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Vol.82 今回はゴスペラーズの新曲についてのお話です。

  • 2011年9月29日

 みなさん、こんにちは。ゴスペラーズの北山陽一です。

bridge
本商品と本作品の配信の収益の一部は、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)を通じて、東日本大震災において被災されたみなさまへの支援活動に役立てられます。

 今回は、9月28日にゴスペラーズがリリースする新曲「BRIDGE」について書きます。この曲は、ゴスペラーズが被災地に出かけて見聞きしたことが重要なモチーフになっているんです。
 5人で東松島市と南三陸町を訪れた際に見た、無惨に壊れてしまったコンクリートの大きな橋と自衛隊が架けた仮設の橋。みんなで曲を書いて持ち寄ったとき、リーダー村上は、あまりに印象的だったその風景と、「橋がつなぐこと」への想いを歌に込めていました。もちろん、その光景は他の4人も目にしたものですから、すぐに思いが重なり、そしてイメージが広がっていきました。そして、橋を架けるという行為について考えるところから始めて、5人で歌詞を詰めていきました。
 橋を架けるということ、そしてその架けられた橋がつなぐもの、それはじつにいろいろな形や意味があります。気持ちや意識がつながる橋というものがあるだろうし、過去や未来をつないだり遠く離れた場所をつないだりする橋があります。僕が、個人的に強く思っているのは、ゴスペラーズもまた“橋”になりうるんだなということです。
 九州や四国にコンサートで行って思ったのは、そうした地域では東北の現状を想像するのはやはりかなり難しいなということです。だって、マグニチュード9で震度7とか言いながら、そのあたりはぴくりとも揺れてないんですよね。「余震がずっと続いている、余震とは言えないくらい激しい」と言っても、でもそのあたりはまったく揺れてない。そういうなかで、ツアーで行ったときに、その地元の仲のいい友達と話していて、「気持ちはあるんだけれど、前提が違うから絶対的に感覚が違う」と思うわけです。それでも、何かしたいという気持ちはみんな持っている、と。ただ、できることには限りがあるし、苦しんでいる人のことを思うとゴスペラーズのライブで楽しんだりしてていいのかというようなことも考える、という話なんですね。それで気づいたんですが、ゴスペラーズは全国をツアーしてまわることを10年以上続けているグループなので、ゴスペラーズが存在していること自体がそういう意識と被災した地域でがんばっている人たちとをつなぐ橋なんだっていうことです。僕らでつながってもらえるんだっていう。
 なぜかというと、実際に被災した現場に行って、その光景を目の当たりにすると、人間なら誰でも心にダメージを受けるんです。でも、そこで生活している人のことを思うと、口には出せないダメージなんですよね。僕ら自身も、そのダメージを5人で共有することさえためらわれたところがありましたから。「ひどい状況だね」とか「大変だろうね」とか言うのもはばかられるようなダメージなんです。で、その気持ちを抱えたまま、西のほうの、感覚として「前提が違う」という地域でライブをやったときに、来てくれたお客さんたちが3月11日以前とほとんど変わらない日常生活のなかで持っている、祈るような気持ちというものがあって、それを僕らにぶつけてくれることで僕らがすごく癒されたということがあったんです。そのおかげで、僕個人は“またどこかに行こう”とか、一度行って人間のつながりが作れたところにまた行きたいなと思えるようになったんです。正直に言って、そういうことがなかったら、僕一人の気持ちのなかでは落としどころが無かったというか、あのダメージから回復するのはなかなか難しかったんじゃないか、もっと言えば“また行かなきゃ”という義務感みたいなものになっていたんじゃないかと思うんです。でも、そうならなかったのは、まだエネルギーを持っている、日常を壊されていない地域の人たちのエネルギーをもらっているからだとはっきり感じたんです。
 だから、僕らが淡々と、いつものように熱い全国ツアーを行うということがみんなのこころをつなぐ橋になり得るんじゃないかとすごく感じているんです。そう言う意味でも、この曲が「BRIDGE」という名前で存在していること自体に僕は意義を感じていますし、そういう曲を持って全国ツアーに出かけていって、各地で歌えるということがとても楽しみです。


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