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半径60メートルのエリアリノベーション。秋田市亀の町の3階建てビルを拠点に

  • 2023年5月12日
  • コロカル
See Visions vol.2

こんにちは。〈株式会社See Visions〉の東海林諭宣(しょうじ あきひろ)です。第2回目となります。よろしくお願いします。前回は、2006年の会社設立から、2013年からスタートした〈酒場カメバル〉の立ち上げを通して感じた「まちの共有地づくりの始まり」についてのお話でした。

今回は、その後2015年にオープンした〈ヤマキウビル〉のリノベーションプロジェクトがテーマです。〈ヤマキウビル〉の前にオープンした弊社が運営する2店舗目〈サカナカメバール〉も絡めながら、少し詳しく前編「開業までのプロセス」と後編「開業後の運営と兆し」に分けてお伝えいたします。

連続して共有地をつくる決意をする

2013年に亀の町で〈酒場カメバル〉を開き、自分自身がまちのプレイヤーとなったことで、これまでとは少し「角度の違う視点」でまちを見ることができるようになりました。

「角度の違う視点」とは、「今ここに必要なコンテンツは何か」と「それは誰が(運営)できるのか」と考えることであり、そうすることでまちの景色が魅力的に見えてきます。それは長年住んでいる、または普段からその場所を利用している方々には見つけにくいことなのかもしれない、ということにも気がつきました。

カメバルを訪れた方々もあらためて、見逃していた”余白”となっている場所に魅力を感じ始めていたようです。毎夜、カメバルのカウンターでは「亀の町に〇〇があったらいいなぁ」「飲食店をやりたいって言っている知り合いがいるけど、亀の町でやったらいいんじゃないか」など、楽しい談義が行われるようになりました。

カメバルはいわゆる亀の町エリアの「拠点」となって、関わる方が増え、人材が発掘されたり、周辺の空き店舗の相談や情報が集まったりすることが多くなりました。それは、亀の町エリアの熱量の高まりを予感させるものでした。

酒場カメバルのカウンターでは夜な夜なまちの可能性が語られる。

酒場カメバルのカウンターでは夜な夜なまちの可能性が語られる。

この熱を生かすことが必要だと感じたものの、僕たちの生業はデザイン会社であり、飲食業や小売店などまちのプレイヤーとなる方々のお手伝いをするのが本業です。自らが店舗の拡大を目指すことで、デザイン会社としての本分を逸脱してしまうのではないか、という懸念もありました。

しかし、そもそも会社の成り立ちを振り返ると「僕たちが暮らすまちにある課題を事業で解決し、住みやすく楽しい場所にしていくこと」も必要であると感じていたので、やはりこの事業はやるべきことだと認識し、「1年に1店舗ずつ、3年間で3店舗」という目標を社内で決定したのです。ここから、僕たちは「亀の町のエリアリノベーション構想」へ前進することになります。

敷地に価値なし、エリアに価値あり

「エリアリノベーション」とは、行政ではなく民間が主導するリノベーションによるまちづくりの手法です。地域の事業者や企業、市民などによる、都市やまちへのいわばゲリラ戦的な取り組みで、建築家の馬場正尊さんらが提唱していたこの方法を、亀の町でも実践してみようという試みでした。

エリアリノベーションでは小さな物件を小さな民間投資によって再生し、その複数の小さな点をつなげてネットワーク化し、面にすることでエリアを変えていきます。この方法の利点はスピード感があり、状況に応じて変化できること。少し失敗したり、思い直したりする場合は引き返すことも容易です。

亀の町エリアリノベーションの対象エリアは、極めて狭い範囲(半径60メートル以内)に設定しました。エリアに「日常的に利用される、使い勝手の良い縁側」というコンセプトを立て、周辺にある空き店舗での出店意欲がわくような場所にすることを目的としました。民間事業者(弊社)によって楽しいコンテンツをつくりだすことで、このまちに集まる人々の「やってみたい」「ここでならできるかも」という創造性が発露することを期待してのことです。

酒場カメバルを中心に半径60メートル以内で物件探しを始める。

酒場カメバルを中心に半径60メートル以内で物件探しを始める。

この当時、亀の町の南通での不動産取引件数(売買・賃貸で動いた建物)は年間4件とかなり低く、空き店舗が目立つエリアでしたが、毎夜カメバルには人が集まり、カメバルがある狸小路は明るく照らされ、居心地の良い場所に変化していました。

