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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第142回 電力を100%再生可能エネルギーに~野心的なコミットメントを発表したデンマークの挑戦

  • 2015年11月12日

電力を100%再生可能エネルギーに~野心的なコミットメントを発表したデンマークの挑戦 グリーンピース・デンマーク 気候・エネルギー担当 ターエイ・ハーランさん

 デンマークは世界がまさに今、必要としている温暖化解決策を示した。化石燃料を使わない、再生可能エネルギー100%の未来を約束したのである。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、世界は「化石燃料技術の長期的段階的廃止」を含め、「エネルギーシステムの根本的な転換」が必要である。気候の安定化に向けて温室効果ガスの排出量は今後数十年の間に実質ゼロまで削減されなければならないのである。

 デンマークは国の温暖化政策をこの目標に一致させた世界でも数少ない国の一つである。化石燃料の完全な段階的廃止だけでなく、二酸化炭素の回収・貯留(CCS)技術や原発を使わない、100%再生可能エネルギーへの転換を約束したのである。デンマークの長期目標は以下の通り。

  • 2020年までに、国内使用電力の50%を風力発電で。温室効果ガスの排出量は1990年比40%削減
  • 2030年までに、石炭火力発電を段階的に廃止
  • 2035年までに、電力・熱を100%再生可能エネルギーで供給
  • 2050年までに、輸送部門を含むすべてのエネルギーを100%再生可能エネルギーで供給

 現在、デンマークの電力消費量の40%以上は風力によって賄われており、エネルギー転換はすでに進行中である。

「タービン・アドベンチャー」

 デンマークの野心的な温暖化目標は、10年に及ぶ、市民主導による草の根の脱原発・再生可能エネルギー推進運動の成果である。

 1974年、政府の原発導入決定に伴い、国内の電力会社が原子力発電所の建設を計画したことに対し、OOA(原子力情報組織)というNGOが反対運動を始め、「原発の代わりに風力などの再生可能エネルギーの推進を」と市民によるデモが拡大した。1970年代後半〜80年代初期には多くの市民が個人的に風力タービンを建設した。これがいわゆる「タービン・アドベンチャー」の始まりである。

 この運動が環境科学者やエンジニア、政治家に支持され、本格化すると、原発に対する支持は縮小し、1985年には議会の大多数により、デンマークのエネルギー計画から原発を除外することが決定されたのである。政府は風力発電設備に投資する市民に対し助成金を出し、タービンの新規建設については、初期設備投資の40%を助成した。

 風力タービンの個人所有と「風力協同組合」による共同所有は多くの支持を受け、現在では風力タービンの4分の3は一般市民が所有している。

環境と経済成長

 温暖化対策はコストがかかり過ぎるといわれることが多いが、デンマークの例はそうではないことを証明している。雇用の創出はデンマークの温暖化対策の明確な目標となっており、国は再生可能エネルギーや省エネ技術、再生可能な熱供給システムの研究・推進に大きく投資し、それにより国内経済は活性化し、多くの雇用が生み出されている。

デンマークの化石燃料ゼロの未来のためのエネルギーシナリオ

 2010年、デンマーク気候変動政策委員会は、デンマークは原発やCCSを利用することなく、2050年までに化石燃料の使用を完全にゼロにできると分析した。これにより、政府は化石燃料への依存からの100%脱却を政治的に決断した。

化石燃料の段階的廃止と100%再生可能エネルギーへの転換シナリオ

 2014年5月、デンマーク・エネルギー庁は2020年、35年、50年のエネルギー目標達成のための四つのシナリオを発表した。各シナリオは主にバイオマスと風力の依存度が異なる。転換を完全に達成するには時間がかかるため、政府は遅くとも2020年までに一つのシナリオを選ばなければならない。環境・気候変動の視点から考えると、2050年までにバイオガスと廃棄物を除くバイオマスの利用を現在より55%増やす「風力シナリオ」と、バイオマスの利用量が現状より少ない「水素シナリオ」がその他のシナリオよりも好ましいと見られるが、四つのシナリオはいずれも大きな省エネ効果を予測している。

 化石燃料ゼロおよび再生可能エネルギー100%へのロードマップはデンマークの国内事情特有のものであるが、多くの提案が他の国々にも関連があり応用できる。例えば、予測される再生可能エネルギーへの100%転換にかかる長期の追加的コストは、化石燃料の長期的な価格上昇が見込まれるため、2050年にはデンマークのGDPのわずか約0.5%に過ぎないと試算されている。つまり、転換による国内経済への影響は非常に少ないのである。

目標達成のカギを握る風力

 エネルギー庁は、デンマークが化石燃料から完全に脱却するためのカギは主に洋上風力発電用タービンを主とする風力タービンの発電容量の向上だとしている。デンマークは風力発電技術において世界をリードしており、国内の電力の40%はすでに風力により賄われている。

 2050年には、1万1,000〜1万8,500MWの風力発電容量が必要になると予測される。新規のタービンフリート(設置用作業船群)のほとんどは洋上に設置されるだろう。

 2050年、地域熱供給のためのエネルギーの大部分が地中熱、水、大気の熱を利用する電動ヒートポンプによるものになると見込まれる。地域熱供給を導入する都市の一部は地熱資源を利用するが、ヒートポンプの推進が求められる。さらに、大型の太陽熱集光装置の設置も期待される。

 太陽光発電システムもデンマークのエネルギーミックスで重要な役割を担う。現在、1ヵ月当たりの平均発電容量約36MWのソーラーパネルが設置されており、2030年までの総容量は3,400MWに達すると予想されている。

 風力発電の利用可能性が低い場合、エネルギー供給を保証するため、持続可能なバイオマス、バイオガス、廃棄物エネルギーによる分散型発電装置や、インテリジェント蓄電システム、近隣諸国の水力発電などがこれを補完することができる。国境を超える送電の容量増加にかかるコストは、電力取引による経済的利益によって相殺できるだろう。

コミットメントがカギ

 2050年までに化石燃料から完全に脱却し、100%再生可能エネルギーによる電力システムを構築することは簡単にはいかないだろう。技術はすでにあるが、目標達成への道のりは前途多難である。重要なのは、デンマークの示すコミットメントが現実的かつ複製可能であることを示すことである。そしてそれが世界規模に拡大されれば、現在の気候危機の解決に大いに貢献することになるだろう。

※IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書政策決定者向け要約

グローバルネット:2015年7月号より


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