リニア中央新幹線計画は、東海旅客鉄道株式会社(JR東海)が2037年を目途に完成を目指している、東京の品川と大阪を結ぶ超電導リニア鉄道計画です。2027年には品川と名古屋間が部分開業予定であり、各地で工事が進んでいます。2021年12月に、工事予定地である南アルプスの3000m級の山々に囲われた山深い大井川源流域の現状を確認してきましたので報告します。
未着工の静岡工区
南アルプスエリアでは、山梨県内の富士川水系、静岡県内の大井川水系、長野県内の天竜川水系の3つの水系を貫く全長25㎞のトンネル掘削工事が計画されています。既にトンネル出口両側の山梨県早川町と長野県大鹿村では着工していますが、その中間部の静岡工区(8.9㎞)は未着工です。トンネル工事によって、大井川の流量が減少することや、地下水位が低下することによって、自然環境や生活、産業への影響が出ることを、静岡県の各自治体や周辺住民が懸念しているためです。
静岡工区では、2カ所の非常口が設けられ、この非常口からトンネル工事による発生土が排出される予定です。非常口付近には広いヤードが設けられる予定です。現在、静岡県などの反対によりトンネル本体の工事は未着手である一方で、林道の舗装化や発生土置き場の整備、宿舎の建設などは着々と進んでいます。
▲リニア中央新幹線静岡工区位置図(上)と断面図(下)
山深い工事予定地
静岡県内のリニア工事予定地は大井川源流域にあります。南アルプスの静岡県側は、3,000mの山稜部も含めて特種東海製紙グループの十山株式会社の社有林となっています。その広さは山手線4個分にも及び、静岡でのリニア工事は全て十山株式会社の社有林内で計画されています。
十山株式会社の社有林、つまりはリニア中央新幹線工事現場の入口である沼平ゲートは、静岡の市街地から大型車のすれ違いの難しい狭いくねくねとした峠道を越えた、静岡市最奥の井川地区を抜けた先です。静岡の市街地から沼平ゲートまでは車で2時間以上かかります。この沼平ゲートの先は静岡市が許可した車両のみが通行可能な市道林道東俣線が大井川沿いに延びています。この林道は、南アルプス南部の赤石岳や荒川岳、聖岳などへのメイン登山ルートですが、林道沿いに非常口やトンネルの発生土置き場、建設宿舎などのリニア工事関連施設が点在しており、工事関係車両が砂埃をあげながらひっきりなしに往来しています。林道終点である二軒小屋のさらに奥にある西俣ヤードまでは沼平ゲートから徒歩で9時間、車でも2時間以上もかかります。
この林道東俣線は未舗装の悪路ですが、2019年からリニア工事に向けて全面舗装化が進められており、至る所で工事をしています。林道は急峻で長大な斜面に囲まれており、大規模な崩壊地が数多く存在しています。2019年10月の台風19号、2020年7月の豪雨の際には、路肩崩落や道路そのものの流出が相次ぎ、立て続けに通行できない状況になりました。たとえ全面舗装化されても林道の維持管理は困難なことが予想されます。
▲大井川の河床と比高差が無い林道東俣線
▲舗装化が進む林道
登山基地から作業基地に変容した椹島
沼平ゲートから車で1時間ほどの椹島は工事関係者用の宿舎や資材置き場などがある作業基地です。既に工事事務所は完成しており、現在は工事用宿舎が建設中です。この宿舎はリニア工事終了後にはホテルとして使用されることが計画されています。荒川岳、赤石岳の登山口である椹島には椹島ロッヂという山小屋があります。12月は既に登山シーズンではないですが、環境調査や工事作業員の宿泊者でいっぱいでした。
椹島には、本線トンネルからの湧水を大井川に戻すための導水トンネルの出口が計画されています。本線トンネルは真ん中が高く、出口は低くなる構造のため、大井川に流下するはずの地下水が富士川水系や天竜川水系に流出し、大井川の流水が減少することが懸念されています。その懸念を解消するために、導水トンネルを建設して、本線トンネルの湧水を自然流下で恒久的に大井川に戻すために計画されていますが、現在は未着手な状態です。
▲工事関係車両でいっぱいの椹島ロッヂ
▲椹島の工事事務所
(後編につづく)