2年目の第2の拠点〈サカナカメバール〉の始まり

翌年になり、ふたつ目のプロジェクトの場所を検討していたところ、カメバルの向かいで営業していた麻雀店の退去が決まりました。広さはカメバルと概ね同じ10坪で、こちらも2階建てです。

大家さんはカメバルと同じ不動産会社で、カメバルよりも少しだけ家賃が高くなりましたが、これもエリアの良い効果と信じて賃貸契約を結びました。

築60年の長屋。柱などの躯体に腐食が見つかる。

築60年の長屋。柱などの躯体に腐食が見つかる。

解体を始めると驚くことがよくあります。長年雨風に晒(さら)されたため腐食が進み、宙に浮いてしまった柱。2階は天井までの高さが1.5メートル、3帖ほどの開かずの間。それはこの小路が当時どんな場所だったかを偲(しの)ばせる怪しい部屋でした。これもまた、リノベーションの楽しい場面です。

亀の町、狸小路に関わる人を増やす

内部を解体してスケルトンになった建物内で、僕たちがなぜ飲食店経営に乗り出したのか、そしてこれから亀の町で空き店舗を活用してやっていきたいさまざまな取り組みについて地域のみなさんにお伝えし、広がることを期待してトークイベントを開催しました。

ゲストは大阪のクリエイティブユニット〈graf〉の服部滋樹さんと、東京の建築設計事務所〈OpenA〉の馬場正尊さん。豪華なゲストのおふたりにこれからの地方でのリノベーションの可能性とデザイン会社として飲食店を展開する可能性を説いていただきました。

夏の蒸し蒸しするなか、参加者は50名。これもまたこの場所に関わる人を増やすという意味ではとても意義のあるものだと感じました。

夏の内装解体中の現場で行われたトークイベント。

夏の内装解体中の現場で行われたトークイベント。

こうして、次に開店したのがイタリアンバールの〈サカナカメバール〉です。カメバルとサカナカメバール、2店舗が向かい合うことでの利点を生かし、まちにはみ出す縁側を設置し、小路を挟んで向かい合って楽しめるようにしました。お客様はカメバルとサカナカメバールを行ったり来たり。店舗自体の敷地にとらわれず、まちを楽しめるおもしろい環境をつくることができたと思っています。

サカナカメバールの店内。写真の奥に見えるのがカメバル。私道を挟んで向かい合う2店舗は、連なってイベントが開催できる。

サカナカメバールの店内。写真の奥に見えるのがカメバル。私道を挟んで向かい合う2店舗は、連なってイベントが開催できる。

私道である路地をはさんだ2店舗。どちらにもまちにはみ出す縁側を設置した。

私道である路地をはさんだ2店舗。どちらにもまちにはみ出す縁側を設置した。

また、サカナカメバールの昼の活用として、コーヒースタンド〈KAMELEON COFFEE〉を設置します。

コーヒーのスペシャリスト鎌田勇気さんとの出会いからできた奇跡のお店でした。夜のまちとして認識されている亀の町に昼の光景ができることで、また新しいコンテンツが加わりました。

KAMELEON COFFEEは夜のまちの亀の町に、新しい可能性を感じさせた(現在はサカナカメバール、KAMELEON COFFEEは閉店)。

KAMELEON COFFEEは夜のまちの亀の町に、新しい可能性を感じさせた(現在はサカナカメバール、KAMELEON COFFEEは閉店)。

〈ヤマキウビル〉との出会い

2015年、3年目の3店舗目の出店について検討を始めました。それに合わせて9年目を迎えた株式会社See Visionsの事務所移転も計画することになりました。

店舗はふたつに増え、にぎわいを取り戻した狸小路から30メートルほど離れた場所に〈株式会社ヤマキウ〉という看板のある空きビルを発見します。

亀の町に佇むヤマキウビル。築45年の3階建て。

亀の町に佇むヤマキウビル。築45年の3階建て。

株式会社ヤマキウは、ビールメーカーの卸会社として活躍されていましたが、僕がビルを見つけた当時はすでにその役目を終え、不動産事業を営まれていました。ビルのオーナーは株式会社ヤマキウ代表取締役社長の小玉康延さんであることを知ります。

