの経験を積む。なかでも強く興味を惹かれたのがコーヒー。福岡に移住し、大手コーヒーチェーンなどでアルバイトをしながら、さまざまなコーヒーショップを巡り歩く。2017年にGood up Coffeeを開業。店を軌道にのせ、念願だった自家焙煎に着手すべく、2019年初夏に「FILTER SUPPLY」をオープン。

■イメージしたのは清閑な茶室のような空間
まず、カジュアルなファサードで白を基調とした明るい雰囲気のGood up Coffeeと比べると、「FILTER SUPPLY」は気軽にふらりと入りやすい店構えではない。店頭には屋号だけが記され、店の存在を知らなければ、ここがコーヒーショップとはわからないだろう。なぜ、1店舗目とはまったく違う店作りをしたのか。

「1店舗目のGood up Coffeeは、この街のハブのような場所にしたいと思い、だれでも気軽に入りやすく、コーヒーがそこまで好きじゃない方でもオーダーしやすいメニュー展開にしました。そんなスタイルが多くの方々に共感いただき、今もおかげさまで若い年代のお客様を中心に親しんでいただけています。一方で『FILTER SUPPLY』は、焙煎所を兼ねていることもあり、お客様に目的を持ってご来店いただけるような店にしたかったんです。もちろん、コーヒー1杯だけを求めてご来店いただいてまったく構わないのですが、豆売りとドリップコーヒーしかない店なので、逆に入りやすい店構えにしちゃうと、がっかりされるお客様もいらっしゃるかな、と考えたのも理由の一つ」と柴田さん。

さらに、柴田さんはこうも続ける。「店内は周囲の環境から切り離された茶室のような空間にしたかったんです。そういった意味でも、入口から非日常的な雰囲気を演出したかった」

その言葉通り、木の引き戸を開けて店に入ると、街並みとはガラリと世界観が変わる印象。木板を組み合わせた壁、スポットライトが照らす店内中央の木の天板のアイランドタイプのカウンター。背面にはシックなデザインの瓶が並ぶ。実はこの瓶が豆売りで使用する容器になっている。一般的に袋に入れて豆を売る店が多いなか、これも「FILTER SUPPLY」ならではのオリジナリティだ。豆売りは基本的には瓶に入れて販売し、次回購入時に瓶を持参すれば、200円引きになるシステム。瓶をリユースすることで不要なゴミを出さず、環境にも優しい。

■飲んだ時の驚き、感動を大切に
コーヒー豆は自家焙煎。柴田さん自身、東京で初めて飲んだ浅煎りのスペシャルティコーヒーの味わいに感銘を受け、コーヒーの世界の奥深さに魅了された。柴田さんは「それがケニアの浅煎りだったんですが、今まで僕が飲んできた、いわゆる苦味が強い深煎りの豆とはまったく違う味わいでした。フルーティーで華やかで。その体験をするまでは、そこまで好んでコーヒーを飲む方ではなかったのですが、それからはスペシャルティコーヒーを出しているお店があれば、積極的に飲んでみるようになりました。福岡に移り住んでからも、たくさんのコーヒーショップを巡りましたね」と開業前を振り返る。

Good up Coffeeを開業して2年ほどはCOFFEE COUNTY、熊本のAND COFFEE ROASTERSの豆をセレクト。ともに浅煎り中心で、フレーバーに個性があるシングルオリジンを仕入れることが多かったそう。一方で、コーヒーと日々向き合う中で、「焙煎に挑戦してみたい」という気持ちが膨らんでいった。そうやって自然と焙煎所を兼ねた「FILTER SUPPLY」が生まれた。

2022年4月現在、浅煎りのルワンダ、同じく浅煎りのブラジルなどシングルオリジンを4〜6種、中深煎りのブレンド1種をラインナップ。後発の産地である中国・雲南省の豆を取り扱うなど、常にチャレンジングな姿勢も忘れない柴田さん。「中国の豆はプーアル茶の製法からもヒントを得て、二次発酵のナチュラルプロセスで精製されており、抽出した時の独特なフレーバーが特徴。自分自身の好みもありますが、比較的、どの豆も個性が際立ったものが多いと思います」(柴田さん)

■“香り”を柱にしたライフスタイルを提案していく
「FILTER SUPPLY」の抽出はハンドドリップのみ。磁器製のKINTO SLOW COFFEE STYLEのドリッパーを愛用し、一杯一杯丁寧にコーヒーを淹れる姿が柴田さんらしい。豆の量はもちろん、湯の温度、抽出量など、独自のレシピにのっとって、その豆が持つ個性を最大限に引き出す。もともと、大手コーヒーチェーンで働いた経験はあったが、ロースタリーやスペシャルティコーヒー専門店などで勉強をしたわけではないだけに、柴田さんは開業当初から基本に忠実に、再現性を大切にしている。そんな真摯な姿勢は、Good up Coffeeがオープンした2017年、カジュアルなコーヒースタンドやカフェが増えていた時期にあり、長く愛される店になることを予感させた。

現在も真面目にコツコツと、多くの人に感動を与えるようなコーヒーを追求している柴田さん。2022年1月には「コーヒーと日本茶」と銘打ったポップアップも開催し、コーヒーと日本茶をブレンドした、アレンジドリンクを期間限定で提供。さらに、2022年3月からはコーヒーを原料の一部に使ったオリジナルのアロマキャンドルをはじめ、コーヒーや歴史から着想を得たアロマオイルなどの販売を開始した。

「僕自身、香りによって記憶が呼び起こされることが多くて。コーヒーも香りを楽しむ飲み物ですし、アロマと深くリンクしていると思っています。そういった意味からも、香り、フレーバーなど、コーヒーを通してライフスタイルのご提案もしていきたい」と柴田さんは話す。コーヒーがある生活に、さらに自然由来の癒やしの香りを提案する。自身の実体験から新たなステージへと歩み出した「FILTER SUPPLY」。コーヒーというフィルターを通して、ますます素敵な暮らし方を発信していきそうだ。

■柴田さんレコメンドのコーヒーショップは「KUROMON COFFEE」
次回、紹介するのは福岡市の大濠公園エリアにある「KUROMON COFFEE」。
「『KUROMON COFFEE』の店主兼ロースターの八田さんには、僕が自家焙煎を始める時も、技術的な部分を含めて、多くのことを教えていただきました。もともとロジカルな考え方を持たれているのに加え、勉強会に積極的に参加されたり、常に知識を得ようとする姿勢も尊敬しています。もうすぐ焙煎所をメインとした2店舗目を開くそうなので、どんなお店になるか僕もすごく楽しみにしています」(柴田さん)

【FILTER SUPPLYのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル半熱風式3キロ
●抽出/ハンドドリップ(KINTO SLOW COFFEE STYLE Speciality ブリューワー)
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/シングルオリジン4〜6種、ブレンド1種、100グラム850円〜(リユース瓶入り1050円〜)

取材・文=諫山力(Knot)
撮影=大野博之(FAKE.)




※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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