音楽好きコロンボとカルロスがリスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは岩手県盛岡市。
ニューヨーク・タイムズが選んだ、2023年に行くべき場所、盛岡コロンボ(以下コロ): 盛岡に行ってきました。
名前カルロス(以下カル): 盛岡といえば、この間、〈ニューヨーク・タイムズ紙〉の「2023年に行くべき52カ所(52 Places to Go in 2023)」でロンドンに次いで、2番目に選ばれたじゃない。
コロ: そうなの。掲載ナンバーは厳密には順位を意図したものではないそうだけど、#2として、ロンドンの次に紹介されたわけだから、すごいよね。
カル: アメリカ南部のアーティストが遠く離れたニューヨークより、ノースカロライナ州のアシュビルを選ぶように、盛岡にも似たようの空気があるだろうね。宮沢賢治の世界観にも惹かれるし。
コロ: 雄大なランドスケープも圧倒的だけど、ぶっといコーヒーカルチャーがあったり、サブカルを牽引する〈BOOKNERD〉みたいな書店があったりと、クリエイターが生き生きと暮らすようなコミュニティがあるもんね。
まさにサブカルチャーのカオスともいえるカウンターまわり。
こちらはポップカルチャーのラビリンスともいえるデコレーション。
カル: 今回の〈珈琲と酒 米山〉はその〈BOOKNERD〉の店主、早坂大輔さんが「盛岡で一番のディープカルチャースポット」と紹介している。
コロ: まあサブカルのカオスというか、ポップカルチャーのラビリンスというか、店内はすごいことになっているんだ。
カル: 盛岡城の内丸にあるんだね。史跡扱いにもなっている城内、お堀の中なんでしょ。
コロ: にもかかわらず新宿のゴールデン街や渋谷ののんべい横丁に似た新旧ハイブリットな雰囲気があるんだよね。レッドカーペットが敷かれた狭い階段を登っていくと、うっすらとフレディ・ハバードがかかっているわけ。
カル: 昭和にタイムスリップだね。そこに写っているカセットテープはビル・エヴァンスの『ポートレート・イン・ジャズ』? カセットテープで見るの初めてだ。
コロ: しかも日本盤。
カル: もちろん鳴らせるんでしょ。
ビル・エヴァンスの『ポートレート・イン・ジャズ』の日本盤カセットテープ。
オーディオシステムはヤマハのラジオもついたシステムコンポ。カセットテープはラジカセで対応。
コロ: ソニーのラジカセで聴ける(笑)。お店はほんとうにカオスでさ。レコードやらCDやら本やら、お客さんも通れないくらいに、所狭しと置かれている。しかも系統だった感じがまったく見受けられないんだよ。
カル: 探すのも一苦労だね。でも、マスターはわかるんだろうな。
コロ: いや、わからないんだって。マスターの米山徹さんいわく、片づけができないそうだよ(笑)
カル: ジャズが中心なの?
コロ: よくかけるのはエリック・ドルフィーの『LAST DATE』だけど、そうでもないみたい。好みに偏りがあって、音楽遍歴はブルース、R&Bに始まって、パンク&ニューウェイブ。リチャード・ヘル、テレビジョンにぞっこんだったとか。
カル: そうはいいつつ、何気にディアンジェロがあったりして偏食で雑食だね。プリンスとかも?
コロ: 『サイン・オブ・ザ・タイムズ』の頃はかなりハマって仙台公演はよかったんだけど、東京ドームで観たら、気持ちが離れちゃったんだって。
カル: 遠すぎたのかな?(笑)
お店でもっともかかるというエリック・ドルフィの『LAST DATE』。
どっぷりはまったニューウェイブからテレヴィジョンの名作『マーキー・ムーン』。
コロ: コーヒーは盛岡の老舗〈クラムボン〉の豆なんだよ。
カル: おっ、盛岡といえば宮沢賢治、宮沢賢治といばクラムボン。「クラムボンはわらったよ」だね。深煎りの正統派。盛岡はサードウェイブ系の熱い店も多いけど、〈クラムボン〉や〈羅針盤〉など、オーセンティックな店も、また魅力。
コロ: 米山さんはもともと〈クラムボン〉で長い間、働いていたそう。慣れた豆だから、いちばんうまく淹れられるってさ。
カル: 内丸のお堀を眺めながら飲むコーヒーいいよね。なんだったら、『ポートレート・イン・ジャズ』のカセットで、「枯葉」でも聴きながらも風情がある。
コーヒーブレイクにはもってこいのまったり系の窓際の席。
店主のカルチャー変遷。インド土産から本の切り抜きに『音楽のピクニック』。
コロ: お店をオープンしたときに〈クラムボン〉から借りてきたシンガーソングライター系もいいかもよ。
カル: それって、返せって言われてるんでしょ(笑)。
コロ: オーディオはハイエンドってわけじゃないけど、配置を変えたらすこぶる鳴りがよくなったそう。「いままで、なんだったんだ」ってくらい劇的に。
カル: スピーカーのセッティングはオーディオの基本だね。つい面倒くさがちゃうけど、ダメだよね。
コロ: たしかにけっして広いお店じゃないんだけど、音の広がりが心地よかったな。ラジオから流れたヴァネッサ・カールトンの「サウザンド・マイルズ」最高だったな。
カル: 地方で聴くラジオっていうのも時としてヤバいよね。ところでお店で本も売ってるんでしょ。
コロ: もし読みたければ……、程度だけど売っている。米山さん昼間は古本屋で働いているんだよ。
カル: だからお店のオープンが18時なんだ。
コロ: 『音楽のピクニック』の小杉武久さんもやっていた〈美学校〉の教え子、マージナル・コンソートの演奏をボランティアで手伝ったりと、米山さん自身がサブカルそのもの。
カル: 独自の文化を探ってる姿勢は、盛岡そのものだね。
コロ: 〈珈琲と酒 米山〉はまさにサブカルの聖地。
カル: 2023年に行くべきお店ってことだ。
お目当てのレコードを探すのもひと苦労。サイケな天井は開店時にせっせと貼ったとか。
音楽、本、映画、アート。そして珈琲と酒。すなわちサブカルの聖地。
information
珈琲と酒 米山
住所:岩手県盛岡市内丸5-8 2F
TEL:090-6251-1357
営業時間:18:00〜22:00
定休日:日曜
【SOUND SYSTEM】
Turn Table:Technics SL-1700
Integrated Amplifier:YAMAHA CR-500(natural sound system)
Speaker:YAMAHA NS550
CD Player:SONY CDP-XE500
Radio Cassette Recorder:SONY CFS-E12
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多