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再生エネルギーは本当に「自然に優しい」のか ~主要事業者をランク付け・大型陸上風力発電計画の自然環境影響レポート~

  • 2023年5月25日
  • NACS-J
huryoku

 気候変動および生物多様性の損失は、両者ともに人間社会に大きな影響を及ぼしうる喫緊の課題です。国際的にも、これらの課題の同時解決を目指す取り組みが不可欠だといわれています。

 しかし、急増する再エネ関連事業による生物多様性への悪影響が国際的にも懸念されています。特に国内でも、近年、陸上風力発電計画の件数・規模ともに増大し、各地で自然環境や住環境面で懸念の多い計画が増えています。

 日本自然保護協会は独自で267件に上る陸上風力発電計画の環境影響評価図書(以下「アセス図書」)を詳細に分析して各事業がどのような自然環境の中で計画されているのかを解析し、事業の自然環境への配慮や市民への情報公開等に関する問題点を明らかにしました。

 その結果、事業者や各事業によって環境配慮や情報公開に大きな違いがあることが判明、配慮が不十分なものが少なくないことも確認されました。結果にもとづいて、事業者ごとの環境配慮に関するランキングも作製し、特に自然環境への影響の面で強い懸念のある陸上風力発電計画10件をリストアップしました。

主な結果とポイント


・過去5年間に発行された環境影響評価図書(アセス図書)267件を対象に解析

・計画のうち、4割以上が原生林に近い森林を、2割が天然記念物で絶滅危惧種であるイヌ・ワシの生息域を事業実施想定区域(想定区域)に含めていた。

・事業者、計画ごとにも自然環境面への配慮に大きな違いがみられ、配慮を試みて計画をしている事業者と、明らかに配慮を欠いている事業者に二分された。

・環境アセス図書の常時公開が多くの事業者でなされておらず、本来的な環境アセスの目的である利害関係者との合意形成と情報公開の点で課題がみられた。

・真に持続可能な再生可能エネルギー推進のために、生物多様性保全上の重要地域を避け、利害関係者との広い合意形成などが求められる。

事業者ごとの自然環境への配慮の違い


 本レポートでは業界における主要な事業者ごとに自然環境等への配慮に違いがあるか着目しました。

 解析対象とした267件の計画のうち、特に計画数の多い上位11の事業者について、アセス図書の常時公開の状況と、自然環境に関する12の項目(植生自然度9および10、特定植物群落、保安林、緑の回廊、自然公園、そして希少鳥類6種の生息地)について、配慮の状況をみました(表1)。上位11の事業者の計画数を合計すると165件となり全体の6割を占めます。

 表1は、自然環境の12の項目について、各々の事業者の全計画件数中、何件の事業実施想定区域にそれらの項目が含まれているかを割合で示しています。

表1.主要な事業者毎の自然環境への配慮状況
huryoku

 事業者ごとの自然環境への配慮の状況をまとめ、ランキングにしたものが表2です。表1~2からもわかるように、事業者によって自然環境配慮状況は大きく異なっていました。

表2.主要な事業者の自然環境への影響ランキング
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▲指数は、自然環境12項目の各偏差値を平均して算出。指数が高いほど、自然環境への影響が大きい事業を多く計画しているということになる

 次に、アセス図書およびEADASから、今回解析対象とした267件の個々の陸上風力発電計画について自然環境への影響を検討しました。その結果、特に自然環境への影響の面で強い懸念のある陸上風力発電計画10件をリストアップしました(表3)。

 リストアップした計画については、希少鳥類のバードストライク(鳥類が風車のブレードに衝突して死亡する事故)の危険性が非常に高い区域を含んでいる計画や、生物多様性の保全を目的とした「緑の回廊」を事業想定区域のほぼ全域に含んでいる計画など、その問題点を指摘し、計画の撤回や抜本的見直し、自然環境への影響の大きい一部区域の除外など、改善点を紹介しました。

