ECOLOGUE この人に会いたい

第4回 千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター
所長 古田貴之さん

ロボットは、私たちの幸せや夢を実現するための技術のプラットホームだ。

プロフィール
1968年東京生まれ。3歳の時からロボット・エンジニアになろうと考えていた。94年 青山学院大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士前期課程修了。96年 同博士後期課程を中途退学し、同大学 理工学部機械工学科助手に。助手時代にヒューマノイドロボット開発プロジェクトを立ち上げ、搭載したカメラによるビジュアルフィードバックで、サッカーのゴールキックを行い話題を呼ぶ。2000年 工学博士。2001年 科学技術振興事業団ERATO北野共生システムプロジェクト 共生系知能グループ・グループリーダー。ここで開発した人間型ロボット「morph」は、空手の正拳突きやバック転もこなす。2003年6月、未来ロボット技術研究センター設立にあたって、morph3開発チームとともに移籍、同センター所長に就任。「ヒューマノイドロボットは、ロボットの形態の一部に過ぎない。ロボットにはもっと多様な可能性がある」を持論に、「人と環境にやさしいロボット」の開発をめざしている。

古田貴之さん
ヒューマノイドロボットが急速に進化している。二足歩行はあたりまえ、よりしなやかに、よりスピーディに、より賢く。私たちはヒューマノイドロボットに何を求めているのだろう? 人間のかわりに危険なことをやらせる存在? それとも人間の友達?? 鉄腕アトムはまだまだ未来の話とはいえ、人間とロボットの共存する未来がどんなものになるのか、興味は尽きない。「ぼくがロボットの開発を行っているのは、機械文明をさらに進めるためではなく、人間の幸せのために技術工学を進化させるプラットホームになるからです」と古田さんは語る。
ヒューマノイドロボット「morph3」や、段差のある道を苦もなく走る自動車型ロボット「ハルキゲニア01」を開発、21世紀のロボット工学のリーダーとして注目を集める異才に、ロボットの現状と未来を聞く。

だれもが乗ってみたくなる脚椅子ロボットをつくりたい

中学生のとき、車椅子生活を余儀なくされた古田さんは、自分の脚となって歩いてくれるロボットをつくろうと考えた。モーターとセンサーとコンピュータを積み込んだ人間の役に立ってくれる動く機械、それが古田さんが考えるロボットの定義だ。

──いま、ロボット開発に携わっている多くの研究者や技術者は、手塚治虫さんの「鉄腕アトム」にあこがれてこの道に入ったといわれていますね。古田さんも「鉄腕アトム」に影響を受けたお一人ですか。

 そうですね、ぼくが最初に出会ったロボットも、やはり「鉄腕アトム」でした。ちょうどテレビがモノクロからカラーに切り替わる時代で、ぼくはモノクロのアトムを見た最後の世代ではないでしょうか。でも、ぼくの場合はアトムそのものにあこがれたわけではなく、むしろお茶の水博士だった。3歳の頃から将来はロボット博士になると決めていて、「えらいのはアトムじゃなくて、天馬博士やお茶の水博士だ」と思っていましたから(笑)。

──機械いじりなんかも得意だったんですか。

 2歳から7歳まで親の仕事の関係でインドに住んでいたんですが、なにしろ外は猛烈に暑い。そこで家の中でレゴブロックでロボットを組み立てたり、機械を分解して遊んでばかりいました。日本に帰ってきてからも、カルチャーの違いなどもあって、あまり友人ができなかったものですから、やはり母親が与えてくれたプラモデルづくりに熱中しましたね。ちょうどその頃、日本のテレビでは巨大ロボット「マジンガーZ」が人気で、強くて、かっこよくて、しかも空も飛んでしまう! でも、ここでもぼくはマジンガーZより、この巨大ロボットを作り出した兜十蔵博士のほうがえらいと思っていた(笑)。

