サイト内
ウェブ

「予防原則」 詳細解説

読み:
よぼうげんそく
英名:
Precautionary Principle

予防原則とは、環境保全や化学物質の安全性などに関する政策の決定にあたって、具体的な被害が発生していなかったり、科学的な不確実性があったりする場合でも予防的な措置として影響や被害の発生を未然に防ごうという考え方だ。1980年代以降、国際的な議論が進められ、国際協定や各国の国内法、政策に採り入れられてきた。1985年の「オゾン層の保護のためのウィーン条約」と1987年の「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」では、いずれも前文で、「国内的及び国際的にすでにとられているオゾン層の保護のための予防措置に留意し」と、早くも予防的な政策に触れている。

予防原則の考え方が広がる契機となったのは、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた地球サミットだ。そこで採択された「環境と開発に関するリオ宣言」の第15原則で、「環境を保護するため、予防的方策は、各国によりその能力に応じて広く適用されなければならない」と予防原則が定められた。また、「深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きな対策を延期する理由として使われてはならない」と、科学的な不確実性が環境保全のための政策を進めない言い訳とされないよう釘をさす記述もある。

これ以降、予防に関する国際協定の規定は増え、1992年の「気候変動に関する国際連合枠組条約」や「生物多様性条約」、2001年の「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」、2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルクサミット)実施計画書」などに記載されたほか、EU(欧州連合)における規則や指令、各国の国内法で予防原則やそれに近い規定がある。また、欧州委員会(EC)が2000年に公表した「予防原則に関する委員会コミュニケーション」では、予防原則の構成要素や適用する際のガイドラインが示され、予防原則が国際法の一般原則の1つとなった。

具体的な規制として、EUは、電気・電子機器に対する有害物質の使用を制限することを目的に2003年1月に制定したRoHS指令(ロース指令)の中で、新たな規制物質を追加する場合は予防原則を考慮して調査すべきとしている。また、同じくEUが開始した化学品の登録、評価、認可、制限に関するREACH規制も、予防原則に基づく規制だ。このほか、OECD(経済協力開発機構)が2002年に予防原則の貿易と環境への影響に関する報告書を取りまとめているほか、WHO(世界保健機関)も健康保護の観点から取り組んでいる。さらに、カナダやスウェーデンが国内法の一部に予防原則の考え方を盛り込んでいる。

日本の法規制においては、環境省の「環境政策における予防的方策・予防原則のあり方に関する研究会」の報告によると、「予防」という用語が被害の未然防止という意味で用いられている場合が多い。未然防止について定めた環境基本法第4条にその一端が見られるという説もある。また、2006年4月に閣議決定された第3次環境基本計画には、地球温暖化対策の中で、「極めて深刻かつ不可逆的な影響をもたらすおそれがあることから、予防原則に基づいて対策を進めることが必要」との記載がある。一方、2008年に制定された生物多様性基本法は、基本原則の中で生物多様性を保全するための予防的な取り組みの重要性を明記している。

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。