WEB講義


鯨の耳垢から年齢と生活の履歴を推定、性成熟の若齢化がおきていた

 ところでIWCは商業捕鯨最後の種といわれたミンククジラの管理をより(科学的に)適切に行うために、1975年に国際捕鯨調査10ヵ年計画(IDCR; International Decade of Cetacean Research)を発足させ、1978年から目視調査法による南半球産ミンククジラの資源評価航海を始めました(初期には標識再捕法も併用)。日本はこの調査が発足して以来、SOWER(Southern Ocean Whale and Ecosystem Research)計画に名称を変えた今日まで、毎年2〜3隻の調査船と乗組員を派遣してきています。

 私も大学院博士課程のとき、第1回目の調査に国際調査員として参加し、このことが契機となり鯨類研究に足をふみいれることになったわけです。この航海の後、南氷洋で操業中の捕鯨母船第三日新丸に、マッコウクジラなど大型鯨類生態研究の世界的権威である調査団長のP.B.ベスト博士に付き添って転船。ベスト博士から鯨体を前にして直接に調査法の指導をうける幸運に恵まれ、好調に鯨類研究のスタートを切りました。帰国後、旧鯨類研究所の故大村秀雄所長、当時遠洋水研鯨類資源研究室の大隅清治室長(現日本鯨類研究所理事長)や正木康昭博士のご厚意により、鯨類研究を生業とする機会をいただけることになりました。


クロミンククジラ(南氷洋ミンククジラ)の耳垢栓。暗帯は冬に、明帯は夏に形成され、一年に一組の成長層が蓄積される。写真は一部を画像処理によって成長層の濃淡を強調してある。Kato et. al (1988)より。
 その後、私の専門は、ミンククジラの耳垢の観察から年齢と性成熟時を判定する研究が主体となり、以後7回にわたりIDCR国際調査や捕鯨母船に乗り南氷洋に脚を運ぶかたわら、私はこの作業に没頭することになりました。こうした研究から、いろいろなことが分かるようになりましたが、代表的なものは耳垢栓変異相に関する研究でした。ミンククジラを含むナガスクジラ科の鯨類の耳垢には年輪を刻む成長層があって、あるステージにくるとその成長層の間隔が急に変化する部位があります。これを変異相というのですが、研究の結果、変異相が形成される年齢は、性成熟時の年齢を意味することが分かっています。

 捕獲した鯨の耳垢栓変異を多数分析したところ、結果としてミンククジラの性成熟年齢が若齢化していることが分かってきました。なぜ若齢化がおきたのか? 私達が立てた説は、シロナガスクジラとの競合でした。シロナガスクジラとミンククジラは、同じオキアミ(特にナンキョクオキアミ)を餌とし、分布域や局所的な棲息場所も非常に近接しています。1930年代以降、シロナガスクジラを大量に捕獲したため、シロナガスの資源量が急減します(ミンククジラが捕獲されるのは1971年から)。このため競争相手のミンククジラにとっては栄養環境が急に向上した。ミンククジラは体格依存型の性成熟を示すんですね。ちょうど高度成長以後に生まれた子どもたちの身長が伸び、早熟になったと同様、オキアミを豊富に摂取したため性成熟年齢が若齢化したわけです。
 1940〜50年代の初めには12歳前後だったメスの性成熟年齢は、70年代前半には7〜8歳になり、子どもを出産できるメスの数も必然的に増加します。一方、鯨が減少する要因となる歴史的な自然死亡率の増加が想定できないため、私達はミンククジラの頭数は歴史的に増加したと考え、1980年頃からIWC科学委員会で、この考え方を主張していきました。

 ミンククジラの頭数が増えていることは、管理方式にも影響を与えまた捕獲枠増加につながるため、私達の性成熟年齢の若歳化説には頑強に反対する意見も当然ありました。以後のこの現象の真意を巡り15年間強にわたるディベートがおこなわれることになりましたが、議論が結果としてみると、この反対意見や批判者の存在によって、我々は自らの分析の欠点に気づき、さらに資料を探し求めそれを検討してみるという、当たり前であるがなかなか達成できないエクササイズが体現できたわけです。ディベートの程度は年度によって差がありますが、次第にミンククジラの頭数が増えていることは、ほかのデータからも明らかになってきて、また捕鯨を取り巻く情勢も変わり、捕鯨に反対だから性成熟の若齢化に異議を唱えるという状況ではなくなってきました。

 こうして、1997年9月に開催されたIWC科学委員会の特別作業部会において、ミンククジラの若齢化は真の現象であるとする結論に達して、足かけ17年にわたって論議されてきたこの問題にいちおうの決着がつきました。長い間この研究に取り組んできた身としては、非常に感慨深いものがあり、正直全身から力の抜ける思いでしたね。
シロナスクジラの生息数の減少(オレンジ色)と耳垢栓変異相から求めたミンククジラ性成熟年齢の若齢化(水色)の比較。共に南極海対象。Kato (1987), Kato and Sakuramoto (1991)及び加藤(1998)を基に作成。

南半球産ミンククジラの年級群(生まれた年代)別の成長曲線。若い年級ほど体長が大きくなっていることが分かる。Kato (1987)及び加藤(1998)より転載。

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