「夫と会話が弾まない……」子どもを諦めた夫婦の“無味乾燥な日々”と妻の決断

  • 2025年5月23日
  • All About

4年間不妊治療をしたものの授からず、二人で生きていくことを決めた40代の夫婦。子どもを持つという共通目標がなくなり、妻は夫との生活に戸惑うことが増えたという。離婚したいわけではないが、この足踏み状態に何らかの結論を出す必要があると考えている。
「子どもというのはいても苦労、いなくても苦労」と昔の人は言ったという。もちろん、子どもはいらないという選択をしているなら、夫婦だけで楽しむこともできるが、「ほしいのに結局、できなかった」場合、どこでどう諦めて踏ん切りをつけるのかが難しい。

さらに二人きりで生きていくと決めたのはいいが、子どもを欲する気持ちを介在させて向き合ってきた夫婦が、その思いを外したとき、何か別の思いや別のものが見えてくる可能性もある。

■知り合って3カ月でスピード婚
結婚したのはミナさん(44歳)が35歳、夫が32歳のときだった。

「昔は私、25歳で結婚して子ども4人産むと公言していたくらいだったんですよ。早く結婚して母になるのが夢だった。ところが大学出て就職したらすぐ23歳。氷河期だったからせっかく得た仕事を失いたくないという気持ちが強くなった。しかも仕事が面白くなって……。自分が生まれて初めてきちんと評価されている気がしたんですよ」

母は彼女をあまり褒めてくれなかった。100点をとろうが、いじめっ子から友達を守ろうが「よくやったね」と言われた記憶はない。だが職場は違った。些細なことでも褒めてもらえた。失敗しても反省して次に生かせばいいと慰めてもらえた。それが新鮮だったから、その「居場所」を大事にしたかった。

「30歳を過ぎてから、そうだ、子どもを産むなら早く結婚しなくちゃとは思ったんですが、なかなか機会がなかった。この人ならと思える人にも出会わなかった」

35歳のとき、母に付き添って行った病院で出会った看護師とひょんなことから言葉を交わし、なぜか親しくなって知り合って3カ月で結婚した。自分でもあまりのスピード婚に驚いたとミナさんは言う。

■夫から「二人だけで生きていこう」と言われて
「すごく優しい人で、とにかく職業柄もあるのかホスピタリティ豊かなんです。ストレスがたまる仕事だと思うけど、『僕には天職だから』って。私にもっとわがまま言っていいよとも言ってくれた」

結婚してみて、「いざというとき頼っていい人が近くにいる」安心感を、彼女は初めて得たという。気持ちが穏やかになり、日々が楽しくなっていった。

「二人とも子どもを望んでいましたけど、なかなかできない。年齢が年齢なので、不妊治療を始めましたが、頑張れば頑張るほど結果が伴わない自分に『私はダメな人間だ』と考えてしまった。4年くらい頑張ったけどできなくて、体力も気力もお金も尽きた。そんな感じでした」

夫が言った。「二人だけで生きていってもいいんじゃないの?」と。その言葉に彼女はすがりついた。

■子どもがほしいという共通目標がなくなって
ホッとしたのもつかの間、子どもがほしいという共通の目標がなくなったせいか、「夫婦」の結束が弱くなったような気がしたとミナさんは言う。

「それぞれに仕事をして、彼は夜勤などもあって。休みを合わせて食事に行こうとか旅行しようとか言っても、なんだか気持ちが弾まない。しかもその後は新型コロナがあって、彼は命懸けで仕事をしているような状況。一時期は家にも帰れない日々が続きました。さすがにストレスまみれになっていたと思います」

通常の働き方に戻っても、夫婦の間に共通の目標はない。夫は変わらず優しいが、「あれ?」と思うようなこともあった。

「会話がね、続かないというか盛り上がらないというか……。前からこんな感じだったかなと思ったんですが、分からない。考えてみたら、私たちは電撃的に結婚して、その後はひたすら不妊治療に励んで、二人の会話は不妊治療のことばかりだった。

その後、夫は新型コロナに忙殺されて、日常生活もまともに送れなかった。ここ2年くらい、やっと普通の生活に近くなったけど、私たちってどんな会話していたっけと戸惑うことが多いんです」

若いころ夫がどんな生活を送っていたのか、没頭する趣味はあったのか、今は何に興味があるの
か。そんな基本的なことさえ分かっていないのかもしれないと彼女は言う。

■夫といても楽しいと思えない自分
「結婚して10年近くたつのに、もしかしたら私たち、相手のことがまったく分かってないような気がするんです。だからといって、今さら自己紹介からは始められない。思い出話をするほど恋愛期間もなかったし。

彼の性格はとても好きだし敬意を抱いているんですが、なんだか私の思い描いていた『夫婦』とは違う。子どもがいないのだから、また一人に戻ってもいいのかななんて考えることもありますね」

夫を嫌いになったわけではない。ただ、互いに仕事で疲れた顔を見るだけで、会話自体が弾まない。思いやりを持ちながら生活はしているが、「この人といて楽しい」気持ちにはなれないのだという。

「優しいだけじゃダメなのかな、そう思う自分が冷たいのかな、と日々、悩んでいます。夫がどう思っているのかは分からないけど……」

まずはそこから確認しなければいけないのは分かっている。もしかしたら夫の心が離れているのかもと疑心暗鬼になることもある。じゃあ、自分はどうなのかと考えると、決して離婚したいわけではないのに、このままでいいとも思えない。結論を出すのも怖い。

「そのうちこの足踏み状態にイライラしてきそうな気がします。どういう形にしろ、結論を出す必要はあると分かってる。意気投合したつもりのスピード婚だったとしたら、なんだか寂しいですけどね」

モヤモヤした気持ちをいつまでも持ち続けるのがいいとは思えないが、話し合って結論を出すのも怖い。だが、決断するのはミナさん本人しかいない。

▼亀山 早苗プロフィール明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。

亀山 早苗(フリーライター)

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