表3.特に自然環境への影響の面で強い懸念のある陸上風力発電計画10件
huryoku

今後の課題と提言


1)真に持続可能な再生可能エネルギー推進のために、生物多様性保全を重視した事業計画の立案を

 今回の解析から、少なからぬ数の風力発電計画が日本の森林生態系や希少鳥類の生息に不可逆的で甚大な影響を及ぼす可能性がみえてきました。

 国際的にも、生物多様性の損失に歯止めをかけ、自然を回復基調へと転換する「ネイチャーポジティブ」の実現が求められるなか、陸上風力発電の導入が自然環境に不可逆的で甚大な影響を与えることは、世界の潮流に逆行するものです。真に持続可能な再生可能エネルギーの推進のために、更なる自然環境への配慮、生物多様性保全を重視した事業計画の立案が求められます。

2)環境アセスメントの情報の公開性向上を

 環境影響評価(環境アセスメント)は、環境に著しい影響を及ぼしうる事業などの人間活動について、その影響を事前に調査・予測・評価して環境配慮をする手続きです。その手続きの過程においては、広く利害関係者との間で情報を共有し、議論にもとづく合意形成が求められます。

 事業をよりよく進めていくためには、環境に影響を及ぼしうる事業の公開性を高め、だれもが情報にアクセスできるようにすることが必要です。

3)事業者は自然環境への十分な配慮を

 今回の解析から、事業者ごとに自然環境への配慮の程度に大きな違いが見られました。 国際的にも気候変動および生物多様性などの環境問題において、企業の果たす役割の重要性が指摘されています。また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)など、自然環境に関するリスクと機会の情報開示・透明性が企業に求められています。

 企業が再生可能エネルギーの開発を至上の目的として進めることによって生態系に致命的な影響を与えることがないように、事業を多面的な視点から検討し、真に持続可能なものとする必要があります。

 風力発電施設および保守点検のための道路や送電線などの関連施設も含めて、生物多様性上重要な地域を避けること、自然林、保護林や緑の回廊など重要な自然環境への影響を最小限にすることなどによって、生物多様性へのリスクを回避することができます。

4)国は立地適正化の法整備を

 民間事業者の事業を適切に誘導するためには、国が風力発電事業の立地適正化に向けて法律の整備を進めていく必要があります。

 2020年の内閣府による「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」を受けて、陸上風力発電事業に関しては、環境影響評価法の対象事業規模が1万kWから5万kWに引き上げられました。これにより、自然環境面で懸念があった陸上風力発電事業の一部が環境影響評価法対象事業から外れることになります。陸上風力発電事業の自然環境への影響は、その事業特性から、発電装置の規模よりも立地によるものが大きいことから、自然環境の特性に応じた環境アセスメントの制度化をする必要があります。

 また、渡り鳥などの保護は国内だけでなく国際的な視点が重要であり、陸上風力発電事業による希少鳥類の生息への影響の軽減は国が責任を持って取組むべき課題です。

5)地方自治体の積極的な関与を

 2021年に改正された温暖化対策基本法において、地方公共団体実行計画を定めている市町村では、再生可能エネルギーの利用を促進する事業のために、その促進区域の設定が求められています。促進区域を設定する際には、騒音などの住環境だけでなく地域の自然環境を把握した上で適切な設定を行うことが強く求められています。また保安林の解除や農地の転用には自治体の同意が必須であり、自然環境を正しく加味した判断を行うことが重要です。

 地域内の電力を再生可能エネルギーに転換していくためには、どこでどのように再生可能エネルギーを生み出していくかを議論していく必要があり、地方自治体の積極的な関与が不可欠です。その際には、住環境と自然環境を適切に考慮し、住民に開かれた議論を行う場を設けることが必要です。

6)地域住民の視点と意見を表明する機会の確保を

 地域の貴重な自然を後世に残していくために、地域住民の関与と合意形成は大切です。再生可能エネルギーへの転換は地球温暖化防止のために推進していく必要があります。地域の電力をどのように再生可能エネルギーに転換していくか、生物多様性保全や住環境の保全を考慮して、どのような場所でどのように行うかを地域内で多くの人が議論することが求められます。

 問題が生じる可能性のある計画が浮上した場合には、できるだけ早い段階で、計画の概要を把握し、早い段階で市民が意見を述べられるような仕組みをつくることが重要です。

詳細レポートは日本自然保護協会のリリースページに掲載しているPDFレポートをご覧ください。
https://www.nacsj.or.jp/media/2023/04/35101/

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