中心市街地の近くに位置する600坪の敷地には、55坪ほどのヤマキウビルが1棟と200坪と50坪の倉庫が2棟あるとても大きな物件でした。次の一手として、亀の町のエリアリノベーションのランドマークをヤマキウビルに定め、まちの共有地づくりを加速させる事業計画を練りはじめます。

弊社でビル1棟を借りあげ、弊社の事務所と店舗だけでなく、ほかの入居者やテナントも誘致して多様なコンテンツを集めようと計画しました。そしてビルは入居者を募集していなかったので、借りるためにはオーナーに交渉しなければなりません。

入居者を決めてから、事業をスタート

通常はビルを借りてからテナントを募集しますが、オーナーへプレゼンテーションするときにはすでに入居者を決めておくことにしました。そうすることでビル運営事業の見通しが立ちオーナーへの説得力が増すため、事業がスタートしやすい状況をつくれるだろうと考えていました。

事業計画の中身としては、1階に昼と夜の顔を持つ飲食店を2店舗入れ、うち1店舗は自社でカフェを開業し、入居することにしました。3店舗目となる〈KAMENOCHO STORE〉の誕生です。もう1店舗はテナントとして、クラフトビールで展開を図る〈ビアフライト〉の三浦直樹さんに声をかけて、入居の意思を確認し、計画に入れました。

2階には弊社と同時期に事業をスタートさせて、同年代で仕事とプライベートについてよく話していた税理士法人〈MUGEN〉の磯崎悠耶さんと、イベント企画・運営会社〈アンドアッシュ〉の萩原譲さんに声をかけ、承諾を得ました。3階は僕たちの事務所が入居する計画です。

プレゼンテーションシート「亀の町プロジェクトヤマキウビル活用のご提案」。

プレゼンテーションシート「亀の町プロジェクトヤマキウビル活用のご提案」。

昼はオフィスとデリ&カフェ、夜はクラフトビールとバル。夜の顔と昼の顔をもつ亀の町にすることで、関係する方々の滞在時間を増やすことを目的にします。それは、多くの方々が亀の町を訪れ、関わっていただくことで、まちの魅力をみんなで考え、亀の町を中心に僕たちの住む秋田市が盛り上がっていけばいいなという思いからでした。

ビルオーナー 小玉康延さんとの交渉へ

僕は、このビルへの思いをしたためたプレゼンシートを手に直接オーナーを訪問することを決意しますが、結果は1度目、2度目ともに門前払いでした。

思えば当然のことです。「デザイン会社とバーを2店舗運営する、よくわからない36歳の若造」に、大切な場所を貸し出すなど到底検討の余地もないことです。

しかし、僕の決意は変わりません。

リノベーションによって地域が変わり、オーナーの意識も変化させることができれば、それはまた大きな可能性に変わると信じ、次の機会を虎視眈々(こしたんたん)と狙います。

つづく

information

KAMENOCHO STORE 

住所:秋田県秋田市南通亀の町4−15

営業時間:11:00〜20:00

定休日:無休

Web:〈KAMENOCHO STORE〉Instagram

profile

Akihiro Shoji

東海林 諭宣

しょうじ・あきひろ●株式会社See Visions/株式会社スパイラル・エー代表取締役。1977年秋田県生まれ秋田市在住。都内デザイン事務所を経て、2006年、秋田市に〈株式会社シービジョンズ〉を設立。現在は、店舗・グラフィック・ウェブなどのデザイン、編集/出版・各種企画/運営などを手がける。近年では〈株式会社スパイラル・エー〉を設立し、秋田市中心部で〈酒場カメバル〉〈亀の町ベーカリー〉〈亀の町ストア〉〈亀の町UP TO YOU〉を運営。自社が入居する2015年のヤマキウビルリノベーション事業を機に、2019年の〈ヤマキウ南倉庫〉など、不動産活用によるエリアの価値創造を掲げ、各地の町の魅力を引き出す活動を精力的に行っている。好物はスイカ。http://see-visions.com

credit

編集:中島彩

トップ写真:@高橋希 ozimoncamera

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