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箱根駅伝2021 復路優勝の青学・原監督が「改革する思考」で箱根駅伝、そして陸上界を語る

  • 2021年1月22日
  • Walkerplus

劇的なドラマが待っていた2021年の箱根駅伝。国民的行事として愛されている当レースにおいて、毎年その動向が注目されているのが青山学院大学の原晋監督だ。大学駅伝3冠、箱根駅伝4連覇など、陸上競技の指導者として数々の偉業を成し遂げてきた原監督が、“異端児”と言われながらも貫き通してきたリーダーシップ論とは。
※本稿は、原晋『改革する思考』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■私は学生に恵まれた環境で競技に取り組んで欲しいと思っているのです

箱根駅伝は学生スポーツとしては大きな社会的な影響力を持っているのは間違いないでしょう。学生スポーツでは、夏の甲子園と箱根駅伝が両横綱ではないでしょうか。

歴史を振り返ってみると、私が高校生だった1980年代中盤まで、箱根駅伝は全国的なコンテンツではなく、関東の一部と、卒業生、そして陸上ファンだけのものだったと思います。箱根駅伝が変わったのは、1987年に日本テレビ系列で全国中継されるようになってからです。

これが箱根駅伝史上、もっとも画期的な出来事だったと思います。つまり、テレビの持つ力が箱根駅伝を大きく発展させたのです。
 
日本テレビでの中継が始まってから30年以上が経過し、箱根駅伝熱は2024年の第100回大会に向けて、ますます盛り上がることでしょう(新型コロナウイルスのことが気がかりではありますが)。しかし、私の目からは箱根駅伝をこのまま維持しているだけでは、これ以上の発展はないと考えてしまうのです。


これ以上、何を望むのか?
 
という意見もあるでしょう。しかし、私から見れば、もっともっと箱根駅伝は影響力を増すことができるし、その延長線上で陸上競技が魅力あるスポーツへと成長できると信じているからです。

つまり、改革の余地があるのです。

ひとつ、私が書いておきたいことがあります。
「原は、現状の批判ばかりしているじゃないか」

と言われることがあります。仕方がないと思いつつも、私は否定することはしていません。否定する文化は大嫌いです。

組織には必ず弱点があります。例外はありません。完璧な組織など、この世には存在しないのです。だからこそ、常に改革する思考を持って課題の解決を図る。陸上界の組織は、改革の余地が多く残されており、さらなる発展が期待できるだけに私としては歯がゆいのです。
 
まもなく第100回を迎える箱根駅伝とは、いつの時代も学生が頑張って歴史をつないできた奇跡の大会のように思えます。

私は、学生がよりよい環境で陸上部を続けられるように環境を整えたいのです。

忘れて欲しくないのは、学生は身銭を切って競技を続けているということです。陸上部も夏合宿を行うときには、予算を組み、その範囲内で効果的なトレーニングが積める場所を探しています。

箱根駅伝という、いまや国民的な行事を支えている学生たちには、もっと見返りがあってもいいと思うのです。

それは学生たちにお金をあげろと言っているのではありません。プロスポーツではありませんから。

私は、学生の競技、そして学生生活を支えるべきビジネスモデルを立ち上げるべきだと思っているのです。

■アメリカのNCAAには参考になる仕組みがあると思います

日本でも学生スポーツの統括団体である「UNIVAS」が設立されましたが、このモデルとなったのは、アメリカのNCAAでしょう。

NCAAについていろいろ調べていくと、二大花形スポーツはアメリカンフットボールとバスケットボールで、アメフトは秋から冬、バスケットは冬から春にかけて全米中で盛り上がり、大きな注目を集めるようです。選手たちは、大学側から奨学金の申し出があれば、学費と教科書代が支給されるという「アスレティック・スカラシップ」、すなわち運動奨学金をもらって学ぶ機会を得られます。

また、アメリカの大規模校になると、アメフトのスタジアムは巨大で、中には10万人規模の収容人員を誇る競技場もあるそうです。バスケットボールのアリーナも大きく、専用の陸上競技場にはスタンドもある。これらの収益によって競技施設の充実、拡充が図られ、選手は恵まれた環境でトレーニングを積むことが可能になります。

まさに、大学のスポーツビジネスが好循環を生んでいるのです。
 
もっとも、バスケットボールで才能豊かな選手は、1年か、2年だけ在籍して、プロへと転向するようです。ワシントン・ウィザーズで活躍する八村塁選手は、宮城・明成高校から奨学金をもらってゴンザガ大学へと進学し、3年終了時にプロになっています。いろいろな選択肢が用意されているということですが、こうした仕組みは日本でも応用可能なのではないでしょうか。
 
たとえば、青山学院大学が所属する関東学生陸上競技連盟(関東学連)では、箱根駅伝の収益を学生の勉学、そして競技環境支援にお金を使う――という志を持ったとしたら、どうなるでしょう?
 
収益が上がってくれば、関東学連に所属する学校に対しては、お金を給付する。それには条件をつけ、たとえば1学年あたり5名から10名ほどの学費を支援する。また、環境整備のための給付金も別に支給する。どうでしょう、このアイデア。

私も、日本とアメリカの環境の違いは重々承知しています。首都圏にある大学が、自前のスタジアムを作るのは不可能でしょう。だからこそ、NCAAの方法をそのままコピーするのではなく、日本流のやり方を考え、各大学が潤い、学生にメリットがあるような施策を打ち出していく。

これまでの日本のスポーツ界のビジネスモデルは、選手からの登録料で運営する方法がほとんどです。中学生、高校生からも登録料を払ってもらい、そのお金を回してなんとかやっていく。
 
このスタイルでは、夢がありません。
 
ハッキリいえば、この運営方法は昭和の旧態依然としたスタイルです。それはもう、令和の時代にはそぐわない。

選手がお金を払って競技団体を支えるのではなく、統括団体が学生たちを支える方がカッコいいと私は思うのです。


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