──鉄腕アトムもマジンガーZも、人間型ロボットですね。古田さんの中では、ロボットはやはり人間の形をしていたわけですか。

古田さんがイメージした脚椅子ロボットのスケッチ

 最初はそうでしたね。子供心に、いつか巨大な人間の形をしたロボットをつくってやるって思っていましたから。でも、中学生のとき、脊髄の病気をして車椅子生活を送ることになって、ロボットに対する考え方が根本的に変わってしまったんです。ボランティアに頼らずとも、車椅子に足をつけて、どこにでも行けるようなものをつくりたい。それに障害物をよけたり、落ちたものを拾えるように目もつけたい。障害のある人だけでなく、だれでも乗ってみたくなるような格好のいい、自律歩行する車椅子、つまり、脚椅子ロボットをつくりたかった。それはぼくだけの願いだけでなく、車椅子を使っている人ならだれでもほしいのではないかと考えたんです。

 人間の形をしているかどうかより、人の役に立つロボットをつくって後に残すことができたら、自分と同じ境遇にいる人は喜ぶに違いない、そう思ったときから、鉄腕アトムもマジンガーZも目の前から消えていました。ぼくの中では人間の形をしたヒューマノイドロボットは、ロボットの一部でしかなくなっていった。ロボットとはコンピュータとモーターとセンサーを積み込んだ機械であり、人間の役に立つ道具だと。
 たとえば、掃除をさせるロボットは人間の形をしている必要はないですよね。人間型のロボットに掃除機を持たせるより、掃除機にモーターをつけ自走させたほうがいいに決まっています。

──なるほど、それで実際に脚椅子ロボットをつくるためには、どんな勉強が必要だと考えたんですか。

 ただの機械やからくり人形のようなものではダメで、電気とコンピュータの知識が必要だと思いました。ちょうどこの頃、NEC からTK-80というマイコンのキットが発売されるなど、コンピュータが個人で買える時代になってきた。プログラムの勉強をしたいといったら、両親がポケットコンピュータを買ってくれたんです。
 最初はゲームをプログラムすることからはじめて、次第に知識を身につけていったんですが、パソコンとつなげば機械を制御できることに気づいたのもこの頃でした。それは脚椅子ロボットをつくるうえで、とても重要な知識でした。

──車椅子の生活はずっと続いたんですか。

 半年ほどしてから、このまま入院していてもこれ以上よくならないと医者からサジを投げられて、退院したんです。でも、なんとかして車椅子を使わずに歩きたい。足がふらついても、上半身の力さえあれば、杖をつっかえ棒のようにして歩くことができることがわかってきて、必死に杖で進むうちに、奇蹟的というのでしょうか、歩けるようになったんです。
 歩けるようになって嬉しかったのは、秋葉原にひとりで行けるようになったことです。脚椅子ロボットに使える部品を探し回りましたね。モーターやセンサーなどを買ってきて、いろいろ工夫していると、この技術の延長線上に脚椅子ロボットがありそうだという予感がしてきたんです。

──それではもう高校生のときに、脚椅子ロボットの夢が実現できそうになったんですか。

 いえいえ、それほど簡単なものではありませんよ。たとえば、ラジコンのクルマが動くのは、人間は頭が良くて操作できるからなんです。急発進させてもタイヤがスリップしないのは、人間が力を加減して制御しているから。コンピュータの指令だけでラジコンのクルマが操作できるかというと、とてもできないでしょう。脚椅子ロボットをつくるためには、もっと高度な運動制御や人工知能、さらには画像処理技術を身につける必要があることを痛感しました。
 高校を卒業したその年、1988年に青山学院大学の理工学部に、ロボットのエライ先生がアメリカからやってくると聞きました。富山健先生がその人で、カリフォルニア大学でシステムサイエンスを学び、テキサス大学やペンシルベニア大学などで教鞭を取っていた。富山先生について学ぼうと、青山学院大学に進学することを決めたんです。

鉄腕アトムより、アトムを作った天馬博士やお茶の水博士がえらい!
3歳のときから、将来はロボット博士になると決めていた。

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