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ガスも電気も止まり空腹を紛らわす日々…「明日食べる米がない」に見る子どもの貧困のリアル

  • 2022年11月20日
  • レタスクラブニュース
公益財団法人日本財団によると、日本の子どもの貧困率(※)は今、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で最悪の水準だということをご存知ですか?
数で表すと、日本において7人に1人の子どもが貧困状態にあると言われています。
1985年に10.9%であった子どもの貧困率は、2019年には13.5%に。
※子どもの貧困率=相対的貧困の状態にある18歳未満の子どもの割合



過去、自分も貧困状態にあったという、やまぐちみづほさん。現在は22歳で事務のアルバイトをしています。彼女は5歳の冬、両親が離婚したことから母と2人暮らしがスタート。まさに「明日食べる米がない」ほど、食べることに困難な状態に陥ってしまったそうです。





やまぐちさんの経験をもとに描かれたマンガ「明日食べる米がない!」は、貧しい生活を子どもの視点から描かれています。厳しく辛い状況のやまぐちさん母娘の生活ですが、明るくライトなタッチで「貧乏エピソード」が描かれています。やまぐちさんご本人に当時の状況と今思う事をうかがいました。

――小学生時代はどんなことを考えていらっしゃいましたか?
やまぐちさん「生活に困る心配をしなくていい『普通』の暮らしに憧れていました。小学校のときから常に『今月、電気代は払えるのかな』『ガス代は大丈夫かな』と考える生活だったので。周りの子たちは、普通にご飯が食べられて、家があって、小学生のときにそんなことを考えたりしないですよね」

――当時は非常に辛かったと思うのですが、お母さんもやまぐちさんも前向きな姿勢が印象的でした。
やまぐちさん「母はすごく明るい人で『宝くじが当たったら、ここに旅行に行きたいね』などいつも明るい話をしてくれていました。食べ物がなかったりして、普通なら家庭の中が暗くなりがちですが、そんな母がいたからこそ、そこまで深刻にならずに暮らせていたと思います。
漫画家になって本を出したいという夢も支えになりました。『この大変な日々も漫画のネタになるかもしれないから、決してムダにはならないはず』と、自分に言い聞かせて、前向きにがんばることができました」

――報道などで「子どもの貧困」についてのニュースを見て思うことはありますか?
やまぐちさん「貧困についてのニュースを目にした時、自分の体験からして気軽に『あきらめずにがんばって!』と言うことはできません。
ただひとつ言いたいのは、『つらいときは声を上げて』ということ。貧困家庭で育ったお子さんは、経済的な理由で苦しい思いをしても『仕方ない』と我慢してしまうことが多いと思います。我が家も大変な毎日ではあるものの、それがだんだん当たり前のことになってしまって、結局受け入れることになってしまっていました。
つらいならつらいと言っていいし、きっと方法はあるので、周りの大人に頼ってほしいです」

そんなやまぐちさん、に幼少期の具体的なエピソードを教えていただきました。

10年冷蔵庫がない!

やまぐちさんが5歳になった年の冬のこと。
家族3人で晩ごはんを食べていたその時、突然父から「3日後に引っ越し業者が来るから荷物まとめて実家帰って。この家はもう売ることにしたから」という衝撃の発言が!
この発言に家族はもちろん驚き、どうにかしようとするも本人は黙り込むだけ。
親族は病気がち、施設入所中など事情があり帰れる実家などお母さんにはなかったのです。


両親は離婚することとなり、やまぐちさん母娘は単身者向けアパートへ引っ越し。
しばらくの間、お母さんは飲食店やアパレルの接客業、運送会社、工場などかけもちをして生計を立てていたそうなのですが、あまりにも大変な生活に、お母さんは疲れ果ててしまった様子。やまぐちさんの保育園のお弁当にはクリームパン1個ということもあり、「お母さん大変なのかな…」と生活が変わってしまったことを幼いながらも実感していたそうです。



小麦粉を水で溶いたものにソースをかけて「トンカツ風味」

休む時間もほぼないあまりにも大変な状況に「お母さん仕事減らしてもいいかな…」と相談を受けたやまぐちさん。お母さんが元気になるなら!と、了承したもののさらに生活は貧しくなってしまいました。お父さんからの養育費は月5万円が振り込まれたり振り込まれなかったり…と不安定な経済状況が続いていました。


