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アフターコロナの自然保護

  • 2020年7月17日
  • NACS-J

自然破壊が遠因に。
生態系配慮の復興投資を


開発が引き起こすズーノーシス

新型コロナウイルスがどのような経路で人間に感染、拡大したかはまだよく分かっていないが、もともと野生のコウモリが持っていたコロナウイルスが別の動物を中間宿主として人間にたどり着いたということはほぼ確実だ。このような病気を動物由来感染症(ズーノーシス)と呼ぶ。過去に多くの死者を出した重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)、エボラ出血熱や鳥インフルエンザなど新興感染症と呼ばれるものの多くがズーノーシスである。

 こうしたズーノーシスは2000年代以降に多発している。そしてその背景に、自然破壊や野生動物の野放図な利用の拡大があることを多くの研究者が指摘している。

 主要な原因の一つが熱帯林地帯での森林や地下資源の開発だ。これまで一部の人しか足を踏み入れなかった熱帯林の中に巨大な道路が建設され、その先に大量の労働者が送り込まれる。労働者のキャンプでは給食などはないので、彼らは日常のタンパク源として森の中にすむ野生動物を求めることになる。「ブッシュミート(森の肉)」と呼ばれるこの野生動物食が熱帯林地域を中心に急拡大している。現金収入目的で、禁じられている動物を密猟したり、肉を都市部に送ったりという行動も増えている。これは生態系保全上の大きな問題となり、「ブッシュミートクライシス(危機)」と呼ばれるまでになっている。

 筆者は2013年に、アフリカ・コンゴ共和国北部の伐採キャンプ近くの村のブッシュミート市場を取材したことがある。粗末な屋根の下に大きな板を渡しただけの店がぎっしりと並び、大量の野生動物が乗せられている。小型のサル、イノシシやシカ、ワニやセンザンコウなど、ありとあらゆる種類の動物を女性が大きな包丁で切り分け、客に次々と売っていく。手押し車に動物を入れて店に運ぶ子どもたちもいる。近くには野生動物の肉料理を供するレストランがあり、ヤマアラシのスープを食べる住民の姿があった。彼は「昔から森の肉を食べてきた。農場で育てられた鶏の肉など、不健康だし、まずいので食べたいとは思わない」と話した。

 中国や東南アジア、中南米の市場でも大量の野生動物が生きたまま家禽などと一緒に売られ、そこに多くの消費者が詰めかける。このようにして野生動物と人間、家畜や家禽が互いに接触する機会が増えたことがズーノーシス増加の一因であることは容易に理解できるだろう。日本などの先進国で拡大するエキゾチックペットも、遠い国の野生動物との接触を増やす結果となる。

 ブラジルなどのアマゾン地域では、牧畜のために広大な森林が伐採されている。世界の食肉消費量は増加が続き、牛の飼育頭数は15億頭近くに、過去50年ほどの間に約3倍以上になった。ある研究によると地球上の哺乳類のバイオマス(生物量)の60%は家畜が占め、36%の人間がこれに次ぐ。野生哺乳類のバイオマスはわずか4%でしかない。地球上にこれだけ限られた種類の動物が多数存在するようになったことは、それを宿主とするウイルスや細菌にとっては極めて有利な状況となる。ズーノーシスの中には家畜経由で人間にまん延した例も多い。

 また、地球温暖化の進行によってマラリアやデング熱などを媒介する蚊の分布域が広がることが指摘されているし、温暖化の進行によってコウモリなどの哺乳類の分布域や行動域が広がり、ズーノーシス拡大の契機となることも指摘されている。

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左上:未知のウイルスを持っている可能性が指摘されるオオコウモリの一種
右上:大量のブッシュミートが売られているコンゴ共和国のブッシュミート市場
左下:デング熱を媒介するヒトスジシマカ。地球温暖化の進行で分布域を広げることが懸念されている
(米・疾病対策センター提供)
右下:カンボジア・ラタナキリ州のレストランでは捕獲が禁じられているホエジカの肉が公然と売られていた


「人間・動物・環境」どれもが健全な状態に

新型コロナウイルスの背景にあるこれらの問題を解決しない限り、第二、第三の深刻なズーノーシスのまん延は今後も続くことになるだろう。
 今後に予想される経済復興のための投資が、間違ってもこれまでの世界を「復旧」させるものとなってはいけない。コロナ危機以前にあった世界は、多くの病原体にとって格好の世界であり、気候危機や生物多様性の危機を内在する社会や経済であったからだ。

 第二、第三のコロナウイルスのまん延を防ぐためには、森林やそこに暮らす野生動物のための保護区を拡大することや野生動物市場の規制や閉鎖などによって、野生動物との安易で危険な接触の機会を減らすことがなにより重要だ。地球温暖化を悪化させることにもつながる肉食、特に牛肉の消費を減らし、植物ベースのタンパク質への転換を図ることも大切だろう。

 野生動物にとって健全な環境、家畜と人間の健康という三つのものを同時に実現するべきだとの考えをワン・ヘルス(one health)と呼ぶ。人間、野生動物、家畜はみな地球という一つの惑星をシェアし、互いに関わり合うものなのだから、どれか一つの健康が失われると、他の健康に悪影響を与えるからだ。生物種の保護や生態系の保全、再生は、単に、アフリカゾウやトラなどの野生動物のためのものではなく、われわれ人類がこの地球上で持続的に暮らしていくために不可欠な、自分たちの利益となるものである。これが、コロナウイルス危機からわれわれが学ぶべき重要な教訓の一つである。

[文・写真]井田徹治
(日本自然保護協会 評議員/共同通信編集委員)

アフターコロナ社会への7つの提案【日本自然保護協会】

NACS-Jは、コロナ収束後に構築すべきアフターコロナ社会の鍵は自然の中にあると考え、人と自然が共生する社会に向けた7つの行動の提案をまとめました。
詳細は→ https://www.nacsj.or.jp/media/2020/05/20395/

1.コロナ危機に立ち向かった人々を称え、市民社会の力を高めよう
2.コロナ危機の混乱を記録し、学び、次の社会に活かそう
3.今後の社会・経済の復興を、持続可能な社会の発展につなげよう
4.新たに生まれたライフスタイルの可能性を育てよう
5.エネルギー、食料、生活用品などを地域で賄える新たな社会を構築しよう
6.人と自然の新たな関係を構築しよう
7.未来のコロナ危機の発生と拡大の防止に世界全体で取り組もう

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