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石巻の「すギョいバイト」がすごかった。35人の高校生が1日バイトで水産業を体験

  • 2023年4月28日
  • コロカル

高校生のバイト先に水産業はいかが?

水産業の仕事とその魅力を高校生に体験してもらうため、1日だけ漁業や水産加工のアルバイトをする企画が宮城県石巻で3月25日から31日に実施されました。その名も「すギョいバイト」。そのすギョさとは?

水産業を「かっこよくて」「稼げて」「革新的な」産業にする〈フィッシャーマン・ジャパン〉のみなさん。

水産業を「かっこよくて」「稼げて」「革新的な」産業にする〈フィッシャーマン・ジャパン〉のみなさん。

企画運営したのは、〈フィッシャーマン・ジャパン〉。2014年に石巻で設立されて以来、「かっこよくて」「稼げて」「革新的な」新3Kの産業を創ると活動理念を掲げて活動を続ける一般社団法人です。

活動の中心である未来のフィッシャーマンを育てる「TRITONプロジェクト」では、過去7年間で40人の漁師が誕生。成果を上げてきました。

そのプロジェクトの一環として3月に行われた「すギョいバイト」では、もちろんアルバイト代が支払われ、時給1000円と石巻の高校生にとっては破格。しかも、送迎あり、友人との参加OK、さらには豪華特典付き! となかなか魅力的です。

2021年度の施策として各高校に掲示したポスター。

2021年度の施策として各高校に掲示したポスター。

高校生に水産業を体験してもらう企画が立ち上がった背景には、水産業の深刻な担い手不足と高齢化があります。水産業が基幹産業の石巻でも、若い世代は水産業にどんな仕事があるのか、具体的な内容を知る機会がほとんどありません。加えて、水産業に限らずコロナ禍によって高校生のインターンや職業体験の場が激減。高校生たちにとって、将来の仕事を考える材料が十分ではなかったのです。

そこでフィッシャーマン・ジャパンが考えたのが、地元の高校生に水産業の魅力を伝えて、職業の候補にしてもらおうということでした。

当初は高校生に水産業を理解してもらうためのイベントをまちなかで開催することを考えていました。しかしイベントを開いたら、高校生は自主的に来てくれるのかという疑問が浮上。

実は、フィッシャーマン・ジャパンが高校生にアプローチしたのは今年が2度目のこと。2021年度は各高校に水産業の魅力を伝えるポスターの掲示をお願いし、LINEでの就業相談を実施しました。その経験から、なにひとつ体験したことがない状況でいきなり水産業に就くことを考えるのはハードルが高いのではないか、という考えに至りました。

「まずは水産の仕事を体験してもらうことが必要だ」

そう考えたフィッシャーマン・ジャパンのメンバーは、石巻駅周辺で高校生に協力を求め、徹底ヒアリング。企画に意見をもらって取り入れたり、パンフレットやポスターの絵も高校生に描いてもらったりと一緒にプロジェクトをつくっていきました。

「高校生たちは部活や塾、アルバイトと忙しくて時間がありません。アルバイト先について聞いてみると、コンビニやチェーンの飲食店という答えが多くありました。せっかく石巻には水産業という地場産業があるのに、その仕事を高校生にとって身近な形のアルバイトとして体験する場がないのはもったいないですよね」とフィッシャーマン・ジャパンの香川幹さん。

日頃から交流のある漁師や水産加工会社に声をかけると、9つの事業者がバイトを受け入れてくれることに。経験の少ない高校生でもできて、受け入れ側もやってもらって助かる仕事を吟味。

カキ養殖に使うロープ切りや、種ガキをロープに挟み込むと言ったものからYouTubeの出演や、食品工場で欠かせない菌検査などさまざまな仕事です。

豪華特典は、作業の合間や終了後に、船に乗って漁場を見学したり、取り扱う水産物の試食をしたり、水産物のお土産をもらったりと、豪華さは本物。たった1日の体験でも、バイトで行う作業の重要性が感じられるようにプログラムが組まれました。

石巻付近の高校に配布したパンフレットと特製ファイル。イラストも高校生に依頼。

石巻付近の高校に配布したパンフレットと特製ファイル。イラストも高校生に依頼。

募集には、石巻市近隣のほとんどの高校にパンフレットと特製クリアファイルを配布したほか電車の車内広告も活用しました。各高校の先生や保護者から理解や協力もあり、応募数は予想を上回って急遽、枠を増やす事態に発展。9つのバイトに男子12人、女子23人、合計35人がバイトに参加することになりました。

