サイト内
ウェブ

パヴロフの犬ってどんな実験だったかご存知? 有名な心理学実験はどのように行われたのか〜注目の新書紹介〜

  • 2023年4月23日
  • GetNavi web

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。実験って面白いですよね。ただ家事をするだけだと面倒くさくて仕方ないので、掃除や洗濯などは日々実験と思ってこなしています(笑)。この汚れにはクエン酸がいいのか、重曹がいいのか。洗濯物をどう干せば生乾き臭が防げるのか……。

 

実験といっても毎回条件が違うので正確な答えは出ないですが、自分なりに仮説を立ててそれが実証されるとうれしいものです。小学生のころ、理科の科学実験が好きだったことを思い出します。

心理学者が紹介する有名実験

 

さて、今回紹介する新書は『心理学をつくった実験30』(大芦治・著/ちくま新書)。著者の大芦治さんは心理学者で千葉大学教育学部教授。専門分野は心理学、教育心理学です。著書に『無気力なのにはワケがある―心理学が導く克服のヒント』(NHK出版新書)、『心理学史』(ナカニシヤ出版)などがあります。

“パヴロフの犬”はどんな実験?

19世紀末から20世紀末までに行われた重要な心理学実験の内容を解説していく本書。30の実験は名前としてはピンとこなくても、立証された説は小説や映画、自己啓発本などで見かけるものが多数あります。それらの実験が具体的にどのような手法で行われたのか、その実験をきっかけに心理学がどう発展していったのか。“人間の心”という目に見えないものを解き明かすための奮闘の歴史ともいえるでしょう。

 

第1章「行動主義と条件づけ」では、いわゆる“パヴロフの犬(「パヴロフの条件づけ」)”が取り上げられています。私ももちろん名前は知っていますが、そういえば実験手法は気にしたこともありませんでした。

 

条件づけされれば食べ物がなくても唾液が出ることを証明した、ロシアの生理学者イワン・パヴロフ(1849〜1936)。まず、犬の口にチューブを差し込んで唾液が採取できるように固定します。そしてメトロノームを鳴らして、餌を与えることを何度か繰り返すうち、犬はメトロノームの音を聞いただけで唾液を出すようになる……。実験の様子を描いたイラストも掲載され、当時の状況がわかります。

 

そそっかしく忘れっぽい私が興味を引かれたのが、第4章「認知と記憶」で紹介されているドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウス(1850〜1909)の「エビングハウスの忘却曲線」。人間の忘却と時間の関係を示したグラフを、学習法や記憶術の本などで見たことがある人も多いでしょう。

 

この実験の内容も面白く、被験者はエビングハウス本人だけ。ローマ字3つをランダムに並べた無意味な音節13個を作って1セットとし、それを暗記します。1セットを2回間違えずに言えれば記憶は成功。初回学習と一定の時間経過後に行った再学習で記憶にかかった時間の差を測り、記憶の保持率を出します。

 

結果としては、19分後の保持率はせいぜい60%、1日経つと30%近くまで落ち込みますが、その後はそれほど低下せず6日経っても3割弱だったそうです。「長期記憶の性質を実験によってとらえている」と大芦さん。忘却曲線の実験は、意味のない3文字を覚えるという行為だったんですね。

 

ほかにも、被験者が他人に電気ショックを与えるかを観察した「ミルグラムの服従実験」、子どもがマシュマロを我慢できる時間と将来の成功の相関関係を測った「マシュマロテストの追跡研究」、長期間ストレスにさらされると現状に対して無気力に陥る「セリグマンの学習性無力感」など、気になる実験が並んでいます。

 

文章は堅めなものの、30の実験が個別にまとまっているため読みやすく、それでいて心理学という学問の歴史に沿っているので俯瞰で見ることもできます。立証された説だけでなくその大元をたどっていく、知的好奇心を刺激する切り口も新書らしいところ。

 

心とは何か? どうしたら測れるのか? 人間の隠れた部分と尽きない探究心に触れられる一冊でした。

 

【書籍紹介】

心理学をつくった実験30

著:大芦治
発行:筑摩書房

パヴロフの犬、ミルグラムの服従実験、マシュマロテスト、セリグマンの学習性無力感……。心理学の魅力は、精緻に練り上げられた実験手法と、それがあぶり出す人間の知られざる一面にある。「心」とそれにまつわる人間の活動を科学的に解明することをめざした近代心理学は、その当初から実験研究を重視してきた。本書では、そのなかから広く知られ、大きな影響力を持った30の実験をセレクト。それぞれの実験を心理学の流れのなかに位置づけ、その内容と影響を紹介していくことで、心理学という学問の歴史とその広がりを一望する。

楽天koboで詳しく見る
楽天ブックスで詳しく見る
Amazonで詳しく見る

 

【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C)ONE PUBLISHING