ある日の夜ごはんは小麦粉を水で溶いて薄く焼いたものだけ。
「クレープよ。おかわりあるわよ」と言われても育ち盛りのやまぐちさんは泣いてしまったそうです。
幼かったやまぐちさんが「お肉とか食べたい!」というと、「あ、ソースをかけたらトンカツ風味になるんじゃない⁉」と返してきたそうで…。モヤモヤすることはあっても、明るくポジティブなお母さんには、やまぐちさんは救われることも多々あったそうです。



10年間冷蔵庫がなかった

生活が苦しい状態が「普通」の状態になってしまっていたというやまぐちさん。友達が送っている「普通の生活」との差に驚くこともあったようで…。

引っ越しの際、家から持ってきた冷蔵庫が幅の関係で入らなかったことをきっかけに、冷蔵庫のない生活は10年続きました。
小学生のころ、「うちの家、冷蔵庫がないんだけど冷めたいものが家で食べられなくって。給食で冷凍みかんとか出るとすごい嬉しい!」と友達に無邪気に話したところ、「えっ⁉冷蔵庫ないの!?なんで」「それどうやって生きてるの⁉」と驚かれてしまい、「え?冷蔵庫なくても生きていけるけど…そんなに驚くことなの?」とびっくりすることも。



そんなやまぐちさんの支えは「給食」。じゃんけんなどで争奪戦が繰り広げられる揚げパンやデザートはスルーし、「腹持ちがいい」ことから「お米」や汁物をメインでおかわりしていたそうです。

習い事に憧れすぎてエアー〇〇〇

ほとんどの同級生が習い事をしていたというやまぐちさん。
「母の様子を見ると習い事をしたいとは言えない…」とガマンしつつも、「なんとか習い事をしている自分を味わいたい!」そう考えたやまぐちさんは、ついにあるアイディアを思いつきます。
それは「エアーピアノ」! 机の上で「ダダーン!」「もっとテンポよく!」など自分にダメ出しをしながら「ピアノを習っている私」を楽しんでいたそうです。



中学校は給食がない!月末は図書室で空腹をごまかして…

中学に進学し、やまぐちさんの中で一番問題になったのは「給食がないこと」。
月初めは普通のお弁当なのですが、月半ばは「おかゆ」と「もやしスープ」。月末は「お弁当なし」という状況。空腹については
LEVEL1は「普通にお腹がぐ~っとなる状態」
LEVEL2は「空腹でガタガタふるえる状態
LEVEL3は「もはや何も感じない『無』の状態」と語っています。

人に迷惑かけるくらいなら自分が我慢した方が…と思っていたというやまぐちさん。
月末、お弁当がない日に空腹をごまかすために図書室にいたやまぐちさんに「何をやってるんだ」と声をかけてきた先生がいたそうです。(本当はお弁当がないものの)とっさに「お弁当持ってくるの忘れちゃって…」とウソをついたやまぐちさんに、「お金を貸すから購買に行ってこい」と言ってくれたそうなのですが、当時不安定だったという母の収入を思い、例え数百円でも返せるかわからないし…と、その状況を説明することもできず、逃走してしまったというエピソードも。

電気とガスが止まった!その時母は…



ギリギリで生活していたというやまぐちさん母娘。ある日やまぐちさんが家に帰ると、真っ暗。支払いを綱渡りで回していた結果、電気とガスが止まってしまったのです…。家じゅうのローソクをかき集め、ガスコンロで煮炊きし、水でシャワーを浴びるやまぐちさん母娘。外に出れば明るい部屋が見え、「みんな当たり前に明るい部屋で過ごしているんだな…」と落ち込んでいたそうです。
そんな時でもお母さんは「来月のお給料で電気とガス復活させるから!なんとか一週間乗り切ろう」「家にいるのにキャンプしているみたいじゃない?」「私たちどんなところでも生きていけるね」と明るくポジティブだったことで、やまぐちさんはなんとか気持ちを立て直すことができたそうです。



貧しいながらも明るいお母さんと一緒に、なんとか前向きに暮らしてきたというやまぐちさん。
家族で支え合うことはもちろん必要ですが、「あの時、勇気を出して周りに助けを求めていたら、違う未来があったのかな、解決策があったのかな」と語ってくださったことが印象的でした。

声を出せずにいる困っている子どもが周囲にいるかもしれない、今の日本。普通の生活が当たり前と思うのではなく、「気づき、声をかけ、できることをする」大人でありたいですね。



文=ryoko yasuda

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