水産加工会社のYouTubeに出演

布施太一さん(中央)とバイトをした女子高校生たち。撮影中はテンション高めで進行しました。

布施太一さん(中央)とバイトをした女子高校生たち。撮影中はテンション高めで進行しました。

「うちのYouTubeに出てもらえませんか?」と高校生を招き入れたのは水産加工会社の〈布施商店〉。大正時代から続く老舗ですが、4代目として社長を務める布施太一さんは「仲買人、タイチ」としてYouTubeチャンネルを開設。水産業の魅力を伝えています。

高校生にYouTubeに出演してもらう狙いは「うちのYouTubeを見てくれているのは30代、40代のおじさんばかり。高校生に出演してもらって、若い世代にも見てもらいたい」とのこと。台本兼企画書には、チャンネル登録15人増、いいね25など、具体的な数値目標まで記載されていました。

YouTubeに出演するバイトをしたのは女子高校生ふたり。布施商店で扱っているタラをさばく作業に挑戦する動画を撮影しました。

若い職人さんに手順を教えてもらいながら、その日に水揚げされたばかりのタラを交代でさばきます。お互いのコメントを上手に引き出すふたりの姿に布施商店の皆さんも感心しきりです。

「タラフライには醤油がおすすめです」と布施さん。

「タラフライには醤油がおすすめです」と布施さん。

その後、捌いた後のタラは、衣をつけてフライにして試食しました。「身がふわふわでおいしい!」と自分でさばいたタラフライの味に感激している様子も動画に収められて、5月ごろ公開予定です。

ホヤ養殖に欠かせない原盤づくりのあとにホヤの試食

海のパイナップルと呼ばれるマホヤ。石巻のスーパーでは1つ100円ほどで販売されていますが、出荷できるサイズになるには5年かかります。

海のパイナップルと呼ばれるマホヤ。石巻のスーパーではひとつ100円ほどで販売されていますが、出荷できるサイズになるには5年かかります。

牡鹿半島の谷川浜でホヤの養殖を行う〈あつみ屋〉で、ホヤの採苗に使う原盤づくりにチャレンジした高校生は、男子1人、女子3人。ホヤは宮城県が全国でトップクラスの生産量と消費量を誇る石巻らしい食材のひとつです。

カキ殻を繋げる作業も高校生たちは真剣。

カキ殻を繋げる作業も高校生たちは真剣。

原盤づくりはカキ殻をロープでつないで数珠つなぎにする地道な作業ですが、高校生たちは真面目に取り組み、作業は捗りました。

作業のあとは、ホヤのなめろうやマリネ、パスタのほか新鮮なホタテやカキ汁も振る舞われました。

作業のあとは、ホヤのなめろうやマリネ、パスタのほか新鮮なホタテやカキ汁も振る舞われました。ホヤが大好きでバイトに参加したという女子高校生もいて、終始賑やか。

船でホヤが養殖されている海に向かい、洋上からホヤの成長を確認しました。

食事の後は、船でホヤが養殖されている海に向かい、洋上からホヤの成長を確認しました。

終了時にバイト代とおみやげをもらった高校生たち。「苦手だったホヤが好きになった」「漁師も進路の選択肢に入れたい」という高校生の反応に、フィッシャーマン・ジャパンのメンバーでもあるあつみ屋の渥美貴幸さんは「いつでも連絡して」とうれしそう。取り組みに手応えを感じているようです。

水産業と進路に悩む高校生の課題、両方の解決にまず一歩

学校でアルバイトが禁止されていることも多い高校生。「すギョいバイト」は、春休み中の1日だけだからOKと参加できた人もいました。参加者の中には将来の仕事について具体的なイメージや経験がないまま、進路を選択しなくてはならないことに戸惑っていた人もいて、そのヒントにもなった様子です。

布施商店ではお土産にさばいたタラが渡されました。

布施商店ではお土産にさばいたタラが渡されました。

「今回参加した高校生が、卒業後すぐ水産業に就くような短期的な成果を狙ったわけではありません」とフィッシャーマン・ジャパンの香川さんは話します。しかし今回参加した35人にとっては、石巻には水産業の仕事があることが深く心に刻まれたはずです。

バイト代の入った給料袋をもらってうれしそうな高校生たち。

バイト代の入った給料袋をもらってうれしそうな高校生たち。

高校生が抱える課題やニーズに合わせたバイト企画、「すギョいバイト」は若い担い手が不足する各地の産業にとっても、大きなヒントになりそうです。

information

フィッシャーマン・ジャパン

住所:宮城県石巻市千石町8−20 TRITON SENGOKU

TEL:0225-98-7071

Web:フィッシャーマン・ジャパン公式サイト

writer profile

Saori Nozaki

野崎さおり

のざき・さおり●富山県生まれ、転勤族育ち。非正規雇用の会社員などを経てライターになり、人見知りを克服。とにかくよく食べる。趣味の現代アート鑑賞のため各地を旅するうちに、郷土料理好きに。

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