第16回 水のLCAが必要と呼びかける 沖大幹さん

水危機の本質は、ノドの渇きではなく 食糧不足による飢饉のおそれだ。

プロフィール
1987年東京大学工学部土木工学科卒。1989年同大学院土木工学研究科修了。東京大学生産技術研究所講師を経て1997年 東京大学助教授、2002年 文部科学省大学共同利用機関 総合地球環境学研究所 助教授。専門はグローバルな水循環と水資源の研究。工学博士。第2回World Water Forumでは、国際水資源学会・ストックホルム国際水資源研究所・第三世界水資源センターによって、「将来の水指導者14人」のうちの1人に選ばれる。科学技術振興事業団・戦略的創造研究推進事業(JST /CREST)の『人間活動を考慮した世界水循環水資源モデル』プロジェクトをはじめ、水文学関連の多くの研究プロジェクトに参加。この7月には、日本における仮想水(バーチャルウォーター)の輸出入の推計を発表。注目を集めた。(個人HP

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食べ物をつくるために必要な水は、飲み水の1000倍

「20世紀は領土紛争の時代だったが、21世紀は水紛争の時代になるだろう」──水問題の深刻さを語るときにしばしば引用されるセラゲルディン前世銀副総裁の言葉だ。水に恵まれた日本に住む私たちには実感が乏しいが、水資源をめぐる国家対立は過去何度も起きているし、安全な水にアクセスできない人が世界の5分の1に達するといわれる。水問題は人類のさらなる紛争の火種となりかねないのだ。日本も、食料の形で輸入している水を計算に入れると、実は水の「輸入国」である。「日本人はもっと水問題に関心を持つべし」、と呼びかけるのが、文部科学省総合地球環境学研究所の沖大幹助教授だ。

──水問題というと、遠くの井戸まで水を汲みにいくこどもたちの姿が真っ先に連想されます。

 たしかに、前回の世界水フォーラムで発表された「世界水ビジョン」でも、世界60億人のうち、12億人が安全な水にアクセスできない状態にあり、毎年300万人〜400万人が水に関連した病気で命を失っていると警告を発しています。飲み水の問題は、貧困対策と同様に世界の大きな社会問題となっています。でも、これは水問題の一面にすぎません。

──といいますと?

 飲み水は、利用される水資源の量としてはごくわずかなんです。考えてもみてください。人間が1日に飲む水は2リットルあれば十分。年間でいうと一人1立方メートルもあればすむ。よくミネラルウォーターは石油より高いと揶揄されますが、それはボトル入りの水に限っての話。嗜好品だからです。水道水なら1リットル0.1円〜0.2円にすぎません。国際的にみても水道水は1トン1ドルが相場で、こんなに安い資源はほかにない。鉄クズだって、古紙だってトンあたり2000円〜3000円はする。その水道水を、日本人は一人1日330リットル、年間120立方メートル使うといわれています。つまり生活用水として使っている水が、飲み水の100倍以上あるわけです。さらに、食べ物をつくるときはその10倍必要とされます。米や小麦をつくるために必要なだけでなく、牛を育てるにはトウモロコシがいる。牛の可食部を1kg増やすためには13倍の穀物が必要です。それをカウントすると、先進国では1人あたり年間1000立方メートルもの水を使っていることになる。

──食べ物をつくるために必要な水は、飲み水の1000倍ということですね。

 そうです。その水が足りない。今後途上国を中心にしてますます人口が増加していく。その食糧需要をまかなうだけの農業用水がないんです。過去30〜40年の統計を見てみますと、農地面積は増えておらず、耕地面積あたりの収穫高が伸びているわけですが、これは肥料や品種改良の成果もありますが、灌漑が大きな要因だったんですね。しかも、反収が多い品種というのは、水のコントロールが非常に重要なのです。農地面積はもはや限界に近いのに、水がもっと必要とされる。それがアフリカや中国、インドなど、いまも水危機が叫ばれている地域に起きる。食料をつくるための水を確保できるか? 灌漑施設をつくれるか? それが不可能なら、国際マーケットから買うだけの経済力が途上国につくか? ここでも人口増と貧困問題という、地球環境問題の本質に帰着するのです。つまり水危機というのは、地表から水がなくなるわけではなく、途上国の人々が安く入手できる水がないこと、または食料が買えないこと。ノドが渇いて死ぬのではなく、おなかがすいて死ぬことなんです。

──現在の食料生産の状況はどうなんでしょう?

 グローバルに見ると、現在は若干あまり気味です。ただ今後不足することは間違いがない。ことに途上国では食料も水も足りなくなります。食料需要が増えると国際価格が上昇しますから、生産のモチベーションが上がる。そうなると中国でももっと作るようになるはずで、その効果をどう見積もるかというあたりは難しいところですが。

──温暖化が進みますよね。雨の降り方も変化するのでは。

 水ストレスの高いアジアモンスーン地域で降水量などが多少増えるというシミュレーションもありますが、今後20〜30年のオーダーで考えると、途上国にとっては、地球温暖化より人口増の影響が支配的です。2025年ごろまでの人口の伸びがいちばん厳しい。この時期をどう乗り切るかが勝負です。

──食料増産が期待できるとすると?

