沖縄を1テーマで表現するビジュアルマガジン「モモト」の2021年冬号が発売中。今回は、2019年10月の火災から1年が経った首里城および、その周辺を取り上げた「首里」をピックアップしている。
巻頭は、2019年10月31日の、首里振興会・嘉陽田詮事務局長の火災当日のドキュメントから。3日後に控えていた首里城祭の古式行列はもちろん中止に追い込まれたが、その前年も悪天候のために中止されたので、2年連続の中止決定となった。
火災から1年、復興へ向けて立ちあがろうとしていた時、2020年は新型コロナウイルス感染症という新たな問題が出てきたが、規模縮小の上、3年ぶりの古式行列が行われた。
巻頭の特集では、その関係者らの「古式行列」への強い思い(ウムイ)と、今日の首里の町づくりの原動力となった「旗頭」に焦点を当て、“首里の誇り”を伝えている。
続いては、親子で学べるように平易に書かれた首里城の歴史学習。実は、今の「京の内」のエリアだけがグスクとして使われていたこと、1660年の火災の際は建て替えまでの間、王宮の執務は今の首里高校の場所にあった大美御殿で行われていた、首里区の決定で取り壊しが決まった老朽化した首里城正殿を香川県の研究者・鎌倉芳太郎氏が全力で止めて取り壊しを免れた話、日中戦争前まで正殿2階に「城内食堂」があったことなどを、年表と共に紹介している。
さらに、近年、整備・公開を求める声が高まっている「第32軍首里司令部壕」を特集。注目は、特集の本文を、第32軍司令官だった牛島満中将の孫・牛島貞満氏が執筆している点。調査資料や米軍の報告書などから壕の平面図や断面図を起こすなど、特集自体が貴重な資料となっている。
そして、首里の過去だけではなく、未来もしっかりと見据えている。「御城(ウグシク)と共にある、首里のまちづくり」と題して、首里エリアの町づくりをする各団体を取材。
「中山門(ちゅうざんもん)」「中城御殿(なかぐしくうどぅん)」「御茶屋御殿(うちゃやうどぅん)」「松崎馬場(まつざきばば)」など復元が望まれるスポットをカラーのCGを入れながら、その歴史を紹介し、明るい未来を想像させる手法はさすが。
ほか、1950年の開館から今なお歴史をつないでいる首里の映画館「首里劇場」を、貴重な写真と一緒に5ページにわたって紹介している点からも、担当編集者の首里への愛が伝わってくる。
80ページの中に首里への愛が詰まりつつも、資料的側面も併せ持つ、貴重な1冊となっている。
「モモト」(Vol.45)
発売中 1,000円(税別) 編集工房東洋企画