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赤谷の森から全国の森へ イヌワシ保護への新たな挑戦

  • 2018年7月18日
  • NACS-J


 イヌワシが舞う豊かな森を未来につなぐために、群馬県みなかみ町の「赤谷の森」で新たな挑戦を始めています。応援よろしくお願いします!

森林の生態ピラミッドの頂点に立つアンブレラ種

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▲1991年の第2回合同イヌワシ調査。

 1990年、イヌワシの繁殖地のひとつである秋田県田沢湖駒ヶ岳山麓で、大規模リゾート計画が持ち上がりました。これをきっかけに、日本自然保護協会と日本イヌワシ研究会は共同で足かけ4年間にわたり、当時、世界的にも類を見ない高精度の自主アセスメント調査を実施。1つがいのイヌワシの生態を徹底的に調べ、その広大な行動圏の利用場所が季節ごとに異なることや、その変化がイヌワシという種の特性と日本の森林の特徴によって起きることを明らかにし、その結果、リゾート計画は中止となりました。
 イヌワシを徹底的に調査したのは、イヌワシが希少な生物だからというだけではありません。イヌワシは、その生息にさまざまな自然環境を必要とするとともに、ノウサギやヘビ、ヤマドリなどを補食し、森林の生態ピラミッドの頂点に立つ「アンブレラ種」だからです。それ以降も、日本自然保護協会はイヌワシを豊かな森を守り維持していくための指標種として、その保護活動を続けてきました。しかし、イヌワシは今なお減少し続け、希少になる一方です。

なぜ生息環境の改善が進まないのか

 生物種、特に絶滅が危惧される希少種の保護制度ですぐに思いつくのは「種の保存法」ではないでしょうか。種の保存法では、種の保存のため、特に重要な生息地は生息地保護区に、個体数の回復のためには保護増殖事業が組まれることになっています。ところがイヌワシに関しては、生息地保護区はひとつもありません。保護増殖事業は、過去にある地域で最後となった繁殖つがいをなんとか維持するため、そのつがいが繁殖失敗した直後に別の巣から二羽目の雛を移入するという計画が進められたことがあったものの、何度準備してもうまくいかずに中止。生息地の改善事業といえば、何らかの理由で崩れ落ちてしまった巣を補修して再度使えるように直したり、人工林を間伐する際に列状に伐採し、狩場として使うことを単に期待するということに限られてきたのが実情です。
 生息地保護区は、つくるとすれば数千ヘクタールという広い範囲の中にある、季節によって変わる主要な狩場をひとそろえ必要とするような広大なものになるため、人間活動への強い規制がかかる懸念から、環境行政が企画自体しようとしない状態です。そもそも、極めて数が多い日本の絶滅危惧種の保護区や増殖事業を、種ごとに事業化していくという法律のしくみが、数少ない保護の人員しかいない現状の環境行政の体制と見合っていないということも問題のひとつでしょう。
 生息の場を守る法律には、景観保護のための「自然公園法」や生態系のための「自然環境保全法」がありますが、強い規制は奥山のごく限られた部分だけであったり環境管理事業がなかったり、あまりに指定地の数が少ないなど、全国のイヌワシの生息環境保全の中心に据えられるものではありません。

狩場創出、赤谷から全国へ

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 このような現状を打開していくために、群馬県みなかみ町に暮らす方々と林野庁関東森林管理局、日本自然保護協会の三者での国有林の協働管理を進めている「赤谷プロジェクト」で、エリア内の赤谷川源流部の谷にすむイヌワシのつがいの狩場創出の試験を2014年から始めました。このつがいのすむ場所は1993年から観察を続けています。何度も鳥の個体は入れ替わっていますが、代々この谷の大きな岩場を使い子育てを続けています。
 ここに暮らすつがいは、岩場に隣接する狩場を、1990年代には子育ての時期はもちろん一年を通して頻繁に使っていました。しかし、特にここ10年ほどまったく使っていません。この狩場は、頻繁に使われていた時期は若齢のスギやカラマツ林でした。しかし時とともに植林木が育ち林冠が完全にうっぺいしたため、餌動物が減少するとともに、森林内にイヌワシが入り込めない環境になってしまったことが原因だと考えられます。そこで、その場所の人工林を森林施業の仕事の一環として伐採除去し、再造林をせず狩場としてもう一度再生させ、繁殖の際の餌不足をなくそうというのが、狩場創出試験の狙いです。

 これまで全国で行われてきた狩場づくりの試みとの違いは次の3点です。
 ①試験地は過去にイヌワシのつがいが、確実に狩りに使っていた記録がある場所であること(これまでは、そうではない場所での実施が当たり前でした)。
 ②特に繁殖期の狩場として使われる場所であること(最も大量の餌動物が必要となるのが子育て時期)。
 ③短期間に効果が消えてしまう列状間伐ではなく、面的にまとまった伐開地をつくり出すこと。
 実際に有効に使われる、本当の意味での狩場づくりにつなげるには、どこで、どういう方法で実施するかという点が、最も肝心です。今回の狩場創出試験で、有効な場所や方法が確認されれば、全国のイヌワシの主要な繁殖地となっている国有林などでこの事業を展開し、子育てできず個体数もつがい数も減り続けている全国のイヌワシの生息環境を質的に改善する、すなわち、生物多様性に富んだ森づくりをいっせいに進めることができるはずです。このような問題解決の取り組みを、一からつくり出していくことが日本自然保護協会の存在意義です。今後も、イヌワシが舞う豊かな森づくりを目指して活動を続けます。


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●横山 隆一
NACS-J 参事、赤谷プロジェクト猛禽類モニタリングWG 委員



出典:日本自然保護協会会報『自然保護』No.544(2015年3・4月号)

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