 アメリカやフランス、カナダなどの先進国でしょうね。こんな状況下で、先進国で食料を大量に輸入しているのは日本くらいのものですよ。

日常生活の水の間接消費を浮き彫りにしたい。

──その日本ですが、食料の形で輸入している水の量を勘定に入れると水の輸入国だとか。

 バーチャルウォーター、「仮想水」あるいは「間接水」のことですね。これはロンドン大学のアンソニー・アラン教授が、中東地域に水紛争が少ないのはなぜかを説明するために持ち出した概念なんです。つまり中東は、一番の水利用セクターの農業に水を使っておらず、オイルマネーで食料を買っているから大丈夫なんだと。このようにモノや食料を生産するには水資源が必要ですが、国際的な食物の輸出入は、バーチャルウォーターを輸出入していることだとする考え方です。

──それを日本の場合で実際に算定したわけですね。

 「1キロの小麦を作るには1トンの水が必要」などという数字が一人歩きしていますが、その出典がどこにも書いてなかったんです。それなら日本で灌漑して育てたらどうなるか、自分で調べてみようと始めました。そうすると、光合成効率の良いトウモロコシでも、人間が食べる粒の部分だけを考えると、重量あたり2000倍の水、大豆は3400倍、小麦粉では4500倍、精米後の米では約8000倍の水を利用していることがわかった。この「水消費原単位」と、年間の輸入量とをかけあわせて、体系的に推計したわけです。穀物の場合、年間約500億トンのバーチャルウォーターを輸入しています。
 同様に、畜産の場合は、鶏肉・豚肉・牛肉について、1キロあたりどれくらいの水が必要か、飼料や生育期間、1頭あたりの肉の量からはじき出す。工業製品も、出荷額あたりどれくらい工業用水を使っているかを計算したのですが、こちらは工場内で80%近くを再利用していますし、穀物や畜産に比べると2ケタほど低い数字になります。
 こうして1年間に日本が輸入しているバーチャルウォーターを計算すると、合計1000億トン。日本国内での水資源使用量は900億トンですから、国内で使うのと同じぐらいの量の水を海外に頼っていることがわかりました。

 現在、値の見直しを行なっていて、ここに示した数字の半分程度になりそうですが、それでも国内で農業生産に利用しているのと同じ程度のバーチャルウォーターを海外から輸入している勘定になっています。

──バーチャルウォーターの輸入先を国別に見ると、1位がアメリカ、2位オーストラリア、3位がカナダとなっています。

 水の消費量の大きい牛肉を、アメリカやオーストラリアに頼っていることが大きいですね。実際にバーチャルウォーターをはじき出す前は、日本が途上国の淡水資源を圧迫しているのではないかという懸念もあったんですが、淡水管理が比較的しっかりなされている国からの輸入が多かったので安心しました。途上国の水を搾取していないならかまわないじゃないかという声も聞こえてきそうですが、アメリカの農業が持続的か、となると疑問符もつきますし、日本のことだけを考えても、毎年琵琶湖の貯水量の3.7倍もの水を海外に依存しているわけで、クルマや家電メーカーが外貨を稼いでくれないと維持できないわけです。水赤字の現状にもっと関心を持ってほしいですね。

──ふだんから節水につとめるとか。

 もちろん節水も大切ですが、残飯の少ない食生活がもっと重要です。何度も言いますが、水利用の最大のセクターは、食べ物をつくるための水なんですから。
 実はいま水のLCA(Life Cycle Assessment)を出せないかと研究してるんですよ。よく、製品をつくるのに二酸化炭素をどれだけ排出しているか、エネルギーをどれだけ使っているか数字であらわすでしょ。それと同様に、牛丼1杯あたり9立方メートルの水資源が利用されているとか、パソコン1台につき、製造から解体・リサイクルまでどれくらいの水資源が必要かとか、マクロな視点から私たちの水の間接消費を把握できるようにしたい。そうすると日常生活でももっと水を意識するようになるし、省水資源的な生き方を自分で選べるようになるんじゃないかなぁ。

 これまでも人工衛星を使って、土壌が含む水分量を地球規模で観測して雨の季節予報の精度向上に役立てたり、世界の大河川の水域をコンピュータモデルで再現し、温暖化や森林伐採が陸上の水循環にどんな影響を与えるかなどの研究を行ってきた。「自然科学の知識と、人間社会の問題とを結びつける研究に興味がある」と話す。土木を専攻したのも、まさにそうした自然科学と社会科学を結びつけて社会全体の問題を解決していく分野だったから。

 専門の研究のほかにも、次世代への責任を意識したモノづくりや社会システムを考えていくために、仲間の研究者達と「千年持続学会」を立ち上げようと構想中だ。
「過去の遺産を食いつぶしていると罪悪感にとらわれるのではなく、これから100年、1000年後にも使われるものを、未来に向かって生み出して行くんだという前向きな力が、今こそ必要だと思